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第11話 伝承

 扉を素早く開け放ち、外へと飛び出したツバキナが見たものは、崩れた崖に押しつぶされた家屋。


 その近くに人だかりもできている。



 怪我人が出たのかもしれない。


 咄嗟にそう思ったが、崖が崩れて道がなくなってしまっていた。



 しかし、そこで立ち止まっている暇は一瞬さえも赦されない。


 背後からはエソトオが追ってくる。


 身軽な彼は足場など必要としない。



 懸命に逃げたところで、すぐにでも追いつかれてしまうだろう。



 土砂や岩に遮られ崖下へは進めない。


 でも足を止めるわけにもいかない。



 反射的に今にも噴火しそうな山へ向かって駆けだしたツバキナの頭には、先ほどのチヤギの言葉が浮かんでいた。



 ――スミナダドウ


 ――マダクシ。



 その名前には聞き覚えがある。



 希薄な記憶を辿っていく。


 やがて、朧気だがツバキナの頭にその正体が浮かんできた。


 エィヌ島に伝わる比較的新しい伝承だ。



 五十年ほど前。


 遭難した船をこの島の村民たちが助けたという話の中に、確かそんな名前があったと思う。



 詳細は知らないが、たくさんの犠牲者を慰霊するために祠堂を建てたと聞いている。



 ツバキナがこの島に渡ってきた頃も、時々地震が起きていた。


 崖崩れや地滑りの危険があるから近寄ってはならないと言われ、ツバキナは実際に祠を訪れたことはない。



 しかし、村人たちにとってはとても大切な祠堂のようで、交代で手入れを行ってきたらしい。



 そしてその祠に、難破した船も大切に保管されているのだと聞いたような気がする。



 ――みんなを助けるためには船が必要だ。



 それも、島の人たち全てを乗せられるだけの大きな船が。



 落ち葉や枝に足を取られながら、ツバキナは山へと続く道を走っていく。


 その間にも、地面が時折大きく揺れる。



 身体が熱い。


 気温もぐんと高くなってきたと感じるのは、気のせいではないだろう。



 それに、鼻を突くこの臭い。


 きっと火山ガスの一種なのだろう。


 硫化水素のような不吉な臭いが火山から流れ出てきている。



 噴火が近い。


 命の刻限が迫っている。



 ――間に合うだろうか。



 祠に辿り着いたところで、ツバキナのような小娘に何ができるという保証もない。


 走りずくめで息が苦しい。


 山から流れ出た毒のせいなのか、時々頭がくらくらする。


 けれど、立ち止まるなどできない。



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