第1話 チヤギの決断
天地を揺さぶる嵐の後。
エィヌ島の小さな村は、澄んだ空気と満天の星空に包まれていた。
しかし孤島を包む晴天とは裏腹に、村長の家に参集した村人たちの心は荒波に晒されている。
「どうする……」
「ああ、この島にはもう何もない」
「可哀想だが、これ以上は……」
逼迫した声が、冷えた板間の床へと落ちた。
限りなく絶望に近い闇を纏った声音。
もう一歩も後がない。
まるで、断崖絶壁に佇んでいるかのような――。
「いいえ……まだ鶏がいるわ。それに牛だって」
暗澹とした空気を、凛とした女の声が貫いた。
「チ、チヤギ様!」
奥の部屋から颯爽と現れた村長の娘チヤギは、神妙な面持ちのまま集った人々の顔をゆっくりと見回す。
一人ひとりの目に訴えかけるよう、しっかりと強い光を瞳に宿して。
「でも、家畜を食べてしまったら俺たちは――」
「そ、そうです! あたしたちだって助けてあげたいという気持ちは同じです。でも、よく分からない土地の人たちのために――」
「ヨウレムの家には赤子もいます。もしも乳が出なくなったりしたら……」
悲痛な声がチヤギへと投げつけられる。
が、どの言葉も決して彼女を責めているわけではない。
村民も皆、複雑な心境でいるのだ。
先日、エィヌの村は座礁した船の人間を救助した。
村人たちは総出で岩場の海岸から生き残った者たちを引きあげ、彼らを村へと運んだ。
しかしここは、エィヌ島に在る四十軒ばかりしか家のない極々小さな村。
傷だらけの船員たちを必死に看病してきたが、とても遭難した人々を養っていくほどの蓄えはない。
しかも嵐が続き漁に出られなかった日も多かった。
そのせいもあって、徐々に蓄えが無くなっていき、ついには食料が尽きてしまったのだ。
「だからって、あの人たちを見捨てられるの?」
慎ましく心優しい村の人々は、ぐっと声を詰まらせた。
そう、指摘されるまでもなく分かっている。
チヤギの言う通り、見捨てることなどできないのだ。
たとえこの村がただならぬ苦境に陥る状況を迎えたとしても。
遭難して多くの仲間を失った彼らは、体だけでなく心も深く傷ついている。
故郷に戻る目処も立たず、どんなにか不安に思っているだろう。
そんな彼らを島から放り出すなどできはしない。
今、自分たちにできる精一杯のことをしよう。
そうでなければ、いずれ自分たちは後悔の念に苛まれることになる。
彼らを見殺しにすれば、未来永劫この島は悔恨の渦に沈んでしまう。
命さえあればなんとかなる。
たとえ雑草を口にすることになろうとも。
生きてさえいられたらそれでいい。
必ず乗り越えられるはず。
村人たちは悲観的な考えを徐々に建設的な思考で塗り替えていった。
全員の気持ちが少しずつ固まっていく。
各々の表情に生気が回復していく。
そんな中、全ての憂いを拭いさるようなチヤギの声が凛々しく響いた。
「大丈夫。きっと神様が守ってくださるわ」