好きな子と目が合った
僕は物語を読むのが好きだ。
それは本だけじゃない。漫画だっていい。ドラマやアニメ、歴史の教科書だって人の物語だし、ゲームのシナリオパートも似たようなものだ。
そういうストーリーを思い浮かべている時はとても楽しいものだ
だが本は特に良い。目で文字を追う過程、紙をめくる時まで楽しい。
そして本1つ1つに別の世界が広がっているように感じる。そんな本に囲まれていると、これもまたとても楽しい気分になる。
だから僕は図書委員になった。
その選択をこれほどまでに正しかったと思う事になるとは想像していなかった。
そう、その日僕は運命に出会ったんだ。
高校1年の春
図書委員は図書室に集まる。図書委員の仕事や目標などが伝えられていく。
なんだか緊張してずっと下を向いていたら当番の順番が決まっていた。
この時当番のペアになったのが彼女だ。
ひと目見た瞬間この人だ、と何故か確信した。
目を半ば隠す腰まで伸びる長い黒髪。全体的に小さい身体。少しだけ大きな制服。
なぜこの人なのか考えても分からない。
これは一目惚れなのだろうか?
「よろしく。」
たったそれだけだったがこの時の声は一生忘れない気がする。
僕も彼女も話しをするのが苦手だ。その日は他には一切喋る事なく互いに自分の持ってきた本を読み始め、委員会が終わった。
当番の時でさえも彼女と話すことはなかった。
僕も彼女も仕事の時に少し声をかけるだけで会話はない。
人が来ない時は2人とも本を読んでいたが、ずっと隣にいるだけでも落ち着いた気分になる。
僕は彼女が好きだ。
2人でいる時の空気感も、たまに聞こえる声も、沢山本を持つと危なっかしい華奢な身体も、全て大好きだ。
それを分かっていてなお、僕は話しかけられない。
何度か話しかけてみようと頑張ったがどうしても緊張で声が出てくれない。
一度諦めるとその空気感に安心してしまう。
なんとか成功したのは1回だけだった。
「ね、ねぇ。昨日公開した映画、原作はこの本なんだけど読んだことある?」
あまり表情は分からないが、口元を見れば少し驚いているように思えた。
「えっ、はい。凄く面白いですよね?」
「そう、昨日映画を観に行ったらストーリーもさることながらアクションシーンもコミカルだったり真剣だったりと凄く面白かったんだ。
だから思わずその日の帰りに原作を買っちゃった。
もしまだなら映画観てみるといいよ。」
「ありがとうございます。少し気になっていたので行ってみますね。」
たったこれだけ。
喋れたことが嬉しくて自分が話したいことを言いすぎてしまったが、この日のやりとりを1週間は夢に見た。
この一度のせいで燃え尽きてしまった感も否めない。
その後に自分から話しかける事は出来なかった。
だからダメだったんだろう。
何も起きず一年が過ぎ、僕たちは2年生になった。
春休み中はどうして図書委員の当番中にもっと話しかけなかったのかと自分を責めたが、新学期が始まると僕は喜びに打ち震えた。
彼女と同じクラスだ。
喜んだのもつかの間、彼女との距離はむしろ遠くなっている気がした。
彼女の席は教室の一番後ろで、僕の席は前から二番目である。二人っきりの時ですら話しかけられなかったのに、こんな状況で話しかける勇気は持ち合わせていない。
僕はもっぱら1年の時からの友人とゲームの話をしていた。
たまに話の途中でも彼女の方向をうかがってみるが、大抵はまだ名前の覚えられない女子生徒と一緒にいてなにやら楽しそうに話をしている。声は聞こえない。
一人の時もあるが、ずっと本を読んでいるのだ。早々に心が折れた。どうすることもできないし恋心なんて早く忘れてしまおうと決意した。
しかし、この決意がどこかへ行ってしまうのは割とすぐの出来事だった。
この時もいつものように友人と話をしていた。
「はぁ⁈お前マジでこの娘推しなの?ロリコンかよ。」
「確かにロリコンの気配があることは認めるが、日本人は皆ロリコンだろう?何も問題ないだろうが。」
「なんなのその謎理論。意味わかんねぇぞ。」
確かにここ最近は、体も胸も小さめで髪がさらさらと流れるように長いキャラを好んで育てている事が多い。
とはいうものの、ここ一年でゲームのキャラにも彼女の影を追い求めていたらしい。
「なぁロリコンよ。お姉さん系が1番良いってわからないか?なんと言っても包容力が凄いだろ。
あ、そうだ。この子なんてどうだ?包容力を感じないか?」
「お前は体の一部分を見てそう言ってないか?
そして、ロリコン的視点から言わせてもらおう。ロリ巨乳は邪道だ!
いや、価値観は色々あるから否定はしないがあえて言わせてくれ。ロリは小さいから可愛いのに何故無駄肉をつける?」
「なんか本気でロリコンなんだな。心配になってくるわ。
実際ロリ巨乳は現実でお目にかかる事はないし、2次元限定だって割り切ってるだろ。」
「そりゃそうだけどね。人の性癖はそれぞれだからな。」
「2次元の好みを現実でもってのも違うしな。
そういえばお前は好きな人いないの?もちろん現実の話だぞ。」
「おいいきなり声でかいよ。いやまぁ、僕は特にいないけど。」
口ではそういったものの彼女のことが頭をよぎり、つい彼女の方を見てしまった。
目が合った。
妄想なんかじゃない。夢でも幻でもない、紛れもなく現実だ。
本から目を上げ、前髪の隙間から片目だけ覗いていた。
その目は驚きでわずかに見開かれ、口元は微妙に上がっている。きっと僕も同じような顔をしているだろうと思う。
この瞬間、僕はあきらめるのをやめた。
彼女に運命を感じたのだ、この人しかいないと。
だからもう少し頑張ってみようと思う。まずはあいさつをしよう。次は話題を見つけて話しかけよう。
大丈夫、きっとできるはずだ。同じクラスになれたんだからチャンスは間違いなくある。
僕がそんなことを考えていたこの時、どこかから鐘の音が聞こえてきた。
to be continued………って感じですが続きません。続けたいとは思うのですが、良い展開が思いつきませんでした。
短くてすみません。次はもっと頑張ります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。