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シンプル風船

作者: nano

ここは東京の都会の真ん中。今日も不思議な風船を両手にカラクリピエロが踊り回る。

「坊や、この風船はいらんかね?」

彼は、まるで2019年の映画「ジョーカー」の主人公のごとくメイクをほどこした顔面に、水玉模様のピエロファッションに身を包んで、道行く少年に語りかけた。

「欲しい」と少年。

「はい、坊や」

少年は受け取った。

するとピエロは、すかさず一本の針をくり出して、少年の風船に突き刺した。すると、風船は「パシャーン」と破裂し、少年を驚愕させた。

そして、「なにコレ気持ち悪い〜」

少年の上半身に生温かいコーンポタージュが降りかかっていた。

「キャハハハハハ、だ〜まさ〜れた〜」

少年「ん〜〜、え〜〜ん」


そして、ピエロを毎日のように見ている通行人ーー。

「またやってるのか…。呆れたもんだな」

「今度はコーンポタージュか、よくやるよ」

「トマトソースに、スライム、今日はコーンポタージュときたか…」

通行人は皆、呆れ顔だ。

そう、彼、カラクリピエロは風船をさも親切に配るかのように見せかけて、毎回初見の子どもを見つけては風船を渡し、すぐに破ってみせて、その中に何かしらのイタズラをほどこしていたのであった。


そして、ある通行人が言った。

「シンプルな風船は作れないのかねぇ」

そしてこのワードが彼の、ピエロの脳天を突き刺した。

「シンプル、な…風船?」

彼は思索を深めた。

仕掛けをほどこした風船でなきゃ面白くないと信じてやってきたが、ここで「シンプルな風船」というアイテムに何か天啓に似たものを感じた。

「やって…、みるか」

そして次の日ーー。

「坊や、風船はいらんかね?」

「わーい、欲しい」

と、いつもの反応。

そしてカラクリピエロは、針で風船を破った。

「わっ!!!」と子ども。

しかし、仕掛けがない。

ピエロにとっても初めての感覚だ。

子ども「………」

ピエロ「………」

そしてしばらくの沈黙の中ーー。


「ワハハハハハ」

子どもが笑い出した。

ピエロは泣いた。それは決して子どもが喜んだからではない。「くう」の風船が与えた「の境地」によるものだった。仕掛けなどいらなかったのだ。

それはまるで無駄なモノを排除した仏教のぜんの精神に通ずるものがあると彼は考えた。

「ワハハ、ワハハハハ」

彼は笑った。

そして彼は今、誰よりも達観していた。

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