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きみを救えるふりはできない

作者: 樟アベリア

 自分の両手で自分の首を絞めて、死ねるのだろうか。親指が喉を押し潰そうとして、口がわずかに開いて、やがて耐えきれずに咳き込む。ああやっぱり、と思う。


「おはよう」


「……おはよう」


 死ねなかったね、と言ってあげるか迷った。声がかすれていないことをからかうかと考えた。そういえばと、電子レンジでお茶を温めていたことを思い出した。


 背を向けると、激しい咳き込みが聞こえた。足を止めるかどうか。やめて、電子レンジに向かうという行動を続けるか。やめて、やはり足を止めた。首だけで少し振り向いて、尋ねる。


「包丁を持ってこようか」


 返事があったが、耳鳴りがして聞こえなかった。耳の穴に人差し指を突っ込んで雑音を起こしたり、耳たぶを引っ張って穴を広げたりしてみたが、かき消された以上の言葉は何も続かないようだった。聞きたくなかった。


 耳鳴りがする。首を絞めて死ねないなら、安全に作られた包丁でも死ねない。咳が聞こえた。咳き込む音が消えない。死ねばいいのに。電子レンジに呼ばれている。きみが、首を絞めて、死ぬなら、わたしは、きみを捨てて、生きていける……だろうか。


 わからない。


 うるさい電子レンジの中のマグカップを出して、シンクに中身を捨てた。マグカップをシンクに投げつけたいと思った。後始末が面倒だと思った。床に投げつけられたら、粉々に砕けたら、その上に裸足で歩けたら、いいのに。荒くシンクに転がしたマグカップは、欠けることすらなかった。


 自分の両手で自分の首を絞めてみる。ゆっくり、きみがそうしたように。喉を押し潰そうとして、口が開いて、苦しいと思うところまで、耐えられないところまで、続けてみようと思った。血の気が引いて、いや血が沸いたのか、どくどくと心臓の音が聞こえて、もう立っていられなかった。


 まったく、余計な怪我をした。あざにもならない程度だろうが、ぶつけた場所は痛い。これも、何もかもきみのせいだ。きみが、死にたいなんて言ったから。わたしたちの未来を否定するようなことを、言ったから。きみが、死にたかったなんて。私には。

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