哀悼
むかしむかしあるところに、とても心の優しい神様がいました。神様は1人が寂しかったので、宇宙と星、そして、星に住む生物たちを生み出しました。しかし、寂しくないようにとたくさんの種類の生物を作った際、必要のない生物までも創ってしまいました。とても小さな、他の種族には見えもしないもの、ウイルスです。ウイルスは、多くの生物を殺しました。怒った神様は、ウイルスを消し、いくつかの加護を生き残った生物たちに与えました。ある生物には、誰よりも速い足を、ある生物には、誰よりも強靭な牙を、そして、ある生物には、誰よりもたくさんの知識をあたえました。
知識を糧に力をつけ、知恵までも身につけたある生物は自らを人と呼び、その星の支配者となりました。人は神様の存在に唯一気がつき、神様に敬意を払うようになりました。神様は、それはそれは喜びました。
ですが、1つ問題がありました。神様は人に愛着が湧いてしまい、彼らをより注目するようになってしまったのです。無理もありません。唯一、優しくて、寂しがりやな神様をを認識してくれた生物なのですから。
生物は神様より早く死にます。人間も同様です。動物は死ぬ時にハッキリと意思を示しません。ですが、人間は自分の意思をハッキリと示します。もちろん、死ぬ時もです。神様は、人間の"死にたくない!"とか、"死なないでくれ!"という悲痛な叫びを聞いて、とても心を痛めました。神様は死んだ生物を生き返らす方法と、死ななくなる方法を探りました。しかし、見つかりませんでした。当たり前のことです。始まりがあるからには、終わりがあります。生物だろうが神様だろうが、その輪から逃れることはできません。神様は、その事実を知り、とても悲しみました。神様は、せめて彼らの終わりだけでも、受け止め、悲しみ、慰めようとしました。
しかし、そんなことはできませんでした。神様は優しすぎたのです。人だけならまだしも、星に存在する全ての終わりを、受け止め、悲しみ、慰めてしまったのです。たくさんの物や生物の死に囲まれ、悲しみに囲まれ、神様はだんだんと壊れていきました。
悲しみは、加速していきました。星は、どんどん発展していき、たくさんの生物にさらなる死と生を与えました。人は急激に増え、他の生物たちは急激に減っていきました。むかしの神様なら、きっと人に罰を与えていたのでしょう。ですが、今の神様には、無理な話です。神様は悲しみを抱えるのに、いっぱいいっぱいで、とても星を見られるような状態ではありません。やがて神様は、星の管理を完全に放棄するようになりました。
時が経つにつれ、人は神様のことを忘れていきました。今まで払っていた神様への敬意は、だんだんと少なくなっていきました。かわりに、神様よりも人に対して、敬意を払うようになっていきました。
やがて、神様は気がつきます。生物が死ぬから悲しいのならば、生物を生まなければ良いのだということに。悲しみにくれ、知恵を失った神様は思い出します。むかし創り、自分自身の手で消したウイルスのことです。しかし、消したものはもう二度と戻りません。なので、神様はむかし消したウイルスの模造品を創ることにしました。半分は生物の要素を取り入れ、半分は星の要素をとりいれたのです。神様の力によってウイルスは、星中にばら撒かれました。
ウイルスは、生物を平等に、分け隔てなく殺していきました。たくさんの生物が短い期間でどんどんと死んでいきます。神様はいっそう悲しみましたが、これで悲しみをなくすことができると、ホッとしてもいました。
ですが、そう簡単に事は進みませんでした。人の存在です。人は、目に見えないはずのウイルスを見つけ出し、対策を立て始めました。やがて、ウイルスは生物にとって、脅威ではなくなりました。人の持つ、知識と知恵により、ウイルスに打ち勝ったのです。
管理者がいなくなった星は、やがて、人が管理者として台頭していきました。知識と知恵を持つ人が、神様の代わりをすることになったのです。
神様は今でも悲しみの中で、悲しみが終わるのをひたすらに待ち続けています。しかし、悲しみは終わりません。星と生物は、今も始まりと終わりを廻りつづけています。
神様は今、何を思っているんでしょうか?