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Fake Ghost Vox  作者: uki
8/10

銀色

SIDE  レイ

落ちるのはきっと初めてじゃない。

直感的にそう思った。走馬燈っていうのかしら。

いや、きっとこれは失った記憶。

落ちる瞬間に私を見下ろしている彼。

鬼の形相で何かを叫んでいる。既視感。デジャビュだっけ?

私は高いところから落ちて死んだ。これは紛れもない事実のはず。

つまりそういうこと。もう疲れた。幽霊って死んだらどうなるのかしら。

もうどうでもいいわ。私は覚悟とも呼べない諦めを決めた。


「まったく。あなたという人は・・」

激突の瞬間何かが私を受け止めた。恐る恐る目を開くと、仮面の男がいた。

「え?」

状況が理解できない。何が起こったの?

「何度落ちれば気が済むんですかあなたは」

「何を言って・・・」

私は気絶した。



レイを助けたのは意外な人物だった。

仮面の男が驚くほどスマートにレイを受け止めていた。

地上10階建てから落ちた人間を受けとめたら確実に無事では済まないのに。

幽霊だからか?それとも仮面の男が超人なのか。

そんなことよりレイは無事なのか。俺は急いで階段を下りた。


転げ落ちるように階段を下りた先に仮面の男がいた。

「お前なんなんだよ?レイをどうする気だ?」

いつもまともに会話もせずに消えちまう奴、だが今回ばかりは消えられるわけにはいかない。

レイは向こうの手にある。

「どうする気?おかしな事を言いますね?たった今あなたが殺したのに」

相変わらず表情が見えず感情が伺えない。だが口調からなんとなくわかる。

俺は今試されている。

「俺はっ!」

「言わずとも結構!あなたは何も悪くない。少しからかっただけです」

飄々と俺の怒りを躱す仮面の男。

「ふざけやがって!」

冷静になれ俺。冷静に。

「あなたはまた助けられない。でもそれでいいのです。彼女はだからこそ諦めてくれる」

またわけのわからないことを言っている。

「いいから説明しろ!誰なんだよお前?」

「今はこれ以上言えることはありません。知りたければ追ってきなさい」

そう言って奴は風と共に消えた。古ぼけた鍵を残して。


帰ってきた。久々に過ごす一人だけの家は何故か広く感じた。

「手がかりはこいつだけか」

左手で鍵を弄ぶ。追ってこいっつってもどこにだよ。

鍵があったところでこの街に扉がいくつあると思ってるんだ。

ヒントなんてどこにも・・・

「いやあるっ!」

そうだ。森の奥の廃墟に開かずの間があったじゃないか。

今は行くしかない。

夜だとか暗いだとか関係ない。俺は前回はレイに任せた装備を整えて廃墟に向かった。


ユキウサギの足跡もないのに驚くほどあっさりと俺は辿り着いていた。

これはもはや何かに導かれているとしか思えない。

「怖がってる場合じゃないよな」

自分を奮い立たせる。懐中電灯を構え直し俺は建物に入っていった。


この前は昼間に来たからまだ少しは光も見えたが、今は完全な暗闇だ。

余計なことは考えるな。俺はただまっすぐに開かずの間を目指した。

途中に俺の空けた穴から光が漏れ出していたが今は無視した。


ごくり。

「開けるぞ」

誰もいないのに声を出すのは自分が一人だと思いたくないからだ。

鍵はすんなりと回った。やっぱりこの場所だったんだ。


部屋の中は真っ暗だったが一か所だけ明るい場所があった。

不気味に光っているそれはどうやらPCのようだ。

近づいて確認してみるとログイン画面が表示されていた。

「パスワードを入力してください」

突然PCが喋りだした。

「わっ!」

こんな状況でいきなり音がしたら誰だってビビる。

「なんだよ機械音声か。ビビらせんなよ」

「すみません」

「え?」

「驚かせてしまってすみません。私はサポートAIのリンです。ご利用ならばパスワードを入力してください」

「AIだと?パスワードなんて知らねーよ」

深夜の廃墟でPCとお喋り。なんか面白い状況だな。

「パスワードをお忘れですか?ヒントはユーザー様のフルネームと登録されています」

フルネーム?俺が知ってるのは名前だけだ。

「何かヒントはないか?」

PCをひっくり返して隅々まで見渡すと(一希)と書かれたステッカーが貼ってあった。

「名前はいいんだよ。今必要なのは苗字」

機械にあたっても仕方ない。俺は部屋の探索を続けることにした。

にしても暗いな。何か明かりがあれば。

「あった」


机の上に小さいけど豆電球を発見した。どうやらまだ使えるようだ。

明かりをつける。明らかになった部屋の全貌はどうやら書斎のようだ。

中央に大きな机。その上には本や紙が散らばっている。壁には本棚があり、まぁよくある書斎といった感じで。何も変わったことはない。

「ん?なんだあれ?」

俺の瞳は机の上にある古ぼけた日記にくぎ付けになった。俺はあれを見たことがある。

何故かそう感じた。

俺は日記を軽く読むことにした。


4/7

なんとか補欠合格した学校だけど俺は高校デビューに燃えていた。

まずは自己紹介。新しいクラスの連中に俺という存在をアピールする最高の機会だ。

とっておきの一発ギャグも用意して俺はその時を待った。


なんだこれ?誰の日記だ?あまりにくだらない。読み進めるか悩んだが他に手がかりも無さそうだし俺はページを更にめくることにした。


4/8

自己紹介で盛大に滑り散らかした俺に優しく声を掛けてくれたのは後ろの席のニノだった。

俺たちは登校初日にも関わらず下ネタトークで盛り上がった。謎のシンパシーを感じていた。

ニノって呼んだらあいつは、アイドルみたいなあだ名で呼ぶなよ。と怒った。

んじゃ名前で呼び捨てでいいか?って聞いたら、女みたいな名前が気にいらないからやめろだそうだ。わがままな奴。

俺は仕方なく相棒と呼ぶことにした。

俺の事は名前で呼んでくれといったが、なんかお前だけカッコいいから気にいらない。ということで信楽だからタヌキなんてあだ名を付けられた。安直にもほどがあるが、俺は気に留めなかった。


「これタヌキの日記か」

でも何で俺がニノなんだ?一希って別に言うほど女みたいな名前ではないような。

これはタヌキの事を知る手がかりだ。俺はさらに読み進めることにした。


6/15

やっぱり日記なんて毎日つけるほどの解消は俺にはなかった。だから何か大事なことがあった日にだけ書くことに。相棒に気になるやつができたらしい。隣のクラスの姫だ。

身の程を弁えろなんてつまらないことは言わない。俺は応援することにした。


俺の好きな人だと?隣のクラスってことは零子先輩ではないよな。

なんにせよ気になる。続きだ続き。と思ったが日記は汚れや破損などで読めないところがほとんどだった。かろうじて読めた最後のページにはこう書かれていた。


--/-4

姫の気持ちを理解しない相棒を初めて殴った。はなから諦めてるみたいな清々しい顔しやがって。ノゾミなんて名前負けしてんじゃねーか。***に負けるなよ。


読める部分はこれで全部だった。どうやら俺は何か大変な問題を抱えてしまっているらしい。そしてその近くにはタヌキがいて姫と呼ばれる人物がいる。

ノゾミって俺の事だよな。ってなると一ってのが苗字なのか。でも確かタヌキは俺の事をニノって。

「そういえば」

一って書いてニノマエって読むキャラが機械仕掛けのアイラインにいた気が。

ちなみにアイラインは俺の好きなエッチゲームだ。シナリオが秀逸だった。

ってなると俺のフルネームは

「ニノマエノゾミ・・か」


PCの前に戻ってパスワードを入力する。

NINOMAE NOZOMI。

「ログインを完了しました。おかえりなさいませマスター」

AIが告げる。これが俺の名前か。やっぱり記憶喪失なんだな。

ぜんぜんしっくりこない。

デスクトップには一つだけアイコンが残されていた。

苦労して手に入れた手がかりだ。俺は期待を胸にアイコンを強くダブルクリックした。

すると

「銀色ラブリッチュ!!あなたの名前を教えてね!」

暗い部屋に響き渡る萌えボイス。間違いなくこれは・・・エロゲだった。

「は?」

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