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Fake Ghost Vox  作者: uki
7/10

屋上の真実

4日目  すれ違い


「おせーぞ相棒!」

待ち合わせ場所に着くと、慌ただしく踵を地面に打ち付けた少し不機嫌なタヌキが立っていた。

「わりぃわりぃ」

「ったくしょうがねぇな。行こうぜ」

悪態はつくもののあっさり許してくれるタヌキに感謝。

俺たちは学校に向けて歩き出した。


俺の事を相棒と呼ぶこいつは間違いなく俺の事を一番知っている人間だ。

だが、

「なぁ俺って誰だっけ?」

なんていきなり切り出しても

「は?」

って怪訝な顔で見られるだけだ。数少ない手がかり。大事にいかなければ。

意を決して俺は切り出した。

「そういえばお前いつから俺の事相棒って呼んでるんだっけ?たまには名前で呼んでくれよ」

ごくごく自然に行けたはずだ。さぁどうなる。

「あ?相棒は相棒だろ?そんなことより合法ロリって相棒はどう思う?」

こいつは何を言い出すんだ。こっちの気も知らないで。ここはガツンと言ってやるか。

「合法は甘えだろ?背徳感のかけらもない。しかも中身はババァだ」

「でもさ、存分に気兼ねなく楽しめるのは大事なことだろ?」

俺たちは熱い議論を交わした。なんで猥談ってあんなに時間がたつのが早いんだろう。

確実に俺たちを別の時空に飛ばしている気がする。


「そんなことより相棒準備はいいのか?」

「準備?」

唐突にタヌキが切り出した。きた。これが俺が2週間前にした約束だ。

「まさか忘れたんじゃねーだろうな?」

俺の顔を覗き込んでくる。語気が心なしか強い。

「あぁ覚えてるよ」

完璧!まぁーべらす。主演男優賞は俺が戴くほど完璧に俺は動揺を隠しきった。

ごくごく自然な会話の流れだ。

「場所は屋上で決まりだろ?でも意外だなぁ。相棒が零子先輩に告白なんて」

「えぇぇ?!」

なんだそれ。予想の斜め上すぎるだろ。いかに俺が演技はでもこれは無理。マヂ、無理。

「驚いてんじゃねーよこっちがビビるわ。相棒が言い出したんだろ?」

「あ、あぁそうだったな」

もう何が何だか。そもそも零子って誰だよ。

ぐちゃぐちゃの頭の中を整理する余裕すらなく、俺は流されるまま学校に向かった。


告白は昼休みに決行することになった。場所は定番の屋上。

俺は顔も知らない先輩にこれから告白する。でもなんて言えばいいんだ。

何を言っても嘘に聞こえる。自分に嘘をつくってこんな気持ち悪いことなんだな。

「なんだよ相棒~がらにもなく緊張してんのか?」

今日ほど人を殴りたいと思ったことはない。

隣にいるタヌキは心底楽しそうだ。

屋上に向かう階段を楽しそうに駆け上がるタヌキを横目に俺は溜息をついた。


タヌキの段取りは完ぺきだった。屋上で流れる雲をぼーっと見ていたら時間ぴったりにその人は現れた。すらっとした長身に長い黒髪。制服を一切気崩さずにまっすぐ立っている。

大和撫子を絵にかいたような人だった。

「こんなところに呼び出して何の用かしらイッキ君?」

先輩が話しかけてくる。鈴が鳴るような心地よい声だ。

でもそんなことより、イッキ君って俺か?この場には俺と先輩しかいない。

タヌキはどうやらタンクの裏に上手いこと隠れたらしい。

いきなり俺の名前が、いってもあだ名だがわかった。この人も俺を知っているのか。

「久しぶりですね零子先輩」

当たり障りのない会話で繋ぐ。後輩と先輩の関係。こんなお姉さん然とした人に俺がとる態度としたらこれしかない。

「零子先輩・・・か。昔みたいにレイって呼んでくれないのね?」

零子先輩はどこか寂しそうにうつむいた。どうやら俺は失敗したらしい。

思ったより親しい関係だったみたいだ。次の一言は・・・うーん、うーん。

必死に高速で頭を回転させていると

ガチャッ!

突然屋上の扉が開いた。

「誰?!」

びっくりしている先輩。一呼吸置いた後

「誰もいないみたい。なんだったのかしら。それよりイッキ君話を」

「すいません先輩っ!」

俺は先輩の話も聞かずに走り出していた。

俺たちだけじゃなかった。この場にはレイもいたんだ。

俺にははっきりと見えていた。走り去っていくレイの姿が。

俺は3段飛ばしで階段を駆け下りてレイの後を追った。


「ぜぇ・・ぜぇ・・」

あいつ足早くね?俺はなかなかレイに追いつけずにいた。

屋上の会話を聞かれていたとしたらまずい。俺の演技が上手いせいで勘違いさせた。

早く誤解を解かないと何もかも台無しになる。

「待てよーレイ!」

「いやだ!来ないで!もう何も信じない!」

「待ってって!」

さらにスピードを上げるレイ。マジかあいつ・・・

なり振りかまってらんねぇ。俺は必死に追いかけた。



「どこだよここ」

俺は見たこともない広場にいた。バカでかい時計塔がある。

レイはこちらを見向きもせずに塔の階段を駆け上っていく。

俺も慌てて階段を上った。もうどうにでもなれ。


「来ないで!嘘つき」

「待てって!話を聞けよ!」

時計塔の最上階の鐘の下俺はレイに追いついた。

そもそもこいつなんで逃げ場がない上に逃げたのか。よほど余裕がなかったんだな。

「なによっ?記憶喪失なんて嘘じゃない。自分の好きな人のあだ名なんか私につけて。バカにしてたんだ。そうでしょ?」

「勘違いすんな誤解だっ!」

俺の話に聞く耳を全く持たない。やっぱこいつB型女だわ。

「聞きたくないっ!それにここは10階じゃないっ!」

・・・・・。あいつ結構余裕ないか?笑えないんだが。

「わかったから少し落ち着けよ!」

俺は少しずつレイとの距離を詰める。

「嫌だっ!それ以上近づかないで!」

レイの悲痛な叫びが響き渡った。そのとき

ガタッ!

レイが手をかけてる柵が崩れ落ちた。

「・・・え?」

俺の視界から突如レイが消えた。

一瞬世界がスローモーションになる。

「レーーーーイッ!!」

落ちていく。レイが落ちていく。

落ちていくレイの声は届かなかったが俺にははっきりと聞こえた。

「あなただったんだ・・・・」




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