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Fake Ghost Vox  作者: uki
4/10

森の奥の廃墟

3日目  雪ウサギ

Prrrrr

スマフォの音で目が覚めた。

「んぁ?」

眠い目を擦って手に取った画面に目を向ける。そもそも、自分が誰かもわからない俺にメッセージなんて送ってくる人がいるんだろうか。

内容はこうだ。

雪ウサギを追え

「なんだこれ?雪ウサギ?」

まだ覚醒しきらない思考で逡巡する。雪?まだ秋に入ったばかりだっていうのに。

ウサギなんてこの街にいるのか?

コンコン。

ノックの音。レイだろうか。

「入ってまーす」

ガチャリ。

「下らんボケしてるんじゃないわよ。早く起きて!」

「下らんとはなんだ。お前がトイレノックしてんだろうが・・・これだからB型女は」

「あ?何か言った?それより早く来て、外が!」

朝から騒がしい女だ。


「なるほどな・・・」

「なるほどじゃないわよ。秋にこの大雪。明らかにこれは街の異変よ」

街の異変?この言葉をレイが使うことに違和感を覚えたが今は気にしている場合ではない。状況の把握が先だ。

見渡す限りの銀世界。昨日までの景色はどこにもない。

いい加減驚くのにも疲れてきたな。

何が起こっても平常心でいること。モテ男の掟特別増刊号の特集で嫌というほど自分に言い聞かせたセリフだ。

不思議だ、自分のことはわからないのに何をしていたかだけわかる。記憶を部分的に消された。そんな疑惑すら抱くほどに。

「なぁ、雪ウサギって心当たりあるか?」

俺はレイに朝のメッセージについて尋ねた。

「何も思い当たることはないわね。とりあえず外に出てみましょう」

俺たちはそそくさと身支度をした。


「足跡だよな・・?」

「そうみたいね」

マンションのエントランスを出ると小さな獣の足跡が雪にくっきりと続いていた。

降り続く凍えるような寒さの雪の中何故かくっきりと残り続けている足跡。

おそらくこいつがカギだ。

「追いかけてみよう」

俺の意図を察したのか、隣で力強く頷いたレイを横目に俺は歩き出した。


20分後。しばらく慣れない雪道を歩いた俺たちは、廃墟という他ないほどオンボロの二階建ての一軒家で一昔前のホラー映画に出てきてもなんら不思議ではない、そんな建物の前に俺たちは立ち尽くしていた。たしかに道中見たこともない森の中に足跡は続いていたが、こんなそれらしいものがあるとは・・・。

「入るしかないのか?」

生唾をゴクリと飲み込む。自慢じゃないが俺は、スイカとエロゲの発売日延期とお化けだけは怖いんだ。これは3つ目の問題があるよな。

「当たり前でしょ。行くわよ」

ずんずんと進んでいくレイ。なんでこんなに積極的になったのか。きっと俺の知らない何かがあの日にあったのは間違いない。疑惑は確信に変わった。

しかしストレートに「何かあった?」なんて聞いても答えてくれるはずもない。

今は時を待とう。仕方なくレイの後ろをとぼとぼ付いていく。情けないとか言うなよ。誰だって怖いもんは怖い。


ギィィィィィィィィ。

鈍色の音をさせて玄関のドアが開いた。ほんとにそれっぽい。もう、ちょ、マジ勘弁して。

「暗いわね。」

なんて頼もしいんだろう。暗くて顔はよく見えないがレイの逞しさに思わず惚れちまいそうだった。

いつの間に家から持ってきたんだろう、レイの手には懐中電灯が握られていた。

何も持たない俺はレイに付いていくしかない。

装備を忘れた俺を気にするそぶりもなくレイは奥へと進む。


探索の結果を簡潔に述べておこう。二階への階段は壊れていて登れない。

一階には大きな扉の開かずの間がひとつ。ほかに特に変わった部屋はなくよくある一軒家といった具合だ。

「もう帰らない?こんなとこにウサギなんていねーよ」

「何を言ってるの?一階の扉の鍵も見つからないし二階にもどうにかして行ってみたいわ。あんた男なんだしもう少し頑張りなさいよ」

あきれたように俺に言い放つレイ。

あぁ言っちゃった。それ言っちゃったか。

ドン!

壁を思いきり殴った。

「今なんつった?男なんだし?男女平等とか言って実は優遇してほしいだけのなんちゃってフェミニストみたいなこと言いやがって。なんで男らしくはよくて女々しくてはダメなんだ?お?答えてみろ。あと、コンビニのトイレあれも最近」

「わかった。私が悪かったから大きな声出さないで」

静かな廃墟に俺の叫び声が響く。不気味な音で我に返った。二次元の心の綺麗な娘ばかり相手にしていたせいで女の理不尽な言動や要求には過剰に反応してしまう。悪い癖だ。あぁ、痴漢冤罪マジ怖い。

「わかればいいんだよ。二度とそういう発言はするな」

レイは少しだけシュンとしていた。言いすぎちゃったかな。

ガラガラガラガラ!

「なんだなんだ?」

「なに?なに?」

突然の大きな音にパニックになる俺たち。

勇気を出して怖がって閉じた目を薄く開くと、俺が殴った壁が崩れていた。

そこから光が差し込んでいる。おかしい。建物の構造上外へは続いてないはずだ。

俺と同様状況を把握したレイは

「行ってみましょう」

と淡々と告げた。こいつほんとに怖いもんなしかよ。でも現状それ以外に手がないのも事実だ。

人が屈めば通れるほどの大きさの穴に二人で入る。

「ちょっとスカートの中見ないでよ」

レイが言ったお約束に反応する余裕もこの時の俺にはなかった。


生命の泉って聞くとどんなとこ想像する?まさしく俺たちが今いるのはそこ。

洞窟にキラキラと輝く小さな泉。驚くほど透き通った水は底の底まで見えるほど。

「かなり深いから気を付けて」

先行したレイが言う。俺ここに関してはほんとに頼りっぱなしだな。

「こんな水初めて見た」

我ながら陳腐な感想だが感じた通りなのだから仕方ない。

「なに?あれ?」

ふと、レイが黒い小さな虫を見つけた。

「蛍だ・・・」

「蛍?」

「あぁ。この前帰り道にいただろ?」

「あぁ、あの不思議な」

俺の読みが正しければこの蛍は街の秘密の一部のはずだ。

「と、いろいろ調べるその前に」

ゴクゴク。

「あ、あんた何してんの?」

レイが信じられない目でこっちを見ている。

「のどが渇いてたんだ。蛍がいるってことは飲んでも大丈夫な水だろ」

冷静な判断力を失っていたのかもしれない。それほどまでに俺の喉は渇きを訴えていた。いや、この泉の水を欲していた。

「大丈夫なの?どう見てもこの水」

「大丈夫だよ、。ほらこのとお」

ばたり。体を支えられない。どうやら俺は倒れたようだった。

「ねぇ!ねぇ!」

そばで必死に呼びかけるレイの泣き顔が印象的だった。



真っ白な部屋。ペットボトルの水とカプセル。ベットに横たわる男性は穏やかな顔。

「諦めるんですか?彼女の気持ちはどうするんです」

詰め寄るスーツの男。もう何度目の口論だろう。

「諦めるわけではないです。ただ、あなたたちのやり方には賛同できない」

「手段を選んでいる場合ですか?ここは病院ではないんですよ?」

「わかってます。しかし私の意志は変わらない。お引き取りください。」

ベットの男性は毅然とした態度でスーツの男性にピシャリと告げた。

がっくりと肩を落とした男性。

「またくるよ」

そう言い残すと階段を下りて帰っていった。



「起きて!ねぇ!」

頬にかすかな痛み。うっすらと目を開ける。

「なに・・・しやがる」

もう少し素直に起こせないものか。さっきまでの冷静なレイが嘘のようだ。

「あなた1時間も倒れて動かなかったのよ!もう死んじゃったと思ったんだから」

「そうか、そんなに寝てたのか。」

妙にリアルな夢だった。今度は男同士の言い合い。何が何だかわからなかった。

「ふん!なんともないならさっさと支度しなさい。まだ泉の奥に道があるんだから」

レイは慌てたのを見られたのに慌てたのかまた無愛想に戻ってしまった。

「はいよ、お姫様」

そんなレイに付いていくしかなかった俺はきっと情けなくない。


今更家の中の泉の洞窟が丘の上の井戸に続いていようが俺は驚かなかった。

「ちょっと、パンツの中みたら絶対ダメなんだからね!」

お約束のやり取り。だからそんな余裕・・・ある!。パンツの為なら頑張れるのは男の子なら当然。

ってか、パンツの中ってそれもしかして・・・

つかの間の妄想は少しだけ、疲れた俺を元気にした。最近そんな余裕いっさいなかったもんな。やっぱエロは偉大だよ。

考えてるうちにレイが先に梯子を上り切ってしまった。

まぁ、暗くてどうせ見えなかっただろうし。別にレイのパンツなんて・・・見たかった。


丘の上からの景色は格別・・・ではなかった。

「なん・・だよ・・これ」

俺たちの町が一望できる丘の上。しかしそれだけだ。俺たちの町以外を認識できない。そこになにもない。俺たちの町以外何もない。上手く言葉にできない。

「・・・・・・」

レイは黙り込んでいる。こんな時まで冷静なのか?

「なぁ、これどういうことだ?」

サァーーーーと風が吹く。

「おやおや順番が違うではありませんか。ずるはいけませんねぇ」

俺の目の前に奴、仮面の男が現れた。

「順番?そんなの知るか。いいから説明しろよ。なんだよ、この、町」

興奮して上手くしゃべれない。そんな俺を面白そうに見つめている仮面の男。

「少々予定が狂いましたがいいでしょう。今日はこんなもので」

それだけ言い残すと仮面の男は音もなく消えた。


沈黙が痛い。俺たちのやり取りを聞いていたなら当然俺と仮面の男の関係をレイは疑うだろう。ここは仮面の男についてだけでも情報を公開する必要があるな。

「あの男は」

「知ってる仮面の男でしょ?」

「え?今なんて?」

「知ってるって言ったの」


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