男女兼用【それでも私は撮り続けた】
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無表情のカメラマン
[あらすじ]《3分半程度》
そのカメラマンはご遺体を撮り続けたという。被災地に出向いては、ご遺体にカメラを向け涙を流しながらも無表情に撮り続けた。一枚一枚の写真に込められた想いとは―――。
【無表情のカメラマン】
最初は興味本位でした、失礼極まりないけれど。
興味本位で、初めて撮ってみたら。
気持ち悪くて吐きました。
ご遺体を撮る前は、風景写真を専門にしていました。だから本当に、興味本位だったんです。
何度か繰り返して慣れてきた頃に、酷いバッシングを受けました。
不謹慎だ、とか。
ご遺族に、ご遺体に、失礼だろ。とか。
結局は興味本位でしたから、辞めてしまおうかって思ったんです。
ちょうどそんな折でした。
遺体安置所で写真を撮っていた時、
私よりとても小さい、まだ母親の陰に隠れて恥ずかしがっているような年頃の女の子が、
私の撮った写真をぐしゃぐしゃに握り締めて「ありがとう」って言ったんです。
「このひとね おかあさんなの ありがとう」って。
女の子が持っていたのは瓦礫に埋もれて左足が捥げている女性の写真でした。
………………。
女の子が去って、暫くして。
私は泣き崩れました。
興味本位でした、本当に。
ご遺体を撮ってみたいだなんて、すごくすごく、不謹慎な興味本位でした。
そんな私の写真が…。
小さな彼女の母親を見つけた手掛かりになって、
私の、中途半端な想いが、その時、今更、すごく、すごく悔しくて…!
その女の子に申し訳なくて…!
いえ、女の子だけじゃない。今、あの時、撮っていたご遺体にも申し訳なくて…!
…………………。
でも結局、辞めませんでした。
その女の子の件から少し経って私宛てに何通か手紙が送られてきたんです。大抵が誹謗中傷でしたから流し読みするだけだったんですけど。
お礼の手紙だったんです。
貴方の写真のお陰でお父さんが見つかったとか、弟と妹と会えたよ、とか。
私が撮るのはご遺体だから、見つかったとか会えたとか、それは全部。…そういう事なんですけれど。
それでも、良かったって。
見つかって良かった、会えて良かった、……撮って、良かったって。
だから私は撮り続けるんです。
中には、手だけとか。足だけとか。そんなご遺体もあります。
目を背けたくなるような光景の方が断然多くて。
…それでも私は、このカメラに映します。
家族の安否が分からず眠れぬ日々を過ごす人達が、少しでも。
――少しでも、「良かった」と思えるように。
STORY END.




