男性用【語り部亀八郎〜生い立ち編〜】
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亀八郎
[あらすじ]《5分程度》
語り部の亀八郎は親も兄弟も居ない。毎日食っていく為に預けられた親類の家を飛び出し、自身の経験や又聞きした御伽噺を語りながら生を繋いでいた―――。
【亀八郎】
やあやあ、これなるは親も兄弟も居らずただ一匹狼で食い繋いできた語り部亀八郎なり! ……なんつってね。
いやまぁこんな風な入り方をすれば、普段ちょいと恥をかかなくちゃあならん身の上も、ちっとは身なりよく…なってやすかね?
……。まっ、それはさておき。
今日はお客さんも多いんすね、いやはや西方に砂漠の国があるのは知ってやしたが、こんなにも人が暮らしているなんて知らなかったですよ〜。
そぉうだ。
今日初めてあっしを見るってお客さんも多いはずですから今日はあっしが今ここにいる経緯をお話致しやしょう。
……勘違いしてるお客さんも多いと思いますんで先に言っとくと…、語り部は落語家や朗読家とは訳が違うんす。
語り部はそりゃあもう自分勝手にわいのわいのと盛り上げて、自分の都合でさっさと終わらせちまう。何というか落語家や朗読家には忌避されちまう職なんです。
まぁまぁそう何とも言えん顔をしないで下さい。暇つぶしに一つ聞いてやって下さいよ。
(だいぶ間を空けて)
そんじゃあ話しやしょうかね。
一番古い記憶は随分と痩けた顔した大人二人が一つの棺桶に折り重なって入ってやした。きっとそれが親だったんですね〜。
つっても可愛がられた記憶もありやせんし、そんなあっしを引き取ってくれた親類はあっしの身体に残る痣や切り傷を見て顔を顰めていた記憶もありやすから、あまり…良い思いはしてなかったんでしょうね。
何度も言う通り、あっしには記憶がありやせんから変に慰められようと異常に愛されようとそれは鬱陶しい以外の何ものでもありやせんでした。
まぁね? 引き取ってくれた親類には感謝してやす。それなりに裕福であったから使用人をあてがわれやした。寵愛にも似た過保護も慣れてしまえば簡単にあしらえやした。
衣食住も安全も保証してもらえやした。実子と変わらぬ愛を向けてくれやした。
そんなあっしが何故こんな遠い地まで来て語り部なんぞやってるかっていうと、時折遊びにいらっしゃるあっしの親代わりの姉夫婦が発端です。
姉夫婦はあっしの存在そのものが気に入らないと目で、顔で、体で語ってきやした。今思えば語り部なんぞやってるあっしより雄弁でした。…ははっ。
初めて姉夫婦を見た日からあっしの身体には痣がまた増えていきやした。
家に仕える使用人達はあっしを心配しやした。しかし姉夫婦はあっしの親代わりの身内。つまりは雇い主と同等の立場にいる人間です。
簡単に告げ口など出来やしやせん。
ああ、あっしは恨んでなどおりやせん。立場上仕方ないのです。先も言った通り、親代わりは実子と変わらぬ愛を向けて下さった。でもどうやってしても実子との明らかな差は縮まらないのです。
自分で言うのもなんですが、幼い頃から聡明でした。自分の立場をよく分かっていやした。どこまでだったら発言が許されるのかもよく知ってやした。
記憶に無いまでもあっしはもう消え掛けた傷に感謝致しやした。それが無ければここまで賢明にはなれなかったと思いやすから。
でも悪事はいつか露呈する。姉夫婦の行為をあっしの親代わりに話した人物がいやした。
あっしの義理の兄であり、親代わりの実子でした。あっしの我慢の日々は唐突に終わりやした。姉夫婦は勘当までされやした。
感謝はしてやすよ。でも姉夫婦を追い出したい訳じゃなかったんです。こんな事を言うとお人好しだとか偽善者だとか言われてしまうかもしれやせんが、あっしが姉夫婦の暴力という名の躾の元で何故声を上げなかったと思いやすか?
(間を空けて)
……あっしはあの暖かい家から出ていく口実が欲しかった。記憶に無い暴力の元で生きていた自分を優しく支えてくれるあの家から逃げ出したかったんです。
姉夫婦がいつだったか自分をどこか遠くの国へ売り飛ばしてやろうと話していたのを聞いた時に少し安堵しやした。
あっしは……あっしには優しさという暖かさを上手く消化出来そうに無かったんです。これはあっしの最初で最後の我儘です。
とまぁ、そんな事がありやして。
姉夫婦を出禁にしてしまった罪悪感に押し潰されそう…という名目で半ば強引に家を飛び出して今日に至りやす。
あれからもう十年以上経ちやしたが故郷には帰れやせんね! 合わせる顔がねえや!
おっと、お客さん。こんなお粗末な語りにそんなに払ってくれるのかい。
え? 『お前さんの人生だろう?』って? ははーん、お客さん。アンタ、お人好しって言われないかい? ははっ、何てね冗談だよ!
今日も聞いてくれてありがとうございやした。語り部亀八郎、今日はこの辺で失礼しやす! またどこかで!
STORY END.