男性用【あたかもそこに】
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暗い顔をした青年
[あらすじ]《2分程度》
彼には兄がいた。生まれてこられずに尽きた兄。母親も父親も彼を大事に育てた。兄の代わりなどとそんなことも無く。彼を一人の人間として。自分達の愛息子として。だけれど彼にはそれすらも煩わしくて―――。
【暗い顔をした青年】
刑事さん、僕ね…。
兄が居たんです。…えぇ、死産ですから兄の顔も声も、何もかも僕は知らないんですけどね。
でも、それでも。
兄が居たんです…。どこで知ったか…祖父の葬式で、だったかな。大人の、卑しい噂話…子供ってのはよく聞いてるものなんです。
物心ついた頃には既に自分が生まれる前に生まれていたはずの兄が居たと知っていました…。
だからなのか、親が買い与えてくれるオモチャも絵本も勉強セットや文房具も…もしかしたら『兄のおさがり』だったのかも知れないって。
…そう、ですね。馬鹿だと思います。
馬鹿でした。『子供』が言い訳にならないくらい。
……高校生くらいまで。
僕の傍には兄が居ました。兄が、僕の物を取っていく気配がしたんです。「これは俺のだ」「俺のになるはずだったんだ」って。
架空の兄が。生まれるはずだった兄が。
実在の僕を。生まれてしまった僕を。
酷く手荒く責め立てる声が聞こえていました。
幻聴です、知ってます。そんな事…。分かってるんです…分かってるんですけど…。
子供の頃の衝撃は簡単に消え去ってくれなかった。物心つく前に聞いた『死産』の言葉はあまりに現実味を帯びていなかったから…。
………。
刑事さん、僕。
どれくらい外に出れないんですか。
そう、ですか。
…そうですよね。
いえ。……僕の人生を奪ったのは兄じゃない…。僕自身ですから…。
(深くため息を吐いて)
どうして両親は僕に兄と同じ名前を付けたんでしょうね…。
STORY END.




