女性用【人形のオロッセオ】
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ベーナ
〈ダラー家に三年勤めたメイド。ドジだが、やる気だけはあった。オロッセオが彼女のどこを気に入ったかは定かではない〉
[あらすじ]《7分半程度》
王家に次ぐ権力を持ったダラー家にて。ダラー夫妻は人形を『息子』と言って可愛がっていた。これはそのダラー家に三年勤めたメイドの証言である―――。
【ベーナ】
あ、えっと…よろしくお願いします…。
私はベーナ。今は無きダラー家に三年ほど勤めておりました。
私が十八の時、両親が事故で他界しまして。そのすぐ後に兄も病に身を蝕まれて…学生の身だった私を養おうと必死だったんだと思います…。
私は大学を中退しました。学業と仕事を両立出来るほど器用な人間ではありませんでしたから…。
運良く、ダラー家やその他の貴族がメイドや執事…所謂、家仕えを募集していたのでダメ元で応募したんです。
今ほど、家仕えが庶民の出である事に苦い顔をする時代ではなかったので…。
合格通知の用紙が届いた時、夢かと思って。思わず頬を引っぱたいてました、はは…。
初めて足を踏み入れたダラー家は大きくて。ここでパーティーをしたらナダラ州の人口の半分は入っちゃうんじゃないかって驚いたのが昨日の事みたいです。
ダラー夫妻…奥様も旦那様もとても素敵な方で…早くに大奥様を亡くされた大旦那様もその日はいらっしゃって。普段はとても手が出ないようなすごく高いワインを私達に振舞って下さって。
でも。それが、多分。
あの家での最初で最後の歓談だったんだと思います。
私は奥様の部屋を掃除したり、奥様のお客様を客間にご案内したりと、そんな普通のお仕事を貰いました。
程よく大変で、最初の頃は失敗ばかりで。
でも先輩達はとても優しくて、何とか頑張れていました。
やっと仕事にも慣れてきた頃、奥様が隣の部屋でお客様と歓談している時。先輩がふと零したんです。
「奥様に気に入られちゃあいけないわよ」
って。
私はどうしてですか、って聞いたんです。でも答えてくれなくて。
…ちょうど、その頃でした。
奥様が…大体、そうですね。九歳か十歳前後の子供と同じ大きさの人形を…私達新人に紹介したのは。
初めは冗談かと思ったんです。普段からお茶目な方でしたから人形を持ち出して…ましてやそれを…『息子』だなんて言うものですから。
でも、奥様のお顔は真剣そのもので。まるで本当にその人形が自分の息子みたいに…。
ダラー夫妻はその人形を『オロッセオ』とお呼びになられて戸惑う私達とは違って先輩達は少し悲しそうな顔でその人形を『オロッセオ様』と呼んでいました。
…その日の夜のことです。
奥様が私を呼び出しました。
「今日から貴方はオロッセオの世話係よ」
と。
私は思わず疑問を投げかけました。どうしてかと。そうすると奥様はうっとりと自分の頬を撫でながら、
「息子の恋は、応援したいじゃない?」
……。
先輩は泣いてました。
守ってやれなくてごめんなさいって。
誰も……誰も悪くないのに。
その日から私は奥様の仕えを解かれてご子息の…オロッセオ様の世話をするようになりました。
朝はオロッセオ様を起こして着替えをさせ、昼はオロッセオ様を中庭のベンチに座らせ、世間話を。
夜は…、オロッセオ様の額にキスをしておやすみを言い、部屋を去る。
これが私の日常になりました。
それが、多分二年半続いたんですかね。
その頃には何だかオロッセオ様の事を受け入れ始めている自分がいました…。
…ですが、自分が異常に満ちていっている気配もありました。
ある日の事でした。
朝、オロッセオ様の着替えを終えて少し気になった部屋の隅のホコリを掃除していた時、ノックもなしに部屋へ誰かが入ってきました。
奥様のお兄様、オロッセオ様にとっては伯父に当たるパトリック様でした。私も噂だけはかねがね。
金遣いが荒く、ダラー家のお金にも手を出すのでよく大旦那様にも叱られていらっしゃる方だとか。
パトリック様は部屋に入るや否や着替えて間もないオロッセオ様を抱きかかえて部屋の外へ連れ出そうとしました。
私は思わずホウキを放り投げてパトリック様へ飛びつきました。
「何をなさるのですか、おやめ下さい」
と。
しかし男性の力には及ばず、私を突き飛ばしたパトリック様は叫びました。
「こんな薄気味悪い人形は売ってしまった方がいいのだ、分かってくれ可哀想なメイドよ!」
………。
私はその同情に身を固めてしまいました。
だって私、パトリック様のその言葉に…疑問を浮かべてしまった…。そして『何に』疑問を浮かべたのか気付いて動けなくなったんです…。
私は…、オロッセオ様が『人形』であることすら疑問を抱かなくなっていました。
それどころか感情の抜け落ちた『小さな子供』だと思ってしまっていたのです…。
そうして…自分が『可哀想』だったのだという事実すら…。長い世話の波に飲まれて消えてしまっていたのです…。
その後、私はすぐにダラー家の家仕えをやめました。その頃には兄の病も安定してきて、私も『あの』ダラー家に勤めていたという実績のお陰で、カージム家へ再就職出来ました。
…それからすぐでした。
ダラー家が没落したのは。
…正直なところ、何があったのかは大体想像がつきますけれど…本当かどうか定かではないのであまり大きな声では言えませんけど。
……。
はい、ありがとうございました。
…いえ。今ではカージム家のメイド長にまでなれましたから。奇妙で今でもたまに悪夢を見ますけれど…良い経験だったと、……そう、言うしかありませんから。
はい、ありがとうございました。
道中、お気をつけて。
STORY END.




