男性用【教授と僕】
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明るい声の青年
[あらすじ]《3分半程度》
彼が施設から抜け出して五年が経った。どこで何をしているのか知らないが平和に過ごしている事だろう。そんな事をふと考えたとある午後、彼と同じ顔をした、彼じゃない誰かが私の部屋へやって来た―――。
【明るい声の青年】
こんにちは、教授と呼んだ方がいいですかね?
初めましてだと思います、こっちの僕は。ただ、そうですね、あなたはどっちの僕も知ってるでしょうね。だってあなたが僕を作ったのだから。ああ、別に恨んでません。恨んでも仕方ありません。
だって、僕は作られてしまったのだから。こうやって喋っているのだから。こうやってあなたに会えてしまっているのだから。
何をしに来たかですか? あああ、えっと、ドーナツをもらいにきました。
えっと、そうだな。僕はまだ食べたことないけど、でも美味しいドーナツだって言ってましたよ。だからください、多分ですけど『俺』が言うにとても甘いんでしょ、そのドーナツ。
僕は食べたくないなぁ、できれば。
ただ、食べたくないけれど、体が欲してしまっているので食べなきゃダメですよね。ああいや別のものを開発しろとかそういう催促ではなくて『俺』は好きだったと思いますよ。いや、好きでしたよ、きっと。
教授のこともそのドーナツのことも。
僕? …僕は、そうですねまだ分かりません。
それで。結局このドーナツって何なんですか。
怪しい成分が入ってるわけでもなし、これを食べた『俺』を従わせたかったわけじゃないでしょう? 不思議なんですよ、どうして教授がそんなことをしたのかって。
だってこのドーナツ、駅前で普通に売ってました。買いませんでしたけど。
施設の食べ物じゃないものを与えて、教授は『俺』に何をしたかったんでしょう? それを考えてたんです。
もしかしてですけど、教授は『俺』が僕になるの待ってたんじゃないんですか。だってあなた僕が現れた時に笑ったでしょ。
言ってましたよ、『俺』が。教授は優しかったけれど、『俺』に笑いかけることなんて1度だってなかったって。
………………………………………………。
沈黙は肯定ですよ、教授。
……僕は『俺』の虚像でしかないのに、教授は『俺』の中に僕があらわれることをなぜ知っていたんですか。
そういえば僕、最初に言いましたよね。あなたはどっちの僕も知っているでしょうねって。
あなた、それに頷いた。それがもう答えでしょうね。
………もう帰ります。あ、ドーナツはもらっていきます。これ、美味しいらしいですから。
ああ、そうだ、教授。
僕今日でここに来るの最後にします、そろそろ『俺』が目覚めそうなので。
所詮僕は『俺』の中に現れた、まぁ一時的な逃げ場というかなんというか。
『俺』が『俺』を保つために必要な材料というか。
なのでそろそろ僕は消えるんです、その前に『俺』が好きだったっていうこのドーナツ食べてみたくて。
教授。いいえ、『俺』の好きだった人。
会えてよかった。話せてよかった。僕を作ってくれてありがとう。
…もう会えないけど、もう話せないけど、もう現れることもないけれど、あなたが。
……あなたがあなたで良かった。
それじゃあさようなら、僕が好きになった人。
STORY END.




