男女兼用【語り部枢馗〜義弟編〜】
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枢馗
[あらすじ]《4分半程度》
語り部枢馗は人の過去を覗き込む事が趣味である。勝手に覗き込んだそれを勝手に語っていく。これがこの語り部のやり方なのだ―――。
【枢馗】
よっこらせ。
んじゃあまあ、簡単にやっていきましょう。手前は枢馗。語り部です。
遠い祖先は天逆毎と呼ばれる神をも凌駕する妖怪でございまして、ですが手前は天狗でも天邪鬼でもありません。
一つの不思議な力を悪戯に弄ぶ、ただの人間でございます。
では今回もその不思議な力に魅せられた過去を覗いて参りましょう。
(咳払いをして)
その男は廃れた田舎道を歩くにはあまりに豪勢でした。服が、ではなく雰囲気が、です。
手前は非常に興味を持って男に話し掛けました。……見えた過去には辛辣に自分を責める男の姿が映っておりました。
男には義弟が居りました。
可愛らしく聡明で、……生傷の絶えない彼は男の両親が引き取った遠縁の親戚でございました。
元々居た家で暴力を受けていたのでしょう。当時子供だった男は直接は見せてもらえなかったものの、包帯に包まれる義弟に心を痛めておりました。
良家の嫡男であった男は忙しい稽古や勉強に追われる中でも義弟を構いました。
表情の薄い彼は自分を構う義兄に迷惑そうにしていましたが、その執拗さに半ば諦めているようでございました。
ある日の事。
傷の癒えてきたはずの義弟の身体に痣や切り傷が増えていました。義弟に何事かと聞いても転んだ、ぶつけたと難なく躱されるばかり。
…それと同時期に時折家に遊びに来る母親の姉とその夫がやけに目立つようになりました。
男はその頃になると跡を継ぐための仕事に追われるようになり、義弟と会う時間も必然的に少なくなったのでございます。
それでも男は何とか時間を作り、義弟へ甘い菓子でも持って行ってやろうと彼の部屋を覗きました。
男はそれが、その光景が、
脳裏の奥に焼き付きました。
義弟が母親の姉――伯母とその夫の心労の捌け口になっていたのでございます。
すぐさま飛び出そうとした男は踏み止まります。嫡男と言えど正式に業務を引き継いでいない今は伯母とその夫より弱い立場に居るのだと。
男は傍に居た使用人を両親の元へ走らせました。
………伯母とその夫は勘当され、義弟は助け出されました。
男は心底安心しました。
これからは苦しくないのだと抱き締めてやりました。
しかし、義弟は男が次期当主として僻地へ仕事をしに向かったその翌日に家を出たというのです。
男は自分を責めました。
もっと早く、見つけてやれば。
男は今でもその義弟を探すのです。当主として忙しいながらも暇を見つけ、その度に色んな街へ出向いて……。
あの時の事を、たった一言詫びたくて。
……………………………。
これが田舎道を行く豪奢な男の過去でございまして。
はて、その義弟の居場所ですか? さあ? 手前にはなんの事やら。
さて、そろそろ腰を上げましょう。
皆々様、手前はこちらにて失礼致します。またお会い出来る日を楽しみにしております。
STORY END.




