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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
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56/197

女性用【語り部桃道〜親殺し編〜】

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 桃道

[あらすじ]《6分半程度》

 西の辺境(へんきょう)生まれの(かた)()桃道(ももみち)はこの道20年のベテランである。可愛らしい髪留(かみど)めを付けた彼女は今日も胡座(あぐら)をかいて語り始めるのだった―――。






【桃道】

 ほんなら、今日も始まひょか。


 今日はほん少し…静かな語りをしよかな。ほんの先月な、見知(みし)った顔に会ってん。


 せやから、内緒にしてた話しよ思うて。

 アタシに秘密や言うて自分だけさっさとどっか遠くに行ってしもた人の話。置いてかれんようによぉく聞いとり。


 今から話す男の子には妹と産まれたばっかりの弟が居ったんよ。いちいち男の子言うんも面倒やしその子の事は『リンゴ』って呼ばせてもらおな。


 リンゴの母親は病弱(びょうじゃく)でなぁ。弟を産んだ後、世話する気力もないままに寝込んでしもたんよ。

 せやからリンゴは幼い妹と村のモンに弟の世話任せて自分は近くの魚市場(うおいちば)に働きに出てな。

 リンゴの住んどる村は小さいトコやったけどみんな優しゅうて。リンゴ達を出来る範囲で支えてくれたんよ。


 そんな日々が続いて母親の元気が少し出てきた(ころ)やった…。リンゴの家に父親が帰ってきたんよ。どっかに放浪(ほうろう)したままなあんの音沙汰(おとさた)も無かったんに威張(いば)り散らして帰ってきたん…。


 その父親はリンゴが小さい身体で懸命(けんめい)に働いて(かせ)いだ金だけを分捕(ぶんど)ってまた家を出ていったんよ。

 でもリンゴはめげへんだし落ち込む様子も無かった。


 朝早くに魚市場(うおいちば)に出向いて、お客さんには売れへん形の悪い魚を(もろ)て村のモンに(さば)いてもろてなぁ。

 (ちち)の出えへん母親を(なぐさ)めながら妹に重湯(おもゆ)の作り方を教えて。自分はええからって妹や母親にたんと食べさせて……。


 最低な父親んコトも何も気にせんでええからってリンゴは毎晩(まいばん)(よる)(おそ)ぉまで字と計算の勉強もしてたんよ。

 いつか自分が妹や弟に教えれるようにって。


 せやけどそんな(せわ)しいて、でも平和な日々は続かへんだ。また、あの父親が帰ってきたんよ…。今度は、長く居座(いすわ)るつもりなんかリンゴの(かせ)いだ金を()る様子は無かった。

 せやけど村のモンは父親に()め寄った。どこで何しよったんやって。お前が居らん間、リンゴがどれだけ頑張っとったかも知らんでって。

 父親はそれを笑い飛ばした。父に孝行(こうこう)するええ息子やないかって。


 リンゴにも幼い妹にもその言葉は聞こえとって、(くや)しくて泣いてしもた妹を()でるリンゴはそれでも泣かんとおったんよ…。

 妹には見えとった。それでも血が出るほどに(こぶし)(にぎ)()める兄の姿が。


 それから1ヶ月くらいかな、事件は起こった。


 リンゴがいつものように魚市場(うおいちば)へ出向いて働いて家の近くまで帰ってきた時やった。乳離(ちちばな)れも間近(まぢか)な弟の泣き(さけ)ぶ声が聞こえたんよ。


 リンゴは(あわ)てて家を(のぞ)き込んで固まった。物は散乱(さんらん)しとるし布団の上では母親がぐったりした様子で倒れとって。妹は頭から血ぃ流して家の柱に(もた)れとった。


 泣き叫ぶ弟は誰かに抱えられとった。………………父親やった。父親は家の入口に居るリンゴを見つけてこう言うたん。


「金が無いんやろ、(コイツ)売ったらええ金んなるやろ。…ちょお泣き止ませるん手伝いや」


 リンゴは絶句(ぜっく)した。

 どうやって息しとるんかも分からんまま、目線を彷徨(さまよ)わせて―――見つけた。


 散乱した物の中にキラリと光る鋭利(えいり)なソレを。リンゴはソレを手に取った。手は震えとらんかった。相変わらずどうやって息しとるんかは分からんかった。ただ、ソレを父親(アレ)に刺したらどうなるんかだけをちゃんと理解しとった。


(わざと間を空けて話すか迷いながらもゆっくり息を吐いて)


 妹が、朧気(おぼろげ)な意識の中、最後に見たんは。


 血塗(ちまみ)れになりながら事切れた父親の前で静かに涙を流す兄の姿やった。…彼の涙を見たのはそれが最初で最後。

 妹はなぜかその涙が美しい、と思うたんよ……。



 それから村の診療(しんりょう)所で母親と妹と弟は治療を受けた。

 父親の遺体がどうなったんかは知らんけど、リンゴはそれから(しばら)くして村から姿を消したんよ。


 妹にだけ、秘密事を話して――。


「ええか、アレは村の外れの池に(しず)めた。身内のカタは身内が()ますんよ。村のモンにはアレが暴れたまま村を出てったって言うた。

 ボクはこれから村を出てく。……お前にだけ話すんを…。お前にだけ背負(せお)わすんを…。ボクは心苦(こころくる)しく思うてしまう。


 …………やけど、許して欲しい。

 人を殺した(かせ)だけはボクだけが背負(せお)えばええ。これからたくさん苦労掛ける。嫌になってもええ。投げ出してもええ。


 やから…この事だけは笑って話せるようになるまで…誰にも言わんとき。ボクとお前の内緒(ないしょ)事やから」







 ほんなら今日はここまで。

 ……え、泣いとるんかって? あははっ…そんな訳ないやないの。見間違いやわぁ。


 ……ほんなら、またどっかで会いましょな。










STORY END.

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