女性用【語り部桃道〜親殺し編〜】
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桃道
[あらすじ]《6分半程度》
西の辺境生まれの語り部桃道はこの道20年のベテランである。可愛らしい髪留めを付けた彼女は今日も胡座をかいて語り始めるのだった―――。
【桃道】
ほんなら、今日も始まひょか。
今日はほん少し…静かな語りをしよかな。ほんの先月な、見知った顔に会ってん。
せやから、内緒にしてた話しよ思うて。
アタシに秘密や言うて自分だけさっさとどっか遠くに行ってしもた人の話。置いてかれんようによぉく聞いとり。
今から話す男の子には妹と産まれたばっかりの弟が居ったんよ。いちいち男の子言うんも面倒やしその子の事は『リンゴ』って呼ばせてもらおな。
リンゴの母親は病弱でなぁ。弟を産んだ後、世話する気力もないままに寝込んでしもたんよ。
せやからリンゴは幼い妹と村のモンに弟の世話任せて自分は近くの魚市場に働きに出てな。
リンゴの住んどる村は小さいトコやったけどみんな優しゅうて。リンゴ達を出来る範囲で支えてくれたんよ。
そんな日々が続いて母親の元気が少し出てきた頃やった…。リンゴの家に父親が帰ってきたんよ。どっかに放浪したままなあんの音沙汰も無かったんに威張り散らして帰ってきたん…。
その父親はリンゴが小さい身体で懸命に働いて稼いだ金だけを分捕ってまた家を出ていったんよ。
でもリンゴはめげへんだし落ち込む様子も無かった。
朝早くに魚市場に出向いて、お客さんには売れへん形の悪い魚を貰て村のモンに捌いてもろてなぁ。
乳の出えへん母親を慰めながら妹に重湯の作り方を教えて。自分はええからって妹や母親にたんと食べさせて……。
最低な父親んコトも何も気にせんでええからってリンゴは毎晩夜遅ぉまで字と計算の勉強もしてたんよ。
いつか自分が妹や弟に教えれるようにって。
せやけどそんな忙しいて、でも平和な日々は続かへんだ。また、あの父親が帰ってきたんよ…。今度は、長く居座るつもりなんかリンゴの稼いだ金を盗る様子は無かった。
せやけど村のモンは父親に詰め寄った。どこで何しよったんやって。お前が居らん間、リンゴがどれだけ頑張っとったかも知らんでって。
父親はそれを笑い飛ばした。父に孝行するええ息子やないかって。
リンゴにも幼い妹にもその言葉は聞こえとって、悔しくて泣いてしもた妹を撫でるリンゴはそれでも泣かんとおったんよ…。
妹には見えとった。それでも血が出るほどに拳を握り締める兄の姿が。
それから1ヶ月くらいかな、事件は起こった。
リンゴがいつものように魚市場へ出向いて働いて家の近くまで帰ってきた時やった。乳離れも間近な弟の泣き叫ぶ声が聞こえたんよ。
リンゴは慌てて家を覗き込んで固まった。物は散乱しとるし布団の上では母親がぐったりした様子で倒れとって。妹は頭から血ぃ流して家の柱に凭れとった。
泣き叫ぶ弟は誰かに抱えられとった。………………父親やった。父親は家の入口に居るリンゴを見つけてこう言うたん。
「金が無いんやろ、弟売ったらええ金んなるやろ。…ちょお泣き止ませるん手伝いや」
リンゴは絶句した。
どうやって息しとるんかも分からんまま、目線を彷徨わせて―――見つけた。
散乱した物の中にキラリと光る鋭利なソレを。リンゴはソレを手に取った。手は震えとらんかった。相変わらずどうやって息しとるんかは分からんかった。ただ、ソレを父親に刺したらどうなるんかだけをちゃんと理解しとった。
(わざと間を空けて話すか迷いながらもゆっくり息を吐いて)
妹が、朧気な意識の中、最後に見たんは。
血塗れになりながら事切れた父親の前で静かに涙を流す兄の姿やった。…彼の涙を見たのはそれが最初で最後。
妹はなぜかその涙が美しい、と思うたんよ……。
それから村の診療所で母親と妹と弟は治療を受けた。
父親の遺体がどうなったんかは知らんけど、リンゴはそれから暫くして村から姿を消したんよ。
妹にだけ、秘密事を話して――。
「ええか、アレは村の外れの池に沈めた。身内のカタは身内が済ますんよ。村のモンにはアレが暴れたまま村を出てったって言うた。
ボクはこれから村を出てく。……お前にだけ話すんを…。お前にだけ背負わすんを…。ボクは心苦しく思うてしまう。
…………やけど、許して欲しい。
人を殺した枷だけはボクだけが背負えばええ。これからたくさん苦労掛ける。嫌になってもええ。投げ出してもええ。
やから…この事だけは笑って話せるようになるまで…誰にも言わんとき。ボクとお前の内緒事やから」
ほんなら今日はここまで。
……え、泣いとるんかって? あははっ…そんな訳ないやないの。見間違いやわぁ。
……ほんなら、またどっかで会いましょな。
STORY END.




