女性用【語り部名瀬〜悪魔編〜】
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名瀬
[あらすじ]《5分半程度》
語り部名瀬は真面目で礼儀正しい脳筋である。今日も彼女は腰にレイピアを携える。さあ、語る準備は整った―――。
【名瀬】
初めまして、ワタクシ。語り部の名瀬と申す者です。あまり名の知られてない新参ですが、日々精進を重ねていく所存ですので何卒宜しくお願い申し上げます。
さて、前置きが長くてもいけません。
これは師匠より賜った学。聞けぬ振りなど言い訳です。
・・・。ワタクシこう見えまして、昔は旅芸人をしておりました。見聞は広い方で御座います。
皆様は『悪魔』と呼ばれる生き物をご存知で御座いましょうか。アレは人を誑かす邪悪な存在。……しかし中には良い悪魔も居るのです。今日はそんな人にとって『害の無い悪魔』のお話を致しましょう。
ワタクシはその頃、砂漠の国を疲弊した様子で歩いておりました。
師の元から旅立ってすぐの頃でしたから、一人で上手く路銀の遣り繰りが出来なかったのです。……今思い出しても恥ずかしいみすぼらしさです。詳細を話しても仕方ないので、割愛致しましょう。
ワタクシは砂漠を歩き通して、名も知らぬオアシスで小休憩を取る事にしました。
思い出すのはワタクシを焼け焦がす勢いの、ギラギラとした熱い光と砂漠を生きる魔物の姿……。
・・・ああッ! 語彙が無いあまりに情景を思い描く事が困難で御座いましょうが…、これも新参の悲しき壁。どうか飽きずに聞いてくださいませ。
・・・こほんっ、失礼。取り乱しました。
その日はきっと砂漠に住む、気高き人々も暑いと思ったに違いありません。語り部として生きる前より旅をしていますワタクシですら、汗を拭う手が止まりませんでした。
そんな時です。
「飲むだけで一日ノドが渇かないとウワサの水を飲んでみるかい?」
ワタクシ以外に人がいるはずも無い、小さなオアシスでそんな声が聞こえてきたのです。
ワタクシは咄嗟に腰のレイピアを抜き去りました。周りの音だけに集中し、目を閉じれば……感じました。
…オアシスに居たのはワタクシだけではありませんでした。
暑さのせいでワタクシ以外の『何か』に気付かなかった事、あまりにみっともなくワタクシは『何か』が判明したその瞬間に恥ずかしさで死んでしまうのでは、と歯をギリリと噛み締めました。
しかしそんなワタクシの私情はいざ知らず。『何か』は目を閉じ神経を研ぎ澄ませるワタクシに近付いてきました。
そうして耳元で砂の踏む音が聞こえた瞬間―――。ワタクシはレイピアを後方へ振り抜き、『何か』の喉元へソレを突き付けました。
その『何か』とは。
人の形はしておりませんでしたが、ワタクシの稚拙な剣技に堕ちてしまうほど、か弱い存在で御座いました。
ワタクシは怯える『何か』の喉元をレイピアで圧し斬ろうと致しました……が、『何か』はするりと、ワタクシと砂の間より抜けていったのです。
『何か』は自分を悪魔だと宣いました。
そうして宙へと水の玉を浮かび上がらせたのです。
「これを飲めば一日は水を飲まなくていいんだ、魅力的なお誘いだろう?」
ワタクシはそれを鼻で笑いました。
悪魔は御伽噺だろうと、夢物語だろうと、全てに『悪』の立場として描かれる存在。簡単に信用するほどワタクシとて浅はかでは御座いません。
しかし悪魔は引きませんでした。
恥ずかしながら気の短いワタクシは、執拗い悪魔をそのまま突き殺そうと考えました。
どこが弱点か改めてよぅく見てみればその悪魔は足が一本ありませんでした。
ワタクシがそれを聞けば、悪魔は何故か恥ずかしそうにしながら、喰われたのだと教えてくれました。
人間には理解し難くとも悪魔にとって自分の身を喰われる事は、そういった意味を持つのかもしれない、と。ワタクシは自分の知識の狭さに辟易しました。
悪魔は更に言いました。
「悪魔の言葉に反応した人間の『欲』で足が戻る事があるのさ」と。
つまり彼は『飲めば一日はノドが渇かない魔法の水』を言葉巧みに人間へ売り付け、それに乗った人間の『欲』を食い物にしているのだと言うのです。
ワタクシは話す内、愛着が湧いた彼の言葉に乗る事に致しました。この暑さの中でその『魔法の水』とやらに縋りたくなったのもあるやも知れません。
悪魔はワタクシの答えに笑って皮水筒へ水を注ぎました。ワタクシの心はもう、その悪魔に騙されようが構わないとすら思っておりました。
変わらずワタクシは情に弱くていけませんね。もっと精進しなくては。
それから悪魔は去り、ワタクシもオアシスから街の方へと歩き出しました。
……皮水筒の水を飲んでみましたが、他と変わりなかったので本当に騙されてしまったのかも知れません。
ですが、悪魔の中にもああいった害の無い悪魔も居るのだと、ワタクシはまた見聞を広める事が出来ましたので…良しとしましょう。
それでは長ったらしく生熟れな語りでしたが、本日はこれにて閉幕とさせていただきます。
またご機会あれば幸いです。
語り部の名瀬は、この辺りで剣を収めさせていただきます。
STORY END.




