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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
55/197

女性用【語り部名瀬〜悪魔編〜】

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 名瀬

[あらすじ]《5分半程度》

 (かた)()名瀬(なぜ)は真面目で礼儀正しい脳筋(のうきん)である。今日も彼女は腰にレイピアを(たずさ)える。さあ、語る準備は整った―――。










【名瀬】

 初めまして、ワタクシ。語り部の名瀬(なぜ)(もう)す者です。あまり名の知られてない新参(しんざん)ですが、日々精進(しょうじん)を重ねていく所存(しょぞん)ですので何卒(なにとぞ)(よろ)しくお願い申し上げます。


 さて、前置きが長くてもいけません。

 これは師匠より(たまわ)った(まなび)。聞けぬ振りなど言い訳です。


 ・・・。ワタクシこう見えまして、昔は旅芸人をしておりました。見聞(けんぶん)は広い方で御座います。


 皆様は『悪魔』と呼ばれる生き物をご存知で御座いましょうか。アレは人を(たぶら)かす邪悪(じゃあく)な存在。……しかし中には良い悪魔も居るのです。今日はそんな人にとって『害の無い悪魔』のお話を致しましょう。



 ワタクシはその頃、砂漠の国を疲弊(ひへい)した様子で歩いておりました。

 師の元から旅立ってすぐの頃でしたから、一人で上手く路銀(ろぎん)()()りが出来なかったのです。……今思い出しても恥ずかしいみすぼらしさです。詳細を話しても仕方ないので、割愛(かつあい)致しましょう。


 ワタクシは砂漠を歩き通して、名も知らぬオアシスで小休憩(しょうきゅうけい)を取る事にしました。

 思い出すのはワタクシを焼け()がす勢いの、ギラギラとした熱い光と砂漠を生きる魔物の姿……。


 ・・・ああッ! 語彙(ごい)が無いあまりに情景(じょうけい)を思い(えが)く事が困難(こんなん)で御座いましょうが…、これも新参(しんざん)の悲しき壁。どうか()きずに聞いてくださいませ。


 ・・・こほんっ、失礼。取り乱しました。


 その日はきっと砂漠に住む、気高(けだか)き人々も暑いと思ったに違いありません。語り部として生きる前より旅をしていますワタクシですら、汗を(ぬぐ)う手が止まりませんでした。


 そんな時です。

「飲むだけで一日ノドが(かわ)かないとウワサの水を飲んでみるかい?」

 ワタクシ以外に人がいるはずも無い、小さなオアシスでそんな声が聞こえてきたのです。


 ワタクシは咄嗟(とっさ)に腰のレイピアを抜き去りました。周りの音だけに集中し、目を閉じれば……感じました。

 …オアシスに居たのはワタクシだけではありませんでした。


 暑さのせいでワタクシ以外の『何か』に気付かなかった事、あまりにみっともなくワタクシは『何か』が判明(はんめい)したその瞬間に恥ずかしさで死んでしまうのでは、と歯をギリリと()()めました。


 しかしそんなワタクシの私情(しじょう)はいざ知らず。『何か』は目を閉じ神経を()()ませるワタクシに近付いてきました。


 そうして耳元で砂の踏む音が聞こえた瞬間―――。ワタクシはレイピアを後方へ振り抜き、『何か』の喉元(のどもと)へソレを突き付けました。


 その『何か』とは。

 人の形はしておりませんでしたが、ワタクシの稚拙(ちせつ)剣技(けんぎ)()ちてしまうほど、か(よわ)い存在で御座いました。


 ワタクシは(おび)える『何か』の喉元をレイピアで()()ろうと致しました……が、『何か』はするりと、ワタクシと砂の間より抜けていったのです。


『何か』は自分を悪魔だと(のたま)いました。

 そうして(ちゅう)へと水の玉を()かび上がらせたのです。


「これを飲めば一日は水を飲まなくていいんだ、魅力(みりょく)的なお(さそ)いだろう?」


 ワタクシはそれを鼻で笑いました。

 悪魔は御伽噺(おとぎばなし)だろうと、夢物語だろうと、全てに『悪』の立場として(えが)かれる存在。簡単に信用するほどワタクシとて(あさ)はかでは御座いません。


 しかし悪魔は引きませんでした。

 恥ずかしながら気の短いワタクシは、執拗(しつこ)い悪魔をそのまま()(ころ)そうと考えました。


 どこが弱点か(あらた)めてよぅく見てみればその悪魔は足が一本ありませんでした。


 ワタクシがそれを聞けば、悪魔は何故(なぜ)か恥ずかしそうにしながら、()われたのだと教えてくれました。

 人間には理解し(がた)くとも悪魔にとって自分の身を喰われる事は、そういった意味を持つのかもしれない、と。ワタクシは自分の知識の(せま)さに辟易(へきえき)しました。


 悪魔は(さら)に言いました。

悪魔(じぶん)の言葉に反応した人間の『欲』で足が戻る事があるのさ」と。

 つまり彼は『飲めば一日はノドが渇かない魔法の水』を言葉(たく)みに人間へ売り付け、それに乗った人間の『欲』を食い物にしているのだと言うのです。


 ワタクシは話す内、愛着(あいちゃく)()いた彼の言葉に乗る事に致しました。この暑さの中でその『魔法の水』とやらに(すが)りたくなったのもあるやも知れません。


 悪魔はワタクシの答えに笑って皮水筒(かわずいとう)へ水を(そそ)ぎました。ワタクシの心はもう、その悪魔に(だま)されようが構わないとすら思っておりました。


 変わらずワタクシは(じょう)に弱くていけませんね。もっと精進しなくては。


 それから悪魔は去り、ワタクシもオアシスから街の方へと歩き出しました。

 ……皮水筒の水を飲んでみましたが、他と変わりなかったので本当に騙されてしまったのかも知れません。


 ですが、悪魔の中にもああいった害の無い悪魔も居るのだと、ワタクシはまた見聞を広める事が出来ましたので…良しとしましょう。


 それでは長ったらしく生熟(なまな)れな語りでしたが、本日はこれにて閉幕(へいまく)とさせていただきます。

 またご機会(きかい)あれば(さいわ)いです。


 語り部の名瀬は、この辺りで(つるぎ)(おさ)めさせていただきます。








STORY END.

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