男性用【語り部茂木〜家族編〜】
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茂木
[あらすじ]《5分半程度》
語り部の茂木は容姿端麗で年頃の娘等によく囲まれる。彼は今日も今日とて娘等の襲撃より逃げ仰せながら語りをしている―――。
【茂木】
初めまして。オレは語り部の茂木です。こう見えて、ベテランの師の元で三年の修行をしてきた……まぁ、語りには慣れてる方だと思います。
今日語るのは、オレの身に起こった奇跡について。オレがもう一度、語り部になったお話です。
オレはその時、鬼張山がよく見える平原を特に語りをするでもなく歩いていたんですが、ああ。あまり天気は良くなかったですかね。
雨が降る様子ではなかったんですが、少し前に街で買い込んだ荷物の整理をしようと、木陰で休憩を取っていました。
するとそこへ青年がやって来ました。屈強な護衛を従えた、身分の高そうな青年でした。
オレは荷物を整理する振りをしてやり過ごそうとしたんですが、青年の足がオレの近くで止まったんです。
オレは思わず青年を見上げました。人良さそうな顔をした青年が、こちらを見て微笑んだんです。
オレが頭上にハテナを浮かべていれば青年は「やっと逢えた」と疲れ果てたように呟いて、その場に座り込みました。
彼の護衛も、オレすら慌てました。しかし青年はそれに大丈夫だと首を振るとオレを見て「貴方は、……そうですね。分からないと思います」なんて事を言いながらオレの手を握り込みました。
「やっと逢えました」と。
そうして次に青年が放った一言はオレの頭を真っ白にさせました。
「兄さん」、と。
彼は間違いなくそう言いました。
オレには弟が一人居ました。親が離婚したせいで離れ離れになった弟が。
まさかと思いました。
まさか、そんな訳が無いと。
両親が離婚した時、オレはまだまだ幼かったし弟なんて赤子でした。オレの顔なんて覚えている訳がありません。
オレはまず初めに笑いました。揶揄わないでくれと。
しかしその笑いも自然と収まりました。彼が、青年が、……弟が。
自分の古い記憶の中にいる母親と同じ顔をしていたのです。同じ顔でオレを慈しむように見つめていました。
……呆気のない再会でした。
……呆然と迎えた奇跡でした。
弟はそれからオレの知らないたくさんの事を教えてくれました。
母がオレを引き取らなかった事を、病に倒れ死ぬまで後悔していた事。
母の家の跡を継ぐ為、見聞を広めようと世界を渡り歩いている事。
母がいつも自慢していた兄に逢いたいと思った事。
見聞の旅の先で、『とある語り部』が茂木という語り部について教えてくれた事。
……………………。
どうしてその語り部がオレを教えたのか。オレに逢った瞬間に理解したそうです。
オレは目元の綺麗な母と母方の祖父に似ていますからそのお陰でしょうか。
それから弟はオレを誘いました。
帰って来ないかと。家へ帰って共に暮らそうと。
でもオレは首を振りました。
オレは押し掛けのように弟子になったオレを面倒臭がりながらも育ててくれた師匠に恩を返したいのだと。
その言葉は真でした。
でも、オレは心のどこかでその言葉に納得がいってなかったのかもしれません。
弟はそう言うオレに分かった、と言って今暮らしている家の地方名を言って立ち去りました。
残されたオレは考えました。
本当に、そうなんだろうか、と。
師匠に恩を返したいのは、嘘偽り無い言葉だけれど。
オレが『語り部でいたい』理由は他にあるんじゃないか……そこまで考えてオレは荷物整理も半ばだった鞄を手に取って去っていった弟を追いました。
走って、走って、色んな人達を走り抜いた先にいた弟にオレは縋って言いました。驚いたような顔をした弟はそれでも兄の言葉を聞き逃さまいと縋り落ちそうになるオレを支えました。
オレは言いました。
「前言撤回する。オレは語りをするのが楽しい。師匠に恩返しをするだとかそんな、独り善がりじゃない。オレは、」
「オレは、これからずっと。
語り部の茂木として生きていくんだ」
弟はその言葉を聞いて先程とは違う、笑みを浮かべて頷いていました。彼も、オレの『恩返し』なんて言葉に納得がいっていなかったのかもしれません。……離れていても似るものですね…。
それから彼は一度家に帰るのだと言ってすぐに別れました。オレはこれから弟にオレの事を言った『とある語り部』に逢いに行こうと思います。
きっととても逃げ足が早いと思うので見つけられるか、不安ですけどね? ははっ。
おや、そろそろ時間です。
それでは、またどこかでお会いしましょう。語り部の茂木はこの辺で失礼致します。
STORY END.




