男女兼用【語り部瞳鏃〜与太郎編〜】
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瞳鏃
[あらすじ]《6分程度》
語り部瞳鏃は大嘘をこく事で有名な語り部だ。とは言っても嘘をつくのは営業時間外。語りをしていない時ばかりだ。だからこそこの語り部の語りは紛うことなき《本当》なのだ―――。
【瞳鏃】
………。……………あっ、いらっしゃい。
暫くは寒さを凌ごうと思ってたんだけど客が来たなら仕方ないか。ああ、ううん。謝らないでよ。
まだ話してない《とっておき》があったはずだし、それにこの街に来てから語ってないから口を温めたいしね。
まぁ、語ってたら客も集まってくるし、とりあえず聞いてってよ。
ボク? ボクはね、瞳鏃。語り部にしては長い名前だよね。そんな事言っても文句をぶつけられる相手はとっくに逝っちゃってるからまぁ慣れてよ。
それじゃあ今日は与太郎と呼ばれた大嘘つきについて話そうかな。ボクも語り以外では嘘つきだけどボクの話じゃないよ。
与太郎の郷はここより遠い雪国だった。春も夏も秋も冬も、朝も昼も夜だって寒くって。だけど彼等はそこで暮らしてた。他に良い土地があったかもなのにそんな事を気にせずそこで楽しく暮らしてたんだ。……ボクだったら無理だね。
ボクは暑い暑い砂漠の出身だからね、暑いのは大丈夫だけど寒いのには滅法弱いんだよね。
そんな雪国にはとても綺麗な娘が居た。名をサクラ。雪国には似合わない春の暖かい名前だった。そんなサクラには許嫁が居た。彼が、後に与太郎と忌避されちまう男だよ。
彼の名は……うん、ここでは明かさないでおこう。彼の名誉の為にね。
仮名として彼の事はヤジと呼ぼうか。
ヤジはサクラの事を大層愛していた。サクラもヤジを心から想っていたし、周りの人も二人ならお似合いだと思わず手を叩いた程だった。
しかぁーし、幸せは長く続かない。《せおりー》ってやつだけどヤジのは一味違ったんだよ。
夏の時期、雪国は歓迎“むーど”だった。サクラが十の頃から都会へ出兵していた彼女の兄が帰ってきたのさ。
サクラも大層喜んだし、ヤジも自分の事のように喜んだ。当時、都会へ出兵していって戻ってくる者は片手で数える程度だったから。
でもね、この兄ってのが厄介だった。妹であるサクラの許嫁、ヤジが気に入らないと郷全体に聞こえる声で怒鳴ったんだ。
サクラも両親もそんな兄に首を傾げていたけれど兄は頑なにヤジを認めようとしなかった。
それから随分と経った頃、兄は未だにヤジを認めてはいなかったけど二人は子宝に恵まれたと同時に結婚をしたんだ。
郷が祝杯の空気に包まれる中、サクラの兄は《イイこと》を思い付いた。
それは赤ん坊が生まれた時に起こった。
それはもう可愛らしい赤ん坊でね、両家は大喜びだったんだけど…とある噂が郷に流れたんだ。
サクラとヤジの子は余所から貰い受けた子供では無いのか。
いや、不名誉極まりない。ぶっちゃければ《くだらない》噂話にサクラは産後の肥立ちがあまり良くなかったせいか寝込んじゃってね。
ヤジもサクラの看病や赤ん坊の世話に追われながら日に日に痩けていった。
雪国の厳しい環境はサクラの身体を弱らせていったし、乳の出ないサクラの代わりに乳母をしていた近所の女は噂話に耐え兼ねて彼等の家に寄り付かなくなったんだ。
そんな日々が続いたある日の事、ヤジは決心した。それは自分にも、サクラにも…生まれたばかりの赤ん坊にも後後降り掛かることになるかもしれない悪意の種を生み出す行為だった。
ヤジは郷中に聞こえる声で叫んだ。
(出来るだけ大声で)
“サクラと赤ん坊が死んじまっただー! もう、オレはこんな国出ていく! 折角子供の望めねぇ女の為に余所から子供を掻っ攫ってきたってのに! 役に立たねぇアマが! 郷の者も許さねぇからな!”
ヤジは……おうおうと涙を流しながら叫んだんだ。寒くてかなわないだろうに、そうやってサクラと子供を馬鹿にするように叫んだんだ。それを聞いた郷の者は急いで家を出てヤジ達の家へ向かったけど、そこはもぬけの殻だった。
ヤジは大嘘つきになった。
サクラに愛を囁いたクセに大嘘つきだって忌避された。
でも。そんな与太郎のヤジを心から愛している女が一人居た。
言わずもがな、大声で死んだと嘘をつかれたサクラだった。
サクラは雪国を出て暑い暑い砂漠の国へやって来るとみるみるうちに回復して赤ん坊もスクスク育った。
それから、子供が育ち独り立ちすると彼等は砂漠の国を離れていった。どこで何をしてるかはボクにも分からないけど…きっと、幸せだと思うよ。だって二人は許嫁であった時も孕んだ時も結婚した時も。
ひどい噂に耐えて食い繋いでいた時も彼を愛していたし、彼女を想っていたのだから。
ああ、サクラの兄?
さあ? どうなったかは知らないけどヤジからサクラを奪い取りたかったのにみすみすサクラを喪ったんだから……まぁ、馬鹿だよねぇ。
あ、客も集まってきたし。もう一つ語るかな。じゃあ…次の演目で会おうね。
STORY END.




