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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
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40/197

男女兼用【語り部瞳鏃〜与太郎編〜】

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 (ひとみ)(やじり)

[あらすじ]《6分程度》

 (かた)()(ひとみ)(やじり)は大嘘をこく事で有名な語り部だ。とは言っても嘘をつくのは営業時間外。語りをしていない時ばかりだ。だからこそこの語り部の語りは紛うことなき《本当》なのだ―――。










【瞳鏃】


 ………。……………あっ、いらっしゃい。

 (しばら)くは寒さを(しの)ごうと思ってたんだけど客が来たなら仕方ないか。ああ、ううん。謝らないでよ。


 まだ話してない《とっておき》があったはずだし、それにこの街に来てから語ってないから口を温めたいしね。


 まぁ、語ってたら客も集まってくるし、とりあえず聞いてってよ。

 ボク? ボクはね、(ひとみ)(やじり)。語り部にしては長い名前だよね。そんな事言っても文句をぶつけられる相手はとっくに()っちゃってるからまぁ慣れてよ。


 それじゃあ今日は与太郎(よたろう)と呼ばれた大嘘つきについて話そうかな。ボクも語り以外では嘘つきだけどボクの話じゃないよ。


 与太郎の(さと)はここより遠い雪国(ゆきぐに)だった。春も夏も秋も冬も、朝も昼も夜だって寒くって。だけど彼等はそこで暮らしてた。他に良い土地があったかもなのにそんな事を気にせずそこで楽しく暮らしてたんだ。……ボクだったら無理だね。

 ボクは暑い暑い砂漠(さばく)の出身だからね、暑いのは大丈夫だけど寒いのには滅法(めっぽう)弱いんだよね。


 そんな雪国にはとても綺麗な娘が居た。名をサクラ。雪国には似合わない春の暖かい名前だった。そんなサクラには許嫁(いいなずけ)が居た。彼が、(のち)に与太郎と忌避(きひ)されちまう男だよ。


 彼の名は……うん、ここでは明かさないでおこう。彼の名誉(めいよ)の為にね。

 仮名(かりめい)として彼の事はヤジと呼ぼうか。


 ヤジはサクラの事を大層(たいそう)愛していた。サクラもヤジを心から想っていたし、周りの人も二人ならお似合いだと思わず手を叩いた程だった。


 しかぁーし、幸せは長く続かない。《せおりー》ってやつだけどヤジのは一味(ひとあじ)違ったんだよ。


 夏の時期、雪国は歓迎(かんげい)“むーど”だった。サクラが(とお)の頃から都会へ出兵(しゅっぺい)していた彼女の兄が帰ってきたのさ。

 サクラも大層(たいそう)喜んだし、ヤジも自分の事のように喜んだ。当時、都会へ出兵していって戻ってくる者は片手で数える程度だったから。


 でもね、この兄ってのが厄介(やっかい)だった。妹であるサクラの許嫁(いいなずけ)、ヤジが気に入らないと(さと)全体に聞こえる声で怒鳴(どな)ったんだ。


 サクラも両親もそんな兄に首を(かし)げていたけれど兄は(かたく)なにヤジを認めようとしなかった。


 それから随分(ずいぶん)と経った頃、兄は未だにヤジを認めてはいなかったけど二人は子宝(こだから)(めぐ)まれたと同時に結婚をしたんだ。

 (さと)祝杯(しゅくはい)の空気に包まれる中、サクラの兄は《イイこと》を思い付いた。


 それは赤ん坊が生まれた時に起こった。

 それはもう可愛らしい赤ん坊でね、両家(りょうけ)は大喜びだったんだけど…とある(うわさ)(さと)に流れたんだ。


 サクラとヤジの子は余所(よそ)から(もら)い受けた子供では無いのか。


 いや、不名誉(ふめいよ)(きわ)まりない。ぶっちゃければ《くだらない》噂話にサクラは産後(さんご)肥立(ひだ)ちがあまり良くなかったせいか寝込んじゃってね。


 ヤジもサクラの看病(かんびょう)や赤ん坊の世話に追われながら日に日に()けていった。

 雪国の厳しい環境はサクラの身体を弱らせていったし、(ちち)の出ないサクラの代わりに乳母(うば)をしていた近所の女は噂話に()()ねて彼等の家に寄り付かなくなったんだ。


 そんな日々が続いたある日の事、ヤジは決心(けっしん)した。それは自分にも、サクラにも…生まれたばかりの赤ん坊にも後後(あとあと)降り掛かることになるかもしれない悪意の種を生み出す行為(こうい)だった。


 ヤジは(さと)中に聞こえる声で(さけ)んだ。


(出来るだけ大声で)

 “サクラと赤ん坊が死んじまっただー! もう、オレはこんな国出ていく! 折角(せっかく)子供の望めねぇ女の為に余所(よそ)から子供を()(さら)ってきたってのに! 役に立たねぇアマが! (さと)(モン)も許さねぇからな!”


 ヤジは……おうおうと涙を流しながら叫んだんだ。寒くてかなわないだろうに、そうやってサクラと子供を馬鹿にするように叫んだんだ。それを聞いた郷の者は急いで家を出てヤジ達の家へ向かったけど、そこはもぬけの(から)だった。




 ヤジは大嘘つきになった。

 サクラに愛を(ささや)いたクセに大嘘つきだって忌避(きひ)された。


 でも。そんな与太郎(よたろう)のヤジを心から愛している女が一人居た。

 言わずもがな、大声で死んだと嘘をつかれたサクラだった。

 サクラは雪国を出て暑い暑い砂漠の国へやって来るとみるみるうちに回復して赤ん坊もスクスク育った。


 それから、子供が育ち独り立ちすると彼等は砂漠の国を離れていった。どこで何をしてるかはボクにも分からないけど…きっと、幸せだと思うよ。だって二人は許嫁(いいなずけ)であった時も(はら)んだ時も結婚した時も。

 ひどい噂に耐えて食い(つな)いでいた時も彼を愛していたし、彼女を想っていたのだから。


 ああ、サクラの兄?

 さあ? どうなったかは知らないけどヤジからサクラを(うば)い取りたかったのにみすみすサクラを(うしな)ったんだから……まぁ、馬鹿だよねぇ。


 あ、客も集まってきたし。もう一つ語るかな。じゃあ…次の演目(えんもく)で会おうね。









STORY END.

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