女性用【語り部桃道〜木霊編〜】
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桃道
[あらすじ]《5分程度》
西の辺境生まれの語り部桃道はこの道20年のベテランである。可愛らしい髪留めを付けた彼女は今日も胡座をかいて語り始めるのだった―――。
【桃道】
さて、ほんなら今日も始めまひょか。
語り部桃道言うたら、知らん人の方が珍しいて言われるようになりましてね。
いやぁ、ありがたい事になってしもたんやけど、そろそろ身体にガタでも来そうやから若いモンに任そかな? とも思うてるんよ。
ふふ、やけどソレはずっと先の話。今は今の語りを大事ィにしてこか。
早速やけど、皆さんは『百鬼夜行』言うんは知っとる?
・・・そうそう! よう知っとるね、鬼やアヤカシが夜、人が寝静まった頃合いに集って行進するモンやね。
実際に見た事あるんか言われたら、そりゃ無いんやけど。でも鬼やアヤカシもそうやって楽しんで生きてるんやて分かるのは、ほんちょっとワクワクしいひん?
アタシも昔はそういうんが見えとったんやけど今はさっぱりや。ははっ!
(少しおどけた風に)
今も見えとったら多少は語りのネタもあったんやけどね?
…でも今から話すんはアタシの実体験や。そう。アタシがまだそういうんを面白可笑しく見とった時代の話。置いてかれんように、よぉく聞いとり。
アタシは語り部やる前は芸人の劇団に入っとったんよ。言うても劇に出とった訳やない。芸人さんの汗拭いたり、小道具片付けたり、客引きしたり…まぁ、下っ端やっとったんやけど。
芸人になりたい言う訳やなくて病気のおっ母と幼い弟を養う為に必死こいて働いてたんよ。
ある日の事や。
その日も一日クッタクタになって仕事終えた後、夜風に当たろう思うて外に出たんやわ。
そしたらその劇団で人気やった芸人さんがふらふらと人気の無い方へ歩いてったんよ。その芸人さん、女の人やったから危ない思て、アタシも一応な? 護身用の小刀やとか持って後をつけてったんよ。
その芸人さん…名前は確か…キレイ。やったかな。まぁ、綺麗な顔立ちしとったし、キレイさんのお客さん達も『キレイさんは今日も綺麗やなぁ』とか言うとったし、下っ端のアタシにもすんごい優しいてな。心も顔も綺麗な人やからその名前は納得やったわ。
・・・そんで…そのキレイさんは人気の無い路地をどんどんどんどん…ふらふらとした足取りで進んでったんやけど。ふと、足を止めたんよ。
アタシ、気付かれた思うてビクビクしとったんやけどキレイさんはキョロキョロ左右に首振った後、まるで幽霊みたいに透き通った身体になったんよ。
アタシもうビックリしてしもて。アッ! って声上げてしもうたんよ。キレイさんもすっかりこっちに気づいてしもて、アタシは思わず謝ってもうたわ。
危ない思うたのも事実やけど黙って後ついてしもたんも事実やし。それにキレイさん、…そんな、夜に隠れてどっか行って正体現す言う事は、その事を隠したかったんやろし。一言なんか言えば良かったなぁ思て。
でもキレイさんはそんなアタシを笑うて許してくれたんよ。
そんでな、アタシにだけや言うて自分のヒミツゴト、話してくれたんよ。
キレイさんはやっぱり人間やなくて、でも人間に憧れてたんやって。まだ力も言葉も持ってへんかった時代に見た劇が忘れられんくて…やっと人間に化けれるようになってこうして劇出来とるんやて。
それからキレイさん教えてくれた。
自分が死にそうな時に助けてくれたのも人間やから、自分も人間に優しゅうしたいて。下っ端のアタシにも優しいんはそういう事やったんや思て、納得したわ。
それからキレイさんが何でキレイさん言うんかも教えてくれたんよ。
キレイを字で書くとな、木に、幽霊の霊って書いて木霊なんやって。
・・・ふふ、そう。これ別の読み方出来るんよ。
木霊。
キレイさんの正体は木霊やったんよ。
それから何年かしてアタシは劇団を抜けて、それと同時期に劇団も別の街へ旅立ってった。
キレイさんとはそれから会ってへんけど、きっと今も優しい、木霊さんでおるんやろうな。
ふふ、今日はここまでや。
ほんなら、また会いまひょか。また、どっかで。
STORY END.