表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
179/196

男性用【語り部藻奏〜水林檎編〜】

台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。

『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂1:♀0:不問0

 藻奏

[あらすじ]《6分半程度》

 かた藻奏もかな吸血鬼きゅうけつきの血が入った自分を随分ずいぶんいている。太陽も大蒜にんにくかぬ彼の語りに、我を忘れる者も少なくない―――。














【藻奏】


 HEYヘイ! そこら辺の紳士しんし淑女しゅくじょ! 語り部は好きかな!?


 このボクの語りを聞けば、其方そなた達の理想はボクになるし!

 其方達の憧れもボクになる…!

 どうだ、聞いていかないかい!? 道をいてる? そりゃ残念。ほうら行きたまえ。構うもんか、行った行った。


(少しねたように)

 ……客の優先順位を入れ替えられる技術なんて、今のボクは持ち合わせてないんだ。


 …おっ、君は…ああ、いや。其方は聞いてくれるのか!? うんうん、其方は良い判断をした!

 では、今から話すとしよう!

 これはそう、云千年うんぜんねんも昔にボクが…ああ、じゃ無かった。とある高貴こうきな身の者が食した、まぼろし果実かじつについて。


 その果実は、力の無い者がふれればたちまち、水になってはじけてしまう難儀なんぎな性質を持っていた。

 だが、力のある者…うぅん、其方達にも分かりやすく言うとすれば…、妖怪や魔族の血をぐ者、だろうか。

 犬猫いぬねこたとえるならば、血統書けっとうしょ付きというやつだ!


 …ふふん、我ながらいい喩えだぞ。

 話を戻そう。閑話かんわ休題きゅうだいだ!


 その果実にれるのが、力のある者だった場合、果実は水にはならず、その形を保ったままで存在し続ける。

 一体全体、どういう原理げんりでそうなっているのかは知れないが、かく


 その果実をくずす事なく、しょくせたら一人前だ、なんていうジンクスがボクらの…じゃなかった、高貴なる者の界隈かいわいで流れたのだ。


 試したい! そう思った者が居た。

 父も母も、物心つく頃には居らず、周りの大人には余所者よそものののしられ、自分の価値すら見出みいだせなかった、あわれで小さな吸血鬼。


 何処どこにあるかも分からない、その果実を求めて吸血鬼は旅立つのだが…まあ、この話は果実の話に微塵みじんも関係がないからな。いつかまた何処かで話すとしよう。

 ふふ! 気になるか!?

 だがおあずけだ! ボク自身の…じゃなかった、小さな吸血鬼の話はもう少しのあたる場所で話したいからな!


 話を戻そう、またまた閑話休題だ!


 幾多いくたの困難を乗り越え、ついに果実を見つけ出した吸血鬼は、無我むが夢中むちゅうでその果実に手を伸ばした。


 しかしその果実は、別の誰かに奪われたのだ。目の前で、後少しで届きそうな所でだ。


 それを拾ったのは、どこぞの魔法使い。自身を人間としょうしながらも、並外なみはずれた力を持つ気まぐれ野郎の事だが…、まあ。コイツについてもまたいずれ。


 魔法使いは吸血鬼には目もくれず、果実をクシャリ、とひと噛みして、だけれどすぐに、グェ、と舌を前歯でこすりながら吐き出したのだ!

 何と勿体もったいい! と吐き出された欠片かけらに触れた瞬間、果実は水の塊となって、あっという間もなく、ぱしゃんと音を立てて割れた。


 言い伝え通りならば、吸血鬼には力が無い、ということになる。小さな吸血鬼は残念に思って、だけれど心のどこかで分かっていた事だと無理にうなずく。

 仕方ない、まだ吸血鬼としても半分以下しか生きていない小僧こぞうが食えるものではなかったのだと。…まぁ、そんな風に。


 と、目の前にかじられた果実が現れる。魔法使いだ。幻の果実をひと口噛んで、そのまま吐き出した力のある者。

 彼が吸血鬼に果実を差し出していた。


 吸血鬼がそれを受け取ろうと、手を差し伸べれば、途端に果実を引っ込めて“だめだめ”と首を振った。

 魔法使いは言った。


 “触れてはだめ”

 “最初は口をつけるだけ”

 “その熱さを知るのは、まわったモノ”


 つまりは魔法使いの手ずから果実を食らえ、と。そういう事だった。


 ボクは…


(頬を自分で打つ)


 じゃなかった、吸血鬼は意を決して果実を頬張ほおばった。

 瞬間、顔がゆがむ。不味まずい。不味すぎる。苦くてしぶい味が口全体に広がる前に、吸血鬼はベエェと果実を吐き出した。


 魔法使いは笑って“でしょ?”なんて言って、ポイッと果実を放り投げてしまう。

 べしゃりとつぶれた果実を、ボクが足で蹴り上げると、たちまち水に変わった。


 美味うまくない、と分かってから、果実に魅力を感じなくなったボクは、いつの間にか居なくなっていた魔法使いを気にすることなく、その場を立ち去ったのだった。





 ………とまあ。これがボクが…じゃない。とある吸血鬼が求めた、力のある者しか食せない幻の果実…の話だ。

 御満足ごまんぞく頂けたかな?


 何? “探しに行きたい”? しておくんだ、とんでもない道程みちのりになるぞ。このボクですら数十年は掛かったんだ。ただの人間が求めていいような代物しろものじゃないさ。

 …不味まずいと分かっている物を態々(わざわざ)食したいだなんて、人間ってやつは酔狂すいきょうだな。


 ん? せめて名前を? 良いだろう、心して聞くがいい。

 その果実の名は『水林檎みずりんご』。誰がそう呼び始めたかまでは知らないが、みょうだと思って広めさせてもらってる。


(小声で)

 案外アイツだったりしてな…ふふふ。




 エッ。

 ボクの、名前…?

 ……アッ、…アァ〜〜〜〜……?

 …そう言えば名乗ってない、な…?


 いやはや、こりゃ失敬しっけい

 では今回は名乗って終わりにしようか! ボクは藻奏もかな! 最中もなかじゃないぞ! 語り部の藻奏だ!


 この小さなえんがボクをいろど一端いったんとなろう!

 聞いてくれてありがとう、またいずれどこかで!














STORY END.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ