男性用【語り部藻奏〜水林檎編〜】
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藻奏
[あらすじ]《6分半程度》
語り部の藻奏は吸血鬼の血が入った自分を随分好いている。太陽も大蒜も効かぬ彼の語りに、我を忘れる者も少なくない―――。
【藻奏】
HEY! そこら辺の紳士淑女! 語り部は好きかな!?
このボクの語りを聞けば、其方達の理想はボクになるし!
其方達の憧れもボクになる…!
どうだ、聞いていかないかい!? 道を急いてる? そりゃ残念。ほうら行き給え。構うもんか、行った行った。
(少し拗ねたように)
……客の優先順位を入れ替えられる技術なんて、今のボクは持ち合わせてないんだ。
…おっ、君は…ああ、いや。其方は聞いてくれるのか!? うんうん、其方は良い判断をした!
では、今から話すとしよう!
これはそう、云千年も昔にボクが…ああ、じゃ無かった。とある高貴な身の者が食した、幻の果実について。
その果実は、力の無い者が触れば忽ち、水になって弾けてしまう難儀な性質を持っていた。
だが、力のある者…うぅん、其方達にも分かりやすく言うとすれば…、妖怪や魔族の血を濃く継ぐ者、だろうか。
犬猫で喩えるならば、血統書付きというやつだ!
…ふふん、我ながらいい喩えだぞ。
話を戻そう。閑話休題だ!
その果実に触れるのが、力のある者だった場合、果実は水にはならず、その形を保ったままで存在し続ける。
一体全体、どういう原理でそうなっているのかは知れないが、兎も角。
その果実を崩す事なく、食せたら一人前だ、なんていうジンクスがボクらの…じゃなかった、高貴なる者の界隈で流れたのだ。
試したい! そう思った者が居た。
父も母も、物心つく頃には居らず、周りの大人には余所者と罵られ、自分の価値すら見出だせなかった、哀れで小さな吸血鬼。
何処にあるかも分からない、その果実を求めて吸血鬼は旅立つのだが…まあ、この話は果実の話に微塵も関係がないからな。いつかまた何処かで話すとしよう。
ふふ! 気になるか!?
だがお預けだ! ボク自身の…じゃなかった、小さな吸血鬼の話はもう少し陽のあたる場所で話したいからな!
話を戻そう、またまた閑話休題だ!
幾多の困難を乗り越え、ついに果実を見つけ出した吸血鬼は、無我夢中でその果実に手を伸ばした。
しかしその果実は、別の誰かに奪われたのだ。目の前で、後少しで届きそうな所でだ。
それを拾ったのは、どこぞの魔法使い。自身を人間と称しながらも、並外れた力を持つ気まぐれ野郎の事だが…、まあ。コイツについてもまた何れ。
魔法使いは吸血鬼には目もくれず、果実をクシャリ、とひと噛みして、だけれどすぐに、グェ、と舌を前歯で擦りながら吐き出したのだ!
何と勿体無い! と吐き出された欠片に触れた瞬間、果実は水の塊となって、あっという間もなく、ぱしゃんと音を立てて割れた。
言い伝え通りならば、吸血鬼には力が無い、ということになる。小さな吸血鬼は残念に思って、だけれど心のどこかで分かっていた事だと無理に肯く。
仕方ない、まだ吸血鬼としても半分以下しか生きていない小僧が食えるものではなかったのだと。…まぁ、そんな風に。
と、目の前に齧られた果実が現れる。魔法使いだ。幻の果実をひと口噛んで、そのまま吐き出した力のある者。
彼が吸血鬼に果実を差し出していた。
吸血鬼がそれを受け取ろうと、手を差し伸べれば、途端に果実を引っ込めて“だめだめ”と首を振った。
魔法使いは言った。
“触れてはだめ”
“最初は口をつけるだけ”
“その熱さを知るのは、廻ったモノ”
つまりは魔法使いの手ずから果実を食らえ、と。そういう事だった。
ボクは…
(頬を自分で打つ)
じゃなかった、吸血鬼は意を決して果実を頬張った。
瞬間、顔が歪む。不味い。不味すぎる。苦くて渋い味が口全体に広がる前に、吸血鬼はベエェと果実を吐き出した。
魔法使いは笑って“でしょ?”なんて言って、ポイッと果実を放り投げてしまう。
べしゃりと潰れた果実を、ボクが足で蹴り上げると、忽ち水に変わった。
美味くない、と分かってから、果実に魅力を感じなくなったボクは、いつの間にか居なくなっていた魔法使いを気にすることなく、その場を立ち去ったのだった。
………とまあ。これがボクが…じゃない。とある吸血鬼が求めた、力のある者しか食せない幻の果実…の話だ。
御満足頂けたかな?
何? “探しに行きたい”? 止しておくんだ、とんでもない道程になるぞ。このボクですら数十年は掛かったんだ。ただの人間が求めていいような代物じゃないさ。
…不味いと分かっている物を態々食したいだなんて、人間ってやつは酔狂だな。
ん? せめて名前を? 良いだろう、心して聞くがいい。
その果実の名は『水林檎』。誰がそう呼び始めたかまでは知らないが、言い得て妙だと思って広めさせてもらってる。
(小声で)
案外アイツだったりしてな…ふふふ。
エッ。
ボクの、名前…?
……アッ、…アァ〜〜〜〜……?
…そう言えば名乗ってない、な…?
いやはや、こりゃ失敬!
では今回は名乗って終わりにしようか! ボクは藻奏! 最中じゃないぞ! 語り部の藻奏だ!
この小さな縁がボクを彩る一端となろう!
聞いてくれてありがとう、また何れどこかで!
STORY END.