男性用【くっきりと視えない】
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目が悪い人
[あらすじ]《2分半程度》
思わずギョッと目を瞠る。それから目を細めて、ああ、何だ。またか、と目を伏せた。ワタシが首吊り死体と勘違いした風船が、目の上を泳いでいった―――。
【目が悪い人】
電信柱の半分にもなるような、大きな猿を見たかと思えば、それは変に曲がった木の幹だったりして。
そういうのが、多々あるんですよ。
そういうのをね、目が悪いからだって思って、眼科にも行ったんですけどね。
両目とも、2.0。特に異常も無ければ、この歳にしては優秀な視力だ、なんて太鼓判まで押されちゃいましてね。
だけれど、外を歩く度、そういう事があるもんですから。ほら、気味が悪いじゃないですか。変なものに憑かれでもしてんじゃないかって。
だからね、知り合いにお寺さんの生まれが居たもんですから、ちょっと見てもらおうと思って、紹介をしてもらったんです。
着いてみると、随分小ぢんまりとしていて、失礼ながらに本当に大丈夫かと、心の中で知り合いを疑いましたよ。
そうしたら、そこの住職さんというんですか、和尚さんというんですか、出てきましてね。
自己紹介もせんままに、『そう思っていれば無事でしょうな』と言ったんです。
一体なんの事か、最初は分かりませんでしたけどね、続けて彼が言ったんです。
『顔の真っ赤な女が立っていたと思えば、それは赤いポストでしたね』
それだけで充分でした。この人に頼ればもう一安心。何もかも分かっておられるのだと。
いや、しかし。彼はお経とやらを読む訳でも、ワタシに憑いているであろう何某かに話し掛ける訳でもなく、ただ、最初の言葉を言ったんですよ。
『そう思っていれば無事でしょうな』と。
ワタシが首を傾げれば、彼は困ったように眉を下げ、口を開けては閉じ、開けては閉じを、繰り返しまして。
そして、軈て観念したみたいに、コチラを真っ…直ぐ見て、こう言いました。
『これからも、木の幹と思っていなさい。これからも、赤いポストと思っていなさい。思い込んでしまえさえすれば、彼らはそれ以上近寄って来ないから』、とね。
そんな事聞いちまったら、おっそろしくて、寝れやしないじゃないですか。
だけれど、彼に不満をぶつけても、何にもなりゃあしませんから、ワタシは一言礼をして、少々ばかりの金を握らせて、逃げるように帰りましたよ。
それから? 言ったでしょう。そういう事がね、多々あるんですよ。
だけどね、目が悪いから仕方ないんですよ。
STORY END.