男女兼用【消してみる】
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胡散臭い言い回しをする中年
[あらすじ]《3分程度》
ドンドンドンドン、と荒々しく私の部屋の扉を叩いたのは弟子の中でも一等才能がない中年の奴だった。「先生聞いてください!!」と真剣な顔をして寝惚ける私を叫び起こした―――。
【胡散臭い言い回しをする中年】
先生、ちゃんと起きて聞いてくださいな! ワタクシね、消せたんですよ! いやぁ、ねえ? 先生の弟子として下の奴らがどんどん出世して行く中で、悔しい思いをしながらも布を引っ噛んで努力してきましたよ!
…………って、先生!! 起きて下さい!
全く弟子がちゃんと貴方の教えを甘受して遂行出来たっていうのに!
……こほん、えーっとですね。先生。ワタクシね、消せたんですよ。先生の本を。先生の教えをいつまで経っても遂行出来ないでいて嫌気が差しましてね、鳴呼、もう嫌だと首を振ったならば、先生の書いた有難い本がね、パッと目の前から泡のように消え去ったんですよ。
驚いただとか、そういう生易しい言葉で表すにはあまりに、こう、現実味のない出来事でしてね。…ええ、ええ、そうですとも。そうですとも。ワタクシは先生の教えなど「現実逃避したい大人の戯言」だと思っていましたよ。でも違いましたよ、先生。
だからね、ワタクシはちょっとだけ面白く思いまして、今度は先生の奥さんが丹精込めて作り上げてくださいました、歪な壺を消してみようとしましたらね。
今度は何も嫌だとか何とか考えてなどおりませんでしたのに、ちょっと手を翳して瞬きを一つ。あれま不思議。
……無いんですよ、何処にも。
何処にも奥さんの壺が無かったのでございますよ。
こりゃたまらんと、ワタクシ調子に乗りまして。
ワタクシよりも下の世代からお世辞に貰った手紙やら、先生が飼ってた猫畜生が持ってきた頭の無い煮干しやら、特に生活に必要のないもんをずらずらと自分の前に並べ立てまして、こう、手をピャっと前に出して、考えたんですよ。
消えれば面白い、ってね。
そうしたらね、無いんですよ! 先生! 無かったんですよ! 消えたんです、先生! 消せたんですよ、先生!
だからね、ワタクシ。
先生がね、やめろと再三言ってやらせてくれなかった事もちょっと試してみようと思いまして、こう考えましたよ。
“自分を消してみる”って。
……。
えぇ、えぇ。言いたいことはよく分かりますとも。ワタクシが今此処にいる。それが答えですよ。自分なんか消せませんでしたよ、どうやっても。
だけどね、先生。ワタクシは、
ワタクシは…………………?
はて、……………ワタクシは、………私は、誰でしたっけね・・・・・・・・・?
STORY END.