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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
125/196

男性用【不死騎士の祈り】

声劇タイトルは

【ふしきしのいのり】と読みます。



台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。

『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂1︰♀0︰不問0


 ヴィル・ローゼハット

〈教会で神父をしている男。併設(へいせつ)されている孤児院(こじいん)で子供達の世話もしている。家に戻る気はないようだ〉


[あらすじ]《7分半程度》

 キース・ローゼハット。不可解な死を()げた、かつての聖騎士(せいきし)だ。キースの息子、ヴィルは「おかしな家だったみたいです」と落ち着いた様子で話し始めた―――。










【ヴィル・ローゼハット】

 ローゼハットの家は代々、王族に(つか)えていました。…聖騎士として。

 僕の祖父もそうで、その前の当主もそうだったのだと父が言っていました。


 父には兄が居ました、アノン・ローゼハット。剣の才能に(あふ)れ、読み書きも計算も大人顔負けで。(まさ)しく神童(しんどう)だったと。


 ある秋の事でした。

 自分にも他人にも恐ろしく厳しかった祖父が父と伯父(おじ)にとある試練を与えました。

 これを突破(とっぱ)出来れば聖騎士になるのも時間の問題だと祖父は声高(こえたか)らかに言ったそうです。


 フィレントの森。

 今では立ち入りが禁じられている危険な森です。その危険な森に住む魔物を一匹、幼い兄弟で倒してみせろと言ったのです。


 当時こそ立ち入りは禁じられていなかったものの、年端(としは)のいかない兄弟が生きて帰って来れるほど容易(たやす)い森ではありませんでした。


 家の使用人や騎士は祖父に反発(はんぱつ)しました。

 しかし彼はそれを跳ね除け、まだ夜も深い時間に眠る兄弟を抱きかかえて、森へ置いてきてしまったんです。


 当時、父が八歳で伯父が十三歳でした。

 目を覚ました兄弟は(おび)える間もなく、魔物に追われました。

 本で見るのとは違う、凶悪(きょうあく)な姿をした魔物に二人は()(すべ)もありませんでした。


 (しばら)く森の中を逃げ回った二人は(がけ)まで追い詰められました。伯父は腰の剣を抜き、魔物に牽制(けんせい)しましたが、あまり意味を為しませんでした。

 そんな兄弟へ魔物が一歩足を踏み出したその時、ドンっという何か大きなモノが撃ち抜かれたような音を立てて彼らの立っていた崖が(くず)れ落ちたのです。



 父が目を覚ました時、伯父の腕の中に居たそうです。身体中が痛かったものの、特に外傷(がいしょう)が無かったのは落ち葉がクッションの代わりになってくれたのだろうと言っていました。


 しかし伯父の意識は待てど暮らせど戻りませんでした。朝日が昇ってきて、魔物達の動きも鈍くなって来た頃でしたから、父は伯父を背負って森を抜けることにしたんです。


 ああ、一緒に落ちた魔物ですか? 伯父を背負って少し歩いた先で岩に突き刺さったまま、事切れていたそうですよ。


 自分よりも背の高い伯父を背負って森を()く父は一歩一歩を足を踏み締める度に祖父への憎しみが大きくなるのを感じたそうです。

 でも、背中から感じる伯父の温かさが自分を踏み留まらせたのだとも言っていましたね。


 父と伯父は森を抜ける前に家に仕える騎士団によって助け出されました。祖父の反対を押し切ってやって来た騎士団は二人の姿を認めるなり、滝のように涙を流し抱き締めました。


 父は全治二ヶ月の打撲(だぼく)と数日熱に(うな)される程度で済みましたが、伯父は右足を失ったようでした。

 聖騎士どころか一般兵にすらなれなくなった伯父はそれでも命があって良かったと笑っていたそうです。


 それからでした。

 祖父が父に期待し始めたのは。


 父には伯父(あに)が居ましたから、そこまで世継(よつ)ぎだどうのと騒がれる事もなく、ただ剣を握って、…しかし聖騎士までとは望んでいませんでした。


 祖父はそんな父を甘ったるいと叱咤(しった)して、伯父(おじ)にしていたのと同じ訓練を()せました。


 ある日の事です。

 父が十五になる一ヶ月ほど前の事。その頃には怠惰(たいだ)な将来を諦めて聖騎士になるという絶望(ゆめ)を持つようになっていました。


 訓練を終えて家へ帰ってきた父は(かす)かに香る血の匂いに(まゆ)(ひそ)めました。

 出迎えてくれた執事に荷物を預け、父は血の匂いのする方へと歩いて行きました。


 辿(たど)り着いた先は祖父の書斎(しょさい)でした。父は迷わずトビラを開けました。


 ――伯父(あに)が居ました。


 何をしているのかと聞いた父に彼は「やはりお前は分かるか」と目を細めて笑いました。

 そうして、少し身体をずらした彼の向こうに胸を突かれた祖父が居たそうです。


 父は彼が最後に言った言葉がずっと忘れられないと苦しそうに笑っていました。


「聖騎士殿はさすがだな。やはり聖なる者だからか。…何度傷付けても血なんか出て来なかったよ。………お前は聖騎士(こんなもの)にならないでくれ」


 ――――…。


 父は若くして騎士となり、僕の弟が生まれる頃には聖騎士として皆に(した)われていました。

 父は僕にも弟にも騎士になる事を強要(きょうよう)する事はありませんでした。

 僕は教会で神父になる勉強をし、弟は商人ギルドに入って今では幹部(かんぶ)を任されているみたいです。


 年終わりに家族みんなで集まって近況(きんきょう)を報告する際、父は話してくれました。祖父の事、伯父(おじ)の事、自分自身の事…。

 それが亡くなる二年ほど前のことです。


 ……父が亡くなったと聞いた時、僕は真っ先に会ったことも無い伯父の事を考えました。

 証拠(しょうこ)もない、ただの憶測(おくそく)です。…だけれど、父の話を聞いてから、消息(しょうそく)不明(ふめい)の伯父が聖騎士になった父を探し出して祖父と同じようにしてしまったのではないかと。そう思えてしまってならないのです。


 父はそれをきっと、分かっていました。

 だから僕達に騎士を(すす)める事はしなかったのでしょう。


 そして、恐らく父は会いたかったのでしょう。祖父をあんな風にしてしまってから一度も姿を見せなかった伯父(あに)に。


 ……父が伯父(おじ)に会えたかどうかも、父が亡くなった要因(よういん)が伯父なのかどうかも僕には分かりません。


 ……ですが、どうか。

 父の運命が安らかに眠る事を、(いの)っています。


 それではそろそろ祈りの時間ですので失礼します。

 道中(どうちゅう)お気を付けてお帰りください。









STORY END.

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