男性用【不死騎士の祈り】
声劇タイトルは
【ふしきしのいのり】と読みます。
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ヴィル・ローゼハット
〈教会で神父をしている男。併設されている孤児院で子供達の世話もしている。家に戻る気はないようだ〉
[あらすじ]《7分半程度》
キース・ローゼハット。不可解な死を遂げた、かつての聖騎士だ。キースの息子、ヴィルは「おかしな家だったみたいです」と落ち着いた様子で話し始めた―――。
【ヴィル・ローゼハット】
ローゼハットの家は代々、王族に仕えていました。…聖騎士として。
僕の祖父もそうで、その前の当主もそうだったのだと父が言っていました。
父には兄が居ました、アノン・ローゼハット。剣の才能に溢れ、読み書きも計算も大人顔負けで。正しく神童だったと。
ある秋の事でした。
自分にも他人にも恐ろしく厳しかった祖父が父と伯父にとある試練を与えました。
これを突破出来れば聖騎士になるのも時間の問題だと祖父は声高らかに言ったそうです。
フィレントの森。
今では立ち入りが禁じられている危険な森です。その危険な森に住む魔物を一匹、幼い兄弟で倒してみせろと言ったのです。
当時こそ立ち入りは禁じられていなかったものの、年端のいかない兄弟が生きて帰って来れるほど容易い森ではありませんでした。
家の使用人や騎士は祖父に反発しました。
しかし彼はそれを跳ね除け、まだ夜も深い時間に眠る兄弟を抱きかかえて、森へ置いてきてしまったんです。
当時、父が八歳で伯父が十三歳でした。
目を覚ました兄弟は怯える間もなく、魔物に追われました。
本で見るのとは違う、凶悪な姿をした魔物に二人は為す術もありませんでした。
暫く森の中を逃げ回った二人は崖まで追い詰められました。伯父は腰の剣を抜き、魔物に牽制しましたが、あまり意味を為しませんでした。
そんな兄弟へ魔物が一歩足を踏み出したその時、ドンっという何か大きなモノが撃ち抜かれたような音を立てて彼らの立っていた崖が崩れ落ちたのです。
父が目を覚ました時、伯父の腕の中に居たそうです。身体中が痛かったものの、特に外傷が無かったのは落ち葉がクッションの代わりになってくれたのだろうと言っていました。
しかし伯父の意識は待てど暮らせど戻りませんでした。朝日が昇ってきて、魔物達の動きも鈍くなって来た頃でしたから、父は伯父を背負って森を抜けることにしたんです。
ああ、一緒に落ちた魔物ですか? 伯父を背負って少し歩いた先で岩に突き刺さったまま、事切れていたそうですよ。
自分よりも背の高い伯父を背負って森を行く父は一歩一歩を足を踏み締める度に祖父への憎しみが大きくなるのを感じたそうです。
でも、背中から感じる伯父の温かさが自分を踏み留まらせたのだとも言っていましたね。
父と伯父は森を抜ける前に家に仕える騎士団によって助け出されました。祖父の反対を押し切ってやって来た騎士団は二人の姿を認めるなり、滝のように涙を流し抱き締めました。
父は全治二ヶ月の打撲と数日熱に魘される程度で済みましたが、伯父は右足を失ったようでした。
聖騎士どころか一般兵にすらなれなくなった伯父はそれでも命があって良かったと笑っていたそうです。
それからでした。
祖父が父に期待し始めたのは。
父には伯父が居ましたから、そこまで世継ぎだどうのと騒がれる事もなく、ただ剣を握って、…しかし聖騎士までとは望んでいませんでした。
祖父はそんな父を甘ったるいと叱咤して、伯父にしていたのと同じ訓練を課せました。
ある日の事です。
父が十五になる一ヶ月ほど前の事。その頃には怠惰な将来を諦めて聖騎士になるという絶望を持つようになっていました。
訓練を終えて家へ帰ってきた父は微かに香る血の匂いに眉を顰めました。
出迎えてくれた執事に荷物を預け、父は血の匂いのする方へと歩いて行きました。
辿り着いた先は祖父の書斎でした。父は迷わずトビラを開けました。
――伯父が居ました。
何をしているのかと聞いた父に彼は「やはりお前は分かるか」と目を細めて笑いました。
そうして、少し身体をずらした彼の向こうに胸を突かれた祖父が居たそうです。
父は彼が最後に言った言葉がずっと忘れられないと苦しそうに笑っていました。
「聖騎士殿はさすがだな。やはり聖なる者だからか。…何度傷付けても血なんか出て来なかったよ。………お前は聖騎士にならないでくれ」
――――…。
父は若くして騎士となり、僕の弟が生まれる頃には聖騎士として皆に慕われていました。
父は僕にも弟にも騎士になる事を強要する事はありませんでした。
僕は教会で神父になる勉強をし、弟は商人ギルドに入って今では幹部を任されているみたいです。
年終わりに家族みんなで集まって近況を報告する際、父は話してくれました。祖父の事、伯父の事、自分自身の事…。
それが亡くなる二年ほど前のことです。
……父が亡くなったと聞いた時、僕は真っ先に会ったことも無い伯父の事を考えました。
証拠もない、ただの憶測です。…だけれど、父の話を聞いてから、消息不明の伯父が聖騎士になった父を探し出して祖父と同じようにしてしまったのではないかと。そう思えてしまってならないのです。
父はそれをきっと、分かっていました。
だから僕達に騎士を薦める事はしなかったのでしょう。
そして、恐らく父は会いたかったのでしょう。祖父をあんな風にしてしまってから一度も姿を見せなかった伯父に。
……父が伯父に会えたかどうかも、父が亡くなった要因が伯父なのかどうかも僕には分かりません。
……ですが、どうか。
父の運命が安らかに眠る事を、祈っています。
それではそろそろ祈りの時間ですので失礼します。
道中お気を付けてお帰りください。
STORY END.