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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
122/196

男性用【語り部純彦〜紅茶編〜】

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 純彦

[あらすじ]《5分程度》

 (かた)()純彦(いとひこ)はタバコを(くゆ)らす端正(たんせい)な顔立ちの男だ。換金(かんきん)()兼営(けんえい)している(ゆえ)に賢い彼の語りは(ひそ)かに人気なのである―――。









【純彦】

(タバコの煙を吐き出す)

 ふーっ…。


 ああ、煙は苦手か。済まないが、これは俺の媚薬(びやく)なのだ。…無理はしないでくれ。俺以外には毒でしかない。


 さあ。今日は―――…ああ?

 換金(かんきん)したい? ()せ、今は本業中だ。語りが終わるまで待てるならそうして欲しい。…この近辺(きんぺん)にも換金屋は居る。急ぎなら其方(そちら)に頼んでくれ。


 さて邪魔(じゃま)が入ったな。

 今日は太陽の光で色が変わる紅茶の(さえず)りを聞いてくれ。


 ヒラグ地方の南西(なんせい)には紅茶好きの貴族が住んでいた。その貴族はヒラグ地方では栽培(さいばい)不能(ふのう)だった種類の茶葉を繁殖(はんしょく)させたとして有名な人物だった。


 名をシリウス・マーキス。

 聞いた事がある者もいるだろう。マーキス家と言えばヒラグで最も有名な茶葉専門店を(いとな)んでいるからな。

 シリウスはその第一(だいいち)人者(にんしゃ)だと言われている。


 シリウスは若くして亡くなった前妻(ぜんさい)の命日にいつも珍しい紅茶を飲んで彼女を(いた)む時間を(もう)けていた。

 その時間は後妻(ごさい)や子供らも邪魔する事の出来ないシリウスと前妻だけの時間だった。


 ある年の事だ。

 シリウスは自分の持つ庭園に()える茶葉の中に見覚えのない茶葉が生えている事に気がついた。

 見た事の無い種類の茶葉だったが、シリウスはそうならば数日後にやって来る命日に相応(ふさわ)しいかもしれないと茶葉を()んで他の茶葉と同じように天日(てんぴ)()ししておく事にした。


 そうしてやって来た命日は例年よりも少しだけ寂しさが(うす)れていた。楽しみだとも言うかもしれないが、あまりに不謹慎(ふきんしん)だからな。…その表現はここでは(ひか)えておこう。


 シリウスは乾燥(かんそう)させた茶葉を魔法で温められたティーポットに入れて、まずは湯と混ぜ合わさったばかりの香りを楽しんだ。

 香りはシリウスがいつも飲んでいる紅茶と大差(たいさ)なく、鼻の奥に残る香りにミントとよく似たスッキリした成分を感じた。


 これは(まぎ)れもなく、偶然(ぐうぜん)交配(こうはい)で生まれた新種だと、シリウスは嬉しくなる。

 彼は命日にしか用意しない、前妻(ぜんさい)との思い出のティーカップに紅茶を(そそ)いだ。


 カップに注がれた紅茶は見た事の無い(あわ)い赤色だった。

 シリウスは(ひそ)かに胸が高鳴(たかな)った。

 そうしてゆっくりと、ティーカップを持ち上げて一口(すす)って、…怪訝(けげん)(まゆ)(ひそ)めた。

 何だこれは、と吐き出しそうになったシリウスは思い留まって飲み込んだ。後味(あとあじ)にすら吐き気がして、シリウスはため息を(こぼ)す。


 見た事の無い茶葉だと年甲斐(としがい)にもなく(はしゃ)いで馬鹿をやったな、と。


 シリウスはもうそれ以上その紅茶を飲む気にはなれず、丁度(ちょうど)陽が差す窓際(まどぎわ)へと追いやった。

 ティーカップにたっぷりと入った紅茶が()れる。

 新しい紅茶を入れようかと悩んでいたシリウスの目に淡い赤ではなく、夏の空のように()(わた)った青が映った。


 思わず二度見したシリウスはティーカップを自分の方へと引き寄せた。カップの中には間違いなく淡い赤色の紅茶が入っていたはずだ。

 しかしどういう訳か。カップの中に赤の気配はもうどこにも無かったのだ。


 シリウスの(のど)がゴクリと音を立てた。

 何の奇跡か。あの不味(まず)いだけだった赤い紅茶はまるきり姿を変えてしまった。

 もしかすると味もまるきり変わってしまっているのではないか。


 シリウスは再び胸の高鳴りを感じる。

 まるで吸い寄せられるようにティーカップを持ち上げたシリウスは、だけれど恐る恐る紅茶を一口啜った。


 シリウスは驚いた。

 まず舌先(したさき)を刺激したのは強い酸味(さんみ)。次に(とろ)けるような甘味(あまみ)。そうして酸味と甘味が口の中で喧嘩しないよう、包み込む圧倒的な旨味(うまみ)


 シリウスは弾けるように笑った。

 これこそ、彼女との逢瀬(おうせ)に相応しい一品(ひとしな)だと。


 シリウスはその年から彼女の命日には必ずその紅茶を飲む事にしたそうだ。


 その紅茶はどこで飲めるのか?

 ヒラグの紅茶専門店に行ってみろ。

 『逢瀬のキス』、そんな大層な名前を付けられて入口のすぐ近くに置かれているぞ。

 気になる者は行ってみるといい。


 …これがシリウス・マーキスを(とりこ)にさせた甘美(かんび)(さえず)りの一端(いったん)だ。


 さて、今日はこのぐらいにしておこう。今度どこかで会えた時には、(つか)()(さえず)りを(かな)でよう――。











STORY END.

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