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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
121/196

男性用【春仰ぎ】

声劇タイトルは

【はるあおぎ】と読みます。



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『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂1:♀0:不問0

 優しげな男性

[あらすじ]《3分半程度》

 春が来ると忘れようと思っても脳裏(のうり)にあの子の事が(よみがえ)ってくるのだ。アレは何時(いつ)の話だったか。そうだ、少しお前にも聞かせてやろう―――。











【優しげな男性】

 冬の間に散々降り積もった雪が春の運んでくる温かな光に(ほど)けていこうとした、季節の移り変わる、何とも言えない心地(ここち)よい日だったよ。


 雲の切れ間から(のぞ)いた光の(すじ)にあの子が照らされていたのは。

 幻想(げんそう)(てき)だった。私の空想(くうそう)と言われれば「そうだ」と納得すら出来るような光景だった。


 私が(しばら)(なが)めているとあの子はこちらに気が付いて余所余所(よそよそ)しくも軽く会釈(えしゃく)をしてくれてね。

 その瞬間だった。

 風が、春の匂いを運んできた。


 あの子は突然吹いた風で(ほど)けた髪を耳にかけ、ふわりと(ひざ)辺りまで()った(すそ)を手で押えたのだ。


 その仕草(しぐさ)がまるで、妖精のようで。

 知らずのうちに微笑(ほほえ)んでしまっていた私にあの子は、…あろう事か近付いてきてね。


 そうしてそっと私の(ほほ)に手を()えて「大丈夫ですか」と心配そうに聞いたのだ。

 涙を流していたらしい。どうしてだろうな。…今思い返しても、何故(なぜ)かは分からないのだ。


 ただ、私はめいいっぱい目の前の彼女を抱き締めたよ。何だか(ひど)く愛おしくなって。何だか春の風に彼女が(さら)われてしまいそうで。


 彼女は私からの突然の抱擁(ほうよう)(しばら)動揺(どうよう)していたようだけれど、(やが)ておずおずと私の背に彼女の細い腕が触れた。


 私は彼女に「帰りたいか」と聞いたのさ。そうしたら彼女はハっと息を()んでから「いいえ」と震える声で答えたんだ。


 ………。


 今もあの時代も、貴族の娘に恋の自由など無かったんだ。彼女は私のような年上の男になんぞ(とつ)ぎたくなかったろうに。


 私はもう一度「帰りたいか」と彼女に聞いたのだ。だけれど彼女の答えは否定ではなかった。「そうしたら貴方は一人になってしまいますか」と私を抱く力を一層(いっそう)強めてそう聞いてきた。


 私が答えられずにいると彼女は「…一人は寒いですよ」と私の顔を覗き込んだ。

 そうしてこう笑った。


「私よりずっと大人なのに私よりずっと泣き虫なんですね」


(思い出したように)

 そうだ。あの日が、彼女を手放せなくなった日だ。


 ……何? その話はもう聞いた? 父様の話はそればかりだ? …全く、生意気(なまいき)な子だ。一体誰に似たんだ。

 今度は母様に話を聞いてくる? コラっ、母様は今、身体を休めているんだ。お前が行って休めなくなってはいけないだろう。


 まあ、そう()ねるな。

 お前の弟か妹が出来るのだから悪い事ばかりではあるまい。


(イタズラじみた言い方で)

 さあ、もう少し私の話し相手になってくれ。今度は何の話をしようか―――?












STORY END.

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