男性用【海融けの声】
声劇タイトルは
【うみどけのこえ】と読みます。
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不思議なお兄さん
[あらすじ]《4分半程度》
僕は魔法が使えるんだ! あっさりとそう白状してやった。だってそう言えば、大抵の人間は僕のことを『ヤバい奴』だと思って話なんか聞かなくなるからだ。だけどお前は何か、違ったんだよな―――。
【不思議なお兄さん】
な、何? 話を聞きたい? 僕が言うのもなんだけど…お前、頭がおかしいんじゃないのか。
ハッキリ聞こえたろう。
僕は。魔法が。使えるんだ。って言ったんだぞ。
冷やかしなら間に合ってるし、好奇心すら既に鬱陶しいにまで達してる。
な、な、な、…!! 魔法が使えるようになりたいから? ふはは、あははっ、はーっはっはっは!!
お前、ぐふ、っお前…は、馬鹿、なのか…!? ひひ、そんなもの、土台無理な話だ! 血を吐こうが汚物を垂れ流そうが、素質が無ければ一生出来そうにもない芸当だぞっ!
それを、お前のような老い先の短いただのジジイに出来るってのか! ははっ! 笑わせてくれる!
ぐひひっ…、ひ、やっはっは…!
はーっ…、こんなに笑ったのは久々だ。…それこそ何年振りだ。…ひひっ、嗚呼、駄目だ。油断で頬が緩む。ひひ、
……あ? 何だまだ居たのか。
…。…だから土台無理な話だと言ったろう。馬鹿にした訳でも無く真実だ。ド素人にそんな真似は……あ? 僕はいつから使えるのかって?
そんなもの知るか。
いつの間にか使えていたのだ。喜んでいる間に使い熟せていたのだ。
それは別に僕が天才だったからじゃない。そういう事に時間を割ける程に閑人だっただけなのだ。
だからお前のようなジジイには最初から無理な話だ。死んでから天国でもそういう事に熱心になれるというなら話は別だがな。
…というか。
お前はなぜ、魔法が使えるようになりたい? …は? 死んでしまいたい……? そんなもの勝手にそこらで野垂れ死んでしまえば良いだろう。
僕には関係無…、いや、ジジイ。ちょっとよく見せろ。
(老人をじっと見つめ、声もなく驚く)
…………。
……………お前、何者だ。
何だ急に、ではない。悪いが、勝手に鑑定させてもらった。
…お前、【元魔法使い】となっているぞ。…知らなかった? ああ、備考欄に【記憶喪失】とあるな…。
元、という事は今はただの死にたいジジイか。
うぅん…。
まあ。何れにせよ、幸運だなジジイ。
僕は今、お前に興味を持った。
お前のその願いを叶えてやろう。
ただなぁ、人殺しは何だかんだ気が引けるし、そんな魔法を使ってしまったら、この夢みたいな力は途端に僕へ力を貸すのを辞めてしまいそうだしな。
……、そうだ。
ジジイ、消えてみないか。…この世界から。
この世界の誰からの記憶からも無くなってしまうのだ。ジジイがここで生きていた事すら無いものになる。
誰かの隣に居たであろうお前は消える。その誰かの隣に誰かが居た事実も消えるのだ。
それはお前の言う、“死にたい”では無いかもしれないがな。…だが、これが今の僕に出来る、最大の魔法だ。
僕? ああ、僕の記憶には残るだろうな。…だが、別にいいのさ。何処かで会った耄碌ジジイの事なんて、いつか綺麗さっぱり忘れてしまうだろうからな。
(独り言のように)
……いいのさ。
僕もそこまで生きてしまったら、この世界に辟易してるだろうからさ。
なぁに、ただの独り言だ。これから消えゆくやつが気にすることじゃない。
これは、若者から老人への孝行ってやつだからな。有難く受け取るがいい。
……、では。さよならだ、……いつかの僕。
STORY END.