男性用【読み聞かせは如何?1】
声劇タイトルは
【よみきかせはいかが?いち】と読みます。
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良い声をしたお兄さん
[あらすじ]《5分半程度》
ロウソクが揺れる小屋の中。ローブを身に纏った怪しいお兄さんは本を手に取ります。何も書かれていない青い本。お兄さんが言葉を紡ぐと本に文字が浮き上がりました―――。
【良い声をしたお兄さん】
いらっしゃい、どうぞ座って、まだ席は空いているから。
今日は少し寒いからね。
膝掛けは如何? …そう。寒くなったらいつでも言って。
それじゃあ、始めよう。
眠ってしまっても構わないよ。そのための私達でもあるからね。
“ある日の夜だった。
春が始まる少し前、肌寒い夜だった。
私は家で酒を飲んでいたよ。
失恋したとか、嫌なことがあったとか、そういうことでもなく、ただ無性に酒が飲みたくなる日があったのさ。
それがあの日だった。
酒を飲んで暫く経った時、家のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だと少しイライラしながら玄関に向かった。
玄関のドア越しに「誰だ」と少し不機嫌気味に聞いてみると、相手は言った。
「ジノンさんのお宅ですか。警察です」
確かに私の名前だった。
しかし警察の厄介になるようなことは一切していない。殺しや盗みをして逃げたとか、他にも些細なこと。記憶を探るが思い当たる節がない。
「警察が、何か」
「貴方の弟さんの事です」
私は思わず宙を仰いだ。
ああ、そうだ。バカがいた。バカな弟が1人いた。
幼い頃から悪戯盛りで、悪戯で済めば良いものを、人に怪我をさせて、両親が他人に頭を下げたことなど両手で数えても足りないほどだ。
思春期に入ると不良共とよく連んだ。あちこちで騒ぎを起こして警察の世話になったこともあった。
しかし、お互い成人して暫く経つ。わざわざ連絡を取り合うようなこともなかったが、両親から弟が問題を起こした、などという連絡が来ることもなかった。
「何を仕出かしたんですか」
「傷害事件の被害者でして」
はて。ドアの向こうの警察はなんと言ったか。被害者? あの弟が?
刃物を持たせれば、野菜を切る代わりに気に入らない大人を切りつけたあの弟が?
免許を取る前にバイクを乗り回して事故を起こし、友達を囮にして逃げたあの弟が?
「被害者?」
「えぇ。恋人の元カレに刃物で切りつけられたようです。幸い命に別状は無いようですが、ご家族にご連絡をと」
すっかり酔いの覚めた頭で現状を理解しようとするが、よく考えてみるとおかしい。
なぜ両親ではなく、私の元へ?
それに連絡なら弟本人がすればいい。
命に別状がないのであれば連絡ぐらいは取れるはずだ。
そこまで考えてしまって、私は途端にドアの向こうにいる警察が恐ろしく思えてしまった。
ああ、よかった。酔った勢いでドアを開けなくて。
「そうですか。わざわざありがとうございます。今少し立て込んでまして。後日見舞いに伺いますので今日はお引き取り下さい」
適当に捲し立てて私は警察を追い払った。そうですか、と言って去って行った警察に私は胸を撫で下ろした。
ドアの向こうの気配が完全に消え去ってから、私は弟に電話を掛けた。もう何年も私から連絡などしたことがなかったが、警察の言うことが信じられなくなっていた私はワンコールで出てくれた弟に聞いた。
「今警察が来て、お前が傷害事件の被害者になったって聞いたんだが、今病院にいるのか?」
「何言ってんだ、兄貴」
「いや、私もおかしいと思ったんだが…」
「有り得ねえだろ、そんなの」
「それは分かってる。何事も加害者だったお前だ。私も初めは信じられなかったが…やはり嘘だったか」
何はともあれ。
問題ばかり起こしてきたといえど、弟は弟だ。怪我をしてなくてよかった。
今となってはドアの向こうの、警察ではなかったものが何をしたかったかは分からないが、ともかく無事でよかった。
「つーか、そもそも有り得ねえよ」
「お前が被害者だって? それは私も思」
「だって俺死んでんじゃん」
「……ああ、そうか。そうだったな。
そもそも有り得ない事だったな。
すまない、こんな事で電話をして。
ああ、おやすみ」
ツーツー、と通話の切れた画面を眺める。…誰と、電話をしていたんだったか。
まあいいか。
酒を飲み直そう…。”
はい、おしまい。
今日のタイトルは…《Lobelia》にしようかな。
また楽しそうな本が一冊増えたね。いつか、この小屋が…綺麗な花で埋め尽くされて欲しいな。
ふふ。それじゃあ今日はここまで。
またおいで。来るべき日に、待っているから。
STORY END.