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一人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
110/196

男性用【読み聞かせは如何?1】

声劇タイトルは

【よみきかせはいかが?いち】と読みます。



台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。

『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂1:♀0:不問0

 良い声をしたお兄さん

[あらすじ]《5分半程度》

 ロウソクが()れる小屋の中。ローブを身に(まと)った怪しいお兄さんは本を手に取ります。何も書かれていない青い本。お兄さんが言葉を(つむ)ぐと本に文字が浮き上がりました―――。









【良い声をしたお兄さん】

 いらっしゃい、どうぞ座って、まだ席は空いているから。


 今日は少し寒いからね。

 膝掛(ひざか)けは如何(いかが)? …そう。寒くなったらいつでも言って。


 それじゃあ、始めよう。

 眠ってしまっても構わないよ。そのための私達でもあるからね。



 “ある日の夜だった。


 春が始まる少し前、肌寒(はださむ)い夜だった。

 私は家で酒を飲んでいたよ。

 失恋したとか、嫌なことがあったとか、そういうことでもなく、ただ無性(むしょう)に酒が飲みたくなる日があったのさ。


 それがあの日だった。


 酒を飲んで(しばら)く経った時、家のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だと少しイライラしながら玄関に向かった。


 玄関のドア越しに「誰だ」と少し不機嫌(ふきげん)気味(ぎみ)に聞いてみると、相手は言った。


「ジノンさんのお宅ですか。警察です」


 確かに私の名前だった。

 しかし警察の厄介(やっかい)になるようなことは一切していない。殺しや盗みをして逃げたとか、他にも些細(ささい)なこと。記憶を(さぐ)るが思い当たる(ふし)がない。


「警察が、何か」

「貴方の弟さんの事です」


 私は思わず(ちゅう)(あお)いだ。

 ああ、そうだ。バカがいた。バカな弟が1人いた。

 幼い頃から悪戯(いたずら)(ざか)りで、悪戯で済めば良いものを、人に怪我(けが)をさせて、両親が他人に頭を下げたことなど両手で数えても足りないほどだ。


 思春期に入ると不良共とよく(つる)んだ。あちこちで騒ぎを起こして警察の世話になったこともあった。


 しかし、お(たが)い成人して(しばら)く経つ。わざわざ連絡を取り合うようなこともなかったが、両親から弟が問題を起こした、などという連絡が来ることもなかった。


「何を仕出(しで)かしたんですか」

傷害(しょうがい)事件の被害者でして」


 はて。ドアの向こうの警察はなんと言ったか。被害者? あの弟が?

 刃物(ナイフ)を持たせれば、野菜を切る代わりに気に入らない大人を切りつけたあの弟が?

 免許(めんきょ)を取る前にバイクを乗り回して事故を起こし、友達を(おとり)にして逃げたあの弟が?


「被害者?」

「えぇ。恋人の元カレに刃物で切りつけられたようです。(さいわ)い命に別状(べつじょう)は無いようですが、ご家族にご連絡をと」


 すっかり酔いの覚めた頭で現状を理解しようとするが、よく考えてみるとおかしい。

 なぜ両親ではなく、私の元へ?

 それに連絡なら弟本人がすればいい。

 命に別状がないのであれば連絡ぐらいは取れるはずだ。


 そこまで考えてしまって、私は途端(とたん)にドアの向こうにいる警察が恐ろしく思えてしまった。

 ああ、よかった。酔った勢いでドアを開けなくて。


「そうですか。わざわざありがとうございます。今少し立て込んでまして。後日(ごじつ)見舞いに(うかが)いますので今日はお引き取り下さい」


 適当に(まく)し立てて私は警察を追い払った。そうですか、と言って去って行った警察に私は胸を()で下ろした。


 ドアの向こうの気配が完全に消え去ってから、私は弟に電話を掛けた。もう何年も私から連絡などしたことがなかったが、警察の言うことが信じられなくなっていた私はワンコールで出てくれた弟に聞いた。


「今警察が来て、お前が傷害事件の被害者になったって聞いたんだが、今病院にいるのか?」

「何言ってんだ、兄貴」

「いや、私もおかしいと思ったんだが…」

「有り得ねえだろ、そんなの」

「それは分かってる。何事も加害者だったお前だ。私も初めは信じられなかったが…やはり嘘だったか」


 何はともあれ。

 問題ばかり起こしてきたといえど、弟は弟だ。怪我をしてなくてよかった。

 今となってはドアの向こうの、警察ではなかったものが何をしたかったかは分からないが、ともかく無事でよかった。


「つーか、そもそも有り得ねえよ」

「お前が被害者だって? それは私も(おも)

「だって俺死んでんじゃん」









「……ああ、そうか。そうだったな。

 そもそも有り得ない事だったな。

 すまない、こんな事で電話をして。


 ああ、おやすみ」


 ツーツー、と通話の切れた画面を(なが)める。…誰と、電話をしていたんだったか。


 まあいいか。

 酒を飲み直そう…。”




 はい、おしまい。

 今日のタイトルは…《Lobelia(ロベリア)》にしようかな。


 また楽しそうな本が一冊(いっさつ)増えたね。いつか、この小屋が…綺麗な(ほん)で埋め尽くされて欲しいな。


 ふふ。それじゃあ今日はここまで。

 またおいで。(きた)るべき日に、待っているから。










STORY END.

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