男性用【雨に濡れた進路】
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感情の起伏の少ない青年
[あらすじ]《3分程度》
誰に聞かれても良いような独白だった。恋人だった訳じゃない。気になっていた訳でもない。ただ、あの時。あの瞬間。鮮やかに見えてしまったのは彼女だけだったんだ―――。
【感情の起伏の少ない青年】
すぐに泣けるのが僕の特技だった。
でもそれと同時にコンプレックスでもあったんだと思う。
辛かったり、悲しかったり、傷ついたり。
そういう負の感情に流されて泣くのは凄く得意だった。
嘘泣きだとかそういう事でもないけれど。
心の底から泣いているわけでもなかった。
だから僕には分からなかったんだ。
キミが、泣いていた理由も。何もかも。
人より多少優れている所はあった。
それが原因で仲違いした友人も居たし、知らない誰かに妬まれたりもした、ような気がする。
僕は別にそれを自慢したい訳じゃなかったけれど、どうもそういうのは上手く伝わらないみたいだった。
高校二年の春。進路相談室から出てきた僕とぶつかったキミは進路希望の紙を持って泣いていた。思わず「どうしたの」なんて声を掛けた僕にキミは「なんでもないの」と上擦った声で答えた。
盗み見るつもりなんてなかった進路希望の紙には第一志望にS高校と書かれていた。
…僕が滑り止めにと適当に選んだ高校だった。
キミは僕が空けた隙間を通って進路相談室に入っていった。
凄く、当たり前のことなのに衝撃だったんだ。
人より少し頭が良かった。
それが原因で仲違いした友人も居たし、知らない誰かに妬まれたりもした、ような気がする。
テストは毎回高得点で、授業はいつも理解出来る。僕にとってはそれが当たり前だったから別にそれを自慢したい訳じゃなかったけれど、どうもそういうのは上手く伝わらないみたいだった。
だから衝撃だった。
何の嫌味もなく、「あんな高校行きたいんだ」と思った。
○
天気予報が外れて雨が降ってきた放課後。
傘を忘れた僕は家が近いからと鞄を傘代わりにして走った。
その日の衝撃は未だに心の底に沈んでいたけれど帰ってから考えようと足を早めようとした時だった。
ビリビリっと紙の破れる音がして、徐々に歩みを止めたんだ。
校舎より少し離れた旧校舎。取り壊しが決まって殆ど人も寄り付かなくなった古い校舎の横に、キミが居た。
進路希望の紙をぐしゃぐしゃに破り捨てて泣きじゃくっているキミが居た。
どうしたの、とも声を掛けられなかった。
ただ、走り出そうとした足を止めて見つめていた。
雨の降る中で、僕は分からなかったんだ。
キミが、泣いている理由も。
僕がそれを美しいと思った理由も。
何もかも。
STORY END.