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クラウディアの葬列

作者: ぺるがもん

公爵家のアレクは変人。それが今の周囲の評価だ。

25を過ぎても結婚せず、「俺は生涯独身でいい」とうそぶくアレク。

アレクは幼い頃からよく出来た子だった。頭脳明晰、容姿端麗、剣の腕も一流。

だから人々は噂した。「アレク様が公爵位に着くべきだ」と。しかし、アレクは凡庸だが穏やかな腹違いの兄のアダムが好きだった。一回り歳上である兄も自分を可愛がってくれた。

故に、アレクは兄の役に立ちたくて色んなことを頑張ったのだ。だがアレクが頑張れば頑張るほどアダムの凡庸さが浮き彫りになる……だからアレクは「結婚しない」と宣言する事により、家からの距離を置こうとしたのだった。


しかし、貴族社会と言うのはそんなはみ出し者を看過しない。

「お前もいい加減結婚相手を見つけろよ」

友人のジークに無理矢理引っ張られて各地の舞踏会に参加させられていた。しかしアレクは頑なに女性と踊ろうとはしなかった。

「いいんだよ、俺はこれで」


その日もアレクは料理をつまみながらいつもの様に壁際でぼんやりと眺めていた。馬車が到着する音がして一人の令嬢が降り立ったのはそんな時だった。


赤い……鮮血で染め上げたような燃える赤のドレス。

なだらかにたなびく純銀の髪。

上等な陶器のような白い肌。

そして宝石のような碧い瞳。

完成された美がそこにあった。


アレクはグラスを思わず落としてしまった。

「あら、落ちましてよ」

その令嬢はアレクに話し掛けた。それはアレクが舞踏会の中心から外れていつでも帰れるようにと入口近くに陣取って居たからこそ起こった奇跡だった。

「……まるで貴女は薔薇のようだ」

アレクが舞踏会で会った少女はその日がデビュタントだった。

「まあ、お上手な方」

鈴の音のような声がアレクの耳を揺さぶった。

「お名前を……聞かせてくださいませんか?」

「私の? クラウディア。レディ・クラウディアと申します」


その日からアレクの猛アタックは始まった。なりふり構わずに愛の言葉を紡ぎ、贈り物をし、そして何度も何度も会いに行った。

「あの……アレク様、私と貴方では身分が違い過ぎると思うのですが……」

「そんな事は問題じゃない。私は貴女が良いのです」

熱心な求婚を五年続け、とうとうアレクはクラウディアの心を動かしたのだった。婚礼の日のアレクは語った。

「俺は今、世界で一番幸せな男だ」

結婚は貴賤結婚……つまり身分の釣り合いが取れてないものであった。しかし、アレクにとってはそんな事どうでもいい事だった。


翌年には長女のクラウディーネが生まれ、それから三年連続で子供が生まれるくらい夫婦仲は良好だった。

それからまた三年の月日が経った。


レディ・クラウディアは吸血鬼だ。まことしやかに呟かれるその話。レディ・クラウディアの美貌は3人の子供をなしても衰えておらず若々しいままだった。むしろ妖艶さまで具わる様になった。吸血鬼の故地と言われるトランシルバニアより嫁いで来た伯爵の娘。そして衰えぬ美貌。故に魅了の魔力を持つ吸血鬼だ。そう囁かれた。


それはちょっとしたきっかけが幾つも重なったに過ぎない。アレクの父が離婚して兄アダムは公爵家から追放されたのだ。アレクは公爵位に着き、それにふさわしい正妃を迎えるように言われた。アレクは激怒し、その家臣達を追放したのだ。そして、その家臣達は「忠臣」だった。


その日は穏やかな日差しで、クラウディアは馬に乗って散歩をしていた。近くで夫が軍事演習をしているらしい。クラウディアはお弁当を届けに来たのだった。

「今日のお弁当も喜んでくれるかしら」

クラウディアは微笑みながら思いを馳せていた。


ズキューン


一発の銃声が響き、馬が暴走した。そしてクラウディアは振り落とされた。そこに迫る蹄鉄……

そしてクラウディアは還らぬ人となった。


葬列は公爵家の権勢を示すように凄まじい豪奢さであった。それは悼んでいるのか祝っているのかわからないほどに……

もしかしたらこの結末は既に決まっていたのかもしれない。アレクとクラウディアが出会ったその瞬間に。

アレクは嘆き、悲しみ、吠え、そして落胆した。

後を追う事も考え、その日は眠りについた。


そして夢の中でアレクはクラウディアに会えた。

「あなた……ごめんなさい。死んでしまったわ」

「すまない。私のせいだな。誰が君を殺したのか考えるだけで腸が煮えくり返る様だ」

クラウディアは静かに首を振った。

「いいんです、これで。あなたが公爵として継ぐべきだったのですもの。私は邪魔だったのですわ」

「……君が家中の人間から吸血鬼呼ばわりされて恐れられていたのはわかっていた。だが、私には何も出来なかった、何も……出来なかったんだ……」

「私が死んだのだから吸血鬼では無いことは証明出来たではありませんか」

クラウディアはクスクス笑う。

「それよりも……遺された子供たちをお願いします」

そこにあったのは吸血鬼でも令嬢でも無い母親の顔だった。

「それが私への一番の餞ですから……」


アレクは目を覚ました。そして泣いた。妻の言葉を噛み締めながら……

それからアレクは後妻も貰わず男手ひとつで忘れ形見の子供達を育て上げた。

今際の際、枕元に揃ったから子供たちに囲まれてアレクは言った。

「お前たちの母さんはな、とても綺麗だったんだ……」

そして満足そうに目を瞑ると一言呟いた。

「やっと、君の元へ行ける」

それがアレクの最期の言葉だった。

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