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8 勇者ギルドにて

 勇者ギルドの総本部である『大聖堂(カテドラル)』。


 その最奥で、十人のギルド最高幹部が討議していた。

 いずれも高さ三メートルほどの直方体──通信端末を介して。


「魔界侵攻作戦は失敗に終わった」


 幹部の一人が語る。


 通信端末の表面に『01』という数字が浮かんでいた。

 他の通信端末がいっせいに明滅する。


「魔軍にはそれなりの打撃を与えたが、魔王や魔軍長といった高位魔族たちは健在」

「最強の勇者である四天聖剣(セイクリッドエッジ)まで投入して、この戦果か」

「しかも、四天聖剣の一人は戦死……」


『03』、『04』、『07』が続けて語る。


「だが、『アレ』を持ち帰ることができた」


 彼らをなだめるように『01』が言った。


「その四天聖剣の一人が、魔王城の地下に封じられた『アレ』を──『神の力』を解放したのだ」

「そのまま、魔王を倒してくれればよかったのだが」

「さすがに一筋縄ではいかん。かの魔王は因果律の誤動作(バグ)によって生じた変異体と推測されるからな」

「史上最強のステータスを持つ魔王、か」

「厄介な」


『05』『08』『09』『10』がそれぞれ語った。


「とはいえ、こちらもそれに抗するだけの『力』を──その欠片を得ることができた」


 と、『01』


「それだけで、すべての失敗は取るに足りぬ出来事となる」

「『アレ』はすでに神の御許に?」

「届くころだろう」


『01』が告げる。


「では、何も問題はない」

「引き続き、計画を進める」

「すべては、神のご意志のままに」

「すべては、神のご意志のままに──」


 十人の最高幹部の声が唱和した。


    ※


「傷はもういいの、フィオーレさん?」


 ルドミラは負傷したフィオーレを訪ねた。


 彼女は先の戦いで受けた傷の療養のため、『大聖堂(カテドラル)』にほど近い神殿に滞在している。


 ルドミラの方はフィオーレに比べれば軽傷だったこともあり、すでに戦線復帰。

 各地で散発的に出没する魔族退治に飛び回っていた。


「……ええ、もともと軽傷でしたから」


 彼女の顔に笑みはない。


 魔界から戻って以来、一度も笑顔を見ていない。

 暗い表情のままだ。


 愛する弟エリオの死によって──。

 彼女は変わってしまった。


 見ているだけで、痛ましいほどに。


「早く次の侵攻作戦になりませんでしょうか。待ち遠しい」


 フィオーレがぽつりとつぶやく。


「早く魔族を殺したいですわ。早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……」


 優しげな美貌が怨念に染まった様子は、見ていてつらかった。

 胸が重くなる。


「フィオーレさん」


 ルドミラは友を抱きしめた。

 力強く抱きしめ、頭を優しくなでる。


「……大丈夫ですわ。わたくしは正気です」


 ふう、と息を吐き出すフィオーレ。


 だがその瞳に宿る光は、ゾッとするほど冷たい気配をたたえていた。


(フィオーレさん……)


 ルドミラは唇をかみしめる。

 と、


「ここにいたか、ルドミラ、フィオーレ」


 やって来たのはシオンだった。


「ちょうどよかった。君たちに報告したいことがあってね」

「報告?」

「以前とは比べ物にならないほど、神の力が顕在化を始めているそうだ」


 ルドミラの問いに答えるシオン。


「神の……力が?」


 かつて、この世界には神や天使の力が満ち満ちていたという。

 だが太古に起きた神と魔王の戦いにより、その力が届かなくなってしまった。


 長い時間をかけ、少しずつ神の力は地上に届き始めているが、それでもまだ弱い。


 それが──また強まっているということだろうか。


「リアヴェルトが最期の瞬間に、『神の力』を魔界から人間界に向かって放ってくれたおかげだ」


 シオンが厳粛な表情で告げた。


「彼は命を落としたが、その行動は必ず未来へと続く。後に残された俺たちが、必ず未来を紡ぐ。魔軍を打ち倒して、な」

「そうね」

「リアヴェルトさんだけじゃありませんわ。今回の戦いで犠牲になったすべての勇者が──」


 フィオーレが言った。

 氷のように冷たい瞳のまま。


「そして、エリオだって──きっと彼の行動は未来永劫称えられるでしょう。わたくしが魔王を討ち、必ずそうしてみせます。エリオの名が伝説として残されるように、必ず──」

「フィオーレさん」


 ルドミラは心配になり、また彼女を抱きしめた。


「あなたの辛い気持ちは分かっているから。思いつめすぎないで。お願い──」

「……ありがとう、ルドミラさん」

「神の力が増したということは、俺たちの奇蹟兵装もさらに強い力を発揮できる、ということだ。勇者たちの強化は進んでいくだろう」

「第三次魔界侵攻戦も、遠くないかもしれないわね」


 ルドミラが空を見上げた。


「いや、あるいは──」


 シオンがつぶやく。

 誰に聞かせるでもなく、自分自身に言い聞かせるように。


「次が最後の侵攻作戦になるかもしれないな」


 人か、魔か。


 いずれかが滅びる最後の戦いが──近づく。

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