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7 結界調査

 ──ジュダが魔軍長になったとき、魔界の結界について相談したことがある。

 もっと強力な結界として補強できないか、と。


 だがジュダは


「無理だね」


 と、そっけない答えを返した。


「結界は常に神の力の浸食を受けていて、少しずつ弱まっているんだよ」

「神の力の……?」

「もちろん外から魔力を注げば、補強することはできるよ。でもね」


 俺の問いに、ジュダは微笑み、


「どれだけ注ぎこんでも、その魔力は魔界全土を覆う広い結界全体に少しずつ拡散し、結局は薄れてしまうんだ。それでは神の力の浸食に対抗できない。だから永続的な補強は不可能なんだ」

「定期的に魔力を注いで補強する──というのは、どうだ?」

「魔界全土を覆うには膨大な魔力が必要だよ。確かに君の魔力は絶大だ。史上最強といっていい。それでも──」


 ジュダは苦笑交じりに首を左右に振った。


「さすがに君の魔力でも、魔界全土を覆い、補強し続けるのは無理だ。魔力量が決定的に追いつかない」

「……そう、か」


 ──というのが以前の会話だ。

 しかも、ジュダの話ではその『神の力による浸食』は強まっているという。


「根本的な解決には、どうすればいいんだ?」


 俺はストレートにたずねた。

 ジュダはにっこりと笑い、


「神を倒すこと、かな?」

「……それができれば苦労はないだろう」


 俺はさすがに憮然となった。


「まあ、無理ってことだね」

「まったく……」


 俺はため息をついた。

 以前に相談したときも、まったく同じ返答をもらったからだ。


 神の力の強大さ、そして異質さの一端は、この間のリアヴェルト戦で思い知った。


 単純な攻撃能力や防御能力といった次元ではない。

 神の力の前では、魔の力は『拒絶』されてしまう。

 攻撃そのものが届かない相手には、どんな火力も無意味だ。


 現状で、神を倒す方法は見当たらない。


「現実的には、『結界を補強すること』だね」


 ジュダは笑顔のまま説明した。


「神の浸食に耐える結界を作るのは不可能だけど、現状のものよりも浸食に強い結界を開発することは不可能じゃない」

「できるのか、お前になら?」


 俺は期待を込めてたずねた。


「……研究はしているよ。ヴェルファーが死んだ、あの日からずっと」


 ジュダの顔から笑みが消えた。

 めったに見せない、真剣な顔だ。


「今のところ、成果は出ていないけれど。というか、一番成果が出た結界が現行のものだからね。さらに改良するとなると時間がかかるよ」

「分かった。引き続き、結界の研究を頼む。俺にできることがあれば言ってくれ」

「さしあたっては研究費かな?」

「……そういえば、予算の増額請求を出してたな」


 他との調整が大変だ、とステラが頭を悩ませていたはずだ。

 と、


「真面目な話はそろそろ終わりでいいじゃない。現状、すぐにどうこうはできないんでしょ?」


 フェリアが俺の腕にしがみついてきた。

 むにゅうっ、と胸を押しつけてくる。


「ふふ、私は邪魔ものかな?」


 微笑むジュダ。


「そうそう、ここからはあたしと魔王様のいちゃらぶタイムよ。遠慮してもらえるとありがたいわね」

「りょーかい。それじゃ、私はそろそろ行くよ」

「い、いや、まだ話が──」

「悪いけど、そろそろ昼寝の時間なんだ」


 ジュダがそっけなく告げる。

 気まぐれなこいつを長い時間拘束するのは難しい。


「結界については、損傷が大きいところはすでに補強しておいたし、それでいいよね?」

「あ、ああ……」

 あいかわらず気まぐれだが、仕事は速い男だ。

「それじゃ、ごゆっくり」


 ジュダが去り、


「魔王様、さあ……あたしのこと、好きにしていいのよ?」


 フェリアの誘惑タイムが始まった。


 ……ジュダとは違う意味で、難敵だった。




 フェリアの際どい攻勢から逃げるようにして、俺は城内を進んだ。

 今度の行く先は、地下だ。


 リアヴェルトが侵入した地点を、詳しく調べておこうと思ったのだ。

『神の力』が眠っていた跡地を。


 と、前方から身長一メートルほどの銀の騎士がやってくる。

 前の体を破壊され、新たな姿に変わった魔軍長ツクヨミである。


「これは、魔王様」


 一礼するツクヨミ。


「新しい体の調子はどうだ」

「問題ないのであります」


 ツクヨミがいつもの抑揚のない口調で答えた。


「魔王城の地下に眠る『神の力』──お前は知っていたのか」

「『大きな力が眠っていること』は自分も知っていたのであります。それは、あらゆる手段で守り抜かねばならない、と」


 と、ツクヨミ。


「ですが、それが『神の力』だとは知らされていなかったのであります。自分も驚いたのであります」

「……そうか」

「というか、自分はなんでもかんでも知ってるわけじゃないのであります。しかも、この間の戦いで前のボディを壊されて、その修復でてんやわんやであります。あーあ、しばらく休みたい……仕事めんどくせ」

「ん、何か言ったか?」

「独り言であります」


 明らかに思いっきり愚痴ってたんだが。

 ……まあ、こいつの愚痴は一種のガス抜きみたいだし、ある程度は聞き流しておこう。


 俺は次の質問に移る。


「魔王城の地下には他にも防衛機構があるという話だったな。その中には──たとえば『神の力』やそれに類するものを封印している装置も含まれているのか?」

「自分も調査中であります。新たな錬金機将(アルケミスト)に任命されて以来、魔王城地下の探索は随時進めているのでありますが、地下機構は複雑を極め、全容解明には遠く……前の魔軍長は断片的な記録しか残していませんでしたので」


 と、ツクヨミ。

 まだまだ魔王城地下には謎が多い、ということか。


「何か分かったら、俺にも教えてくれ」

「魔軍長の責務としてお約束するのであります」


 ツクヨミがうなずいた。


「でもその前に、もうちょっと休暇がほしいのであります。あーあ、めんどくせ」


 ……愚痴は、聞き流しておこう。

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