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9 暴け陰謀

 ──何かの陰謀が動いているのか?


 俺は仮面の下で小さくうなった。


 彼らを問いただしたほうがいいか。

 それとも、いったん泳がせるか。


「魔王様~、どうかなさいましたぁ?」


 ステラが俺の腕にぎゅうっとしがみついた。


「ステラ、ちょっと待ってくれ。今は──」


「あ、こんなところにいたんですか~」


 離れようとしたところで、さらにリリムが駆け寄ってきた。


「えへへ、あたしふにゃふにゃ~」


 ほとんど人の姿をとどめないアメーバ状になって、俺に絡みつく。


 こいつ、ますます酔ってないか……?


「魔王様~、ぷにぷに弾力スライム肌だよ~。気持ちいいでしょ~」


 確かに心地いい感触だ。


 ──って、そうじゃなくて。


「魔王様、私の相手もしてくださいな~」


 ステラもますます強く、俺の腕にしがみつく。


「いつもは側近としてサポートしなければ、って抑えてますけど、本当はもっと……魔王様のことを知りたいんですよ?」


 トロンとした目で俺を見つめるステラ。


 酔ってる……こいつも絶対酔ってる……。


「悪いけど、二人ともちょっと離れてもらっていいか?」


 チラリとさっきの連中を見ると、別の場所へ移動しようとしていた。


「魔王様、見て見て~。あたしの体、こんなに伸びるよ~」


「魔王様、リリムとばかりくっついちゃ嫌です……」


 リリムとステラに挟まれて身動きを封じられる。

 その間に、彼らは出口へ消えていった。


 ちらりと一瞬こちらを振り返り、俺に強烈な眼光を向ける。


 明らかな敵意のこもった眼光を──。




 数日後、魔王の執務室。


「ご命令通り、彼らの素性を調べました、魔王様」


 ステラが報告した。


 渡してもらったリストには、三人の魔族の名前や官位が書かれている。

 彼らは獣人系の魔族で、いずれも獣帝(ギガントロア)ゼガートの配下だった。


「ゼガートってどういう奴なんだ?」


 俺はステラにたずねた。


「確か今は人間界に侵攻しているんだよな?」


「はい、現在は南方大陸で獣人系魔族の軍団を率いて戦っているはずです。ここ一月ほど連絡が滞りがちですが」


 と、ステラ。


「彼は魔王様の側近──七大魔軍長の一人であり、またかつての魔王候補者でもあります」


「魔王……候補者?」


「魔界の王が代替わりするのは、大きく分けて二通りの理由があります。一つは力の衰えにより、新たな者に王の座を渡す場合。もう一つは王の死により、次の王が選ばれる場合です」


「俺の場合は後者か」


「はい。この場合は前王の持つ魔王の紋章が、次の王にふさわしい者へ自動的に移ります。対して前者の場合は──先王の意志により、複数の候補者の中から選ばれた者が紋章を引き継ぐことになります」


 ステラが説明する。


「二代前の王は老齢に差しかかり、新たな魔王を選ぶことになりました。その際、候補者になったのが当時魔軍長だったユリーシャ様とゼガートなのです」


「じゃあ、そのときにゼガートは落選したわけだ」


「ええ。その後も、ゼガートは魔王の座にかなり執着していた様子で……」


 ──なのに、今回も奴は魔王に選ばれなかった。


『ふん、ふさわしくない者の手にある紋章など、いずれ……』

『計画通り……ゼガート様が新たな……王……』

『後は……例の会合で……』


 なるほど、パーティでの奴らの思わせぶりな会話とつながるかもしれないな。


「ゼガートが俺の魔王の座を狙っている、ってことは?」


「それは……」


 ステラは一瞬言いよどみ、


「あり得る、と思います」


 険しい顔で告げた。


「以前から、彼には色々と怪しい策動がありましたので」


 ……魔族たちも一枚岩じゃないってことか。

 まあ、それは人間の世界も一緒だが。


「勇者たちとの戦いで魔界そのものが危機に陥っていたときは、そういった策動をする余裕もなかったのでしょう。ですが、結界の修復が終わり、ある程度の安定が訪れた今──ゼガートは新たな策動を始めたのかもしれません」


「あいつらの動きを探ったほうがいいな」


「では、彼らをつけさせておきましょう。怪しい動きがあり次第、お知らせします」


「頼む」




 ──そして週末の夜。

 彼らが動き出したという知らせをステラから受け、俺は城を出た。


 ステラや少数の兵を引きつれ、彼らの元へ向かう。


 彼らの会合場所は、城下の都市部外縁にあるさびれた屋敷。

 いかにも人目を忍んで会っているという感じだ。


「ステラや兵たちはここで待機だ。合図をしたら来てくれ」


 屋敷の近くで彼女たちを待たせ、俺は一人で近づいた。


 俺の力なら、たとえ不意打ちを受けたところでどうということはない。


 逆に、大人数で近づいては感づかれるかもしれない。

 第一の目的は、まず彼らの狙いを知ることだからな。


「『アビリティギア』」


 俺は屋敷の前まで来たところで物陰に身をひそめ、聴力をアップさせた。


 すると、彼らの声が聞こえてくる──。


「……ゼガート様はまだ戻られないのか」


「今しばらく魔王の動向を探れということだ」


「そうそう、我らのことを褒めていたぞ。結界の穴から勇者たちが攻めてきた際、魔王城までの侵入路をわざと手薄にしたことをな」


「目論見通り、勇者の一人が先王を倒したまではよかったのだが……」


「ああ、次の王に選ばれたのがゼガート様ではなく、どこの者とも分からぬ魔族というのは誤算だった」


「ゼガート様は魔界最強の戦士。ユリーシャが消えれば、必ずや次はゼガート様が魔王になると踏んでいたものを……」


「そうなれば、ゼガート様が人間界から魔界に凱旋。勇者たちをまとめて片付け、魔界を救う──我らも重臣に取り立てられていたはずが」


「ふん、今の魔王も遠からず退任するだろう。『不慮の事故死』か、『原因不明の病死』か……そんなところだ」


「くくく、それもそうだな」


「そして、今度こそ魔王の座はゼガート様のものに──」


 ──って、随分と穏やかじゃない話をしているな。


 この話が本当なら、俺やライル、そして他の勇者たちが魔王城までたどり着いたのは、こいつらの工作ってことじゃないか。

 確かに、魔王の元まで続く道にあまり守備兵がいなくて、妙だとは思っていたが……。


「まあ、後はゼガート様が戻ってきてからだ」


「幸い、新米魔王が結界をすべて修復してくれたからな。勇者たちが魔界まで攻めこんでくることは当分ない」


「今のうちに動き、次の大きな戦いまでに我らが盟主ゼガート様を新たな王に──」


 そうはいかない。


 ここまで話を聞けば、嫌疑は十分すぎるほど。

 パーティの話だけでは、酔った勢いの戯言と開き直られるかもしれないが、これはさすがに言い逃れできないレベルだろう。


 後は捕えて尋問だ。


「『サンダー』」


 俺は威力をギリギリまで絞った雷撃を撃つ。


 大きな爆発とともに、扉は粉々に吹き飛んだ。

 ついでに周辺の壁までボロボロに崩れる。


 極小まで威力を抑えたけど、扉だけを吹っ飛ばすというのは難しいな。

 俺の攻撃魔法は威力が高すぎて、コントロールしづらいのが欠点だ。


 ……まあ、屋敷ごと消滅したり、周囲が荒野になるほどの威力になっては大惨事だから、これくらいなら上出来か。


 俺は瓦礫を踏み越えて、屋敷の中に入った。


 今の爆発を合図に、ステラたちもここを包囲するはずだ。


「何事だ!」


 驚いたように奥の部屋から出てくる彼ら。


「ま、魔王……!?」


「なぜ、ここに……!?」


「ひ、ひい……」


「お前たちの企み、確かに聞いたぞ」


 俺は重々しく告げて、三人を順番に見回す。


 彼らはいずれも青ざめた顔だ。

 陰では俺を見くびっていても、こうして相対すればやはり怖いんだろう。


「思い知らせてやろう。お前たちが誰を相手にしているのか」


 俺はローブの裾をひるがえし、傲然と言い放った、


「魔界の王たる我が力を──な」


 ……ちょっと芝居がかった台詞だったかもしれない。

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