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1 戦いの終わり

 収斂型・虚空の斬撃(ヴァニティブレード)


 俺の一撃がリアヴェルトの体を両断した。


 神の力を操り、俺の攻撃すら『拒絶』する強敵との戦いもついに終わりを告げる──。


「まだ……ダ……」


 リアヴェルトがうめいた。


「こいつ……!」


 神の力なのか、体を半分に分かたれながら、まだかすかに息がある……!?


「届ケ……神の元へ……」


 両腕を高々と掲げるリアヴェルト。

 その全身から虹色の輝きが抜け出し、小さな光球となって舞い上がる。


 同時に、リアヴェルトの体が粉雪のような光の粒子となって消滅した。

 そして、奴の手から離れた光球は、あっという間に魔界の空の彼方へ消える。


 まさに一瞬の出来事だ。


「フリード様」


 かたわらで、ステラが俺を見上げる。


「神の力……持ち去られたか」


 俺は苦い気持ちでつぶやいた。


 リアヴェルトを倒し、とりあえずの危機は去った。


 だが、完全勝利とは言い難い結末だった──。


    ※


 四天聖剣の一人、シオンは魔軍長ジュダと対峙していた。

 魔王クラスか、それ以上の魔力を持つ、おそるべき魔術師(メイガス)型の魔族。


 戦いは押され気味だった。


 だが、シオンには切り札があった。

 いかなる魔力をも切り裂く、ザイラス流剣術の奥義が。


「何か狙っているみたいだね」


 ジュダが微笑む。


「ああ、俺の最大奥義を見せてやろう」


 槍型の奇蹟兵装『ガブリエル』を振りかぶるシオン。


「絶技──」


 切り札を出そうとしたところで、動きを止めた。

 視界の端に、きらめく虹色の光が見えたのだ。


「あれは……!?」


 空に舞い上がる小さな光球。

 そこから、頭の中に言葉が響く。


「戻れ、人の子らよ」


 荘厳な、神々しさを感じさせる声だった。


「汝らをここで失うわけにはいかぬ」

「この声は、まさか──」


 シオンは戦慄する。


「ルドミラ、フィオーレとともに急ぎ、地上へ戻れ」


 声が、続ける。


 強烈な畏怖がこみ上げた。


 神々しさを感じるのは当然だ。

 この声は、まさしく神そのもの──。




 シオンはジュダの元からなんとか逃れると、ルドミラやフィオーレ、他の勇者たちと合流した。


 そして現在、彼らは暗闇を進んでいる。

 魔界と人間界をつなぐ亜空間通路である。


 神の声を聞いた勇者たちは、魔界の外れまで進み、元来た道を戻っているのである。

 それは人間界への撤退を意味していた。


 つまりは、敗走だ。


「こんな結果になるとは……」


 シオンは唇をかみしめる。


 総勢四百を超える勇者軍のうち、大半は魔王軍に殺されてしまった。

 生き残ったのは、わずかに二十名ほど。


 惨敗だった。


「結局、逃げ帰ることになるなんて……」


 ルドミラが唇をかんでいる。


「リアヴェルトさんは討たれたようですわね」


 フィオーレがうなだれている。


 話によれば、彼女の最愛の弟エリオも魔族に殺されていたらしい。


 今回の第二次勇者侵攻戦は、完全敗北だった。

 前回の侵攻戦では魔軍長三人を倒し、先代の魔王まで討ったというのに──。


「俺たち四天聖剣がそろっていながら……無念だ」


 シオンは悔しさで唇をかみしめた。


 今回の戦いで魔王を討ち、魔族の脅威から世界を救う。

 そんな心意気でやって来たはずだった。


 天使から修行を受け、はるかに力を増したことで、勝利を疑わなかった。


 だが、その力は──あえなく打ちのめされた。


 多くの犠牲を出してしまった。

 特段の成果を上げられなかった。


「だけど、これで終わりじゃない」


 シオンの意志は、それでも折れない。


 いや、折れるわけにはいかない。


 散っていった勇者たちのために。

 地上の愛と正義を守るために。


 そして、彼自身の誇りのためにも。


「二人とも、顔を上げよう」

「シオン……」

「シオンさん……」

「次は、負けない。絶対に」


 シオンが力強く告げた。


「絶対に……!」


 あの『声』の導きに従い、次こそは必ず──。

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