15 終止符
「見える──すべてが」
俺の側で、ステラが厳かにつぶやいた。
「なんだ、この感覚ハ──!?」
リアヴェルトが戸惑いの声をもらす。
「フリード様!」
「分かった!」
彼女の声を合図に、俺は魔力弾を放つ。
「がはッ……!?」
それはリアヴェルトの神気による『拒絶』を突き抜け、奴にダメージを与えた。
初めての、ダメージを。
「汚らしい魔族ごときが、神の力を得た私ヲ──」
忌々しげにうめきながら、後ずさるリアヴェルト。
「神だろうと勇者だろうと、魔王様の行く手は阻ませない。この方に仇為すものは、すべて排除する!」
ステラが凛と叫んだ。
その額に、鳥の紋様を宿した真紅の瞳が開く。
「フリード様、次の『休息』のタイミングを私が見切ります。狙ってください!」
「分かった、ステラ──」
俺はありったけの魔力を集中する。
「神気が弱まる周期を計るつもりカ? だが無駄なことダ。魔の力では神の力に届かない。しかも、そのタイミングは、私の意思でいくらでもズラすことができル」
「無駄なのは、お前のほうだ。たとえ神の力であろうと、魔を拒絶する効果であろうと、読み切ってみせる」
ステラが、告げる。
「未来も、因果も、運命さえも、すべてを視る──それが、私の『黙示録の眼』」
第三の瞳から真紅の輝きがあふれた。
輝きは無数の光の糸となり、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていく。
「戯言ヲ……何を仕掛けてこようが、無駄だと言っていル──!」
リアヴェルトがハンマーを掲げて突進した。
全身にまとう虹色のオーラを噴出力にして、さらに加速。
今まで以上に速い──!
俺は虚無の剣を構え、それを迎え撃つ。
「あと三秒──私の合図と同時に攻撃してください」
頭の中にステラの声が響いた。
まだ彼女の髪を指に巻いたままだったから、念話で伝えてくれたようだ。
リアヴェルトが迫る。
「あと二秒──」
ステラの声が、ふたたび響く。
「あと一秒──」
俺は彼女の眼にすべてをゆだね、構える。
「フリード様!」
「はあああああっ!」
気合いとともに、俺は剣を突き出した。
「無駄だ、我が神気はあらゆる魔の攻撃を遮断する──」
勝ち誇るリアヴェルトの全身を包むオーラが、一瞬揺らめいた。
同時に、虚無の剣先がそのオーラを吹き散らし、奴の脇腹に突き立つ。
「がっ!?」
苦鳴とともに跳び下がるリアヴェルト。
「なぜ、周期をここまで正確に見切れるのダ……!?」
さっきよりも深く、攻撃が通った。
ステラが、奴の神気が弱まる瞬間を見極めてくれる。
なら俺はそれを信じ、渾身の一撃を打ちこむだけだ。
「次で終わりだ」
俺は漆黒の魔力剣を掲げた。
「私は退かヌ……神の力を信じ、ただ前進あるのミ」
それがリアヴェルトの、勇者としての矜持か。
奴が神を信じるなら、俺は魔を信じる。
ステラを、信じる。
そして、奴を──奴の矜持ごと打ち砕く。
「参ル」
「来い」
短い言葉を交わし、俺たちは同時に動いた。
「フリード様──」
ふたたびステラが念話で俺に語りかける。
先制は右、左、右と三度のフェイントを交えての突進。
そこから踏みこんでの、渾身の打ちおろし。
だが、それもまたフェイント。
いったんバックステップし、衝撃波を飛ばす。
それを追走するようにして、ふたたび突進。
フェイントを四つ。
側面に回りこみ、本命の一撃を放つ。
その瞬間、わずかに神の気が緩む。
リアヴェルトの攻撃パターンすべてを、彼女は読み切り、俺に伝えてくれる。
直後、虹の輝きをまとった勇者が突っこんできた。
さっきよりもさらに、はるかに速く。
一切の迷いなく、どこまでも速く──。
「砕け散レ! そして、消えるがいイ、魔王ッ!」
複雑なフェイントを交えて接近したリアヴェルトが、俺の側面から虹色に輝くハンマーを振り下ろす。
すべては、ステラの読み通り。
未来すら見通す、彼女の想定通り。
だから俺は、
「悪いな、リアヴェルト──消えるのはお前だ」
そのハンマーよりも一瞬早く、最後の一撃を繰り出す。
「『収斂型・虚空の斬撃』!」
虚無の刃が神の気の間隙を縫い──リアヴェルトを両断した。
次回から第9章「魔軍長たちの岐路」になります。
9月下旬~10月上旬から更新再開予定です。
正確な再開日時が決まり次第、活動報告でお知らせいたします。
今しばらくお待ちいただけましたら幸いです。
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