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14 魔の光、神の闇

(フリード様、どうか負けないで……)


 ステラは祈るような気持ちで、魔王の戦いを見守っていた。


 黒いローブをまとった仮面の魔王と、虹色の神気(オーラ)に覆われた全身鎧の騎士。

 互いの放つすさまじいまでの威圧感が衝突し、物理的な風圧さえ生んで、周囲に吹き荒れている。


 両者の戦いが、始まった。


 魔王の放つ黒い魔力弾と勇者の繰り出す虹色の連撃がぶつかり合う。

 攻撃の余波だけで大気が激しく震えた。


 押しているのは、リアヴェルトだ。


 フリードの攻撃はまったくダメージを与えられない。

 いや、そもそも魔法自体がリアヴェルトに当たる直前で消滅し、その威力が届いていないのだ。


「なんだ、あれは……?」


 ステラは驚きに目を見開いた。


「防御ではない。無効化……!?」


 魔に起因する力を、完全に無効にする。

 まさに、神そのものの領域だ。


 あれでは、いかに歴代最強の力を持つ魔王フリードといえど、どうしようもない。


 たとえ究極の攻撃力でも──相手に届かなければ、どうにもならない。


神気烈破導聖弾オーラバーストバレット!」


 リアヴェルトの全身を覆う虹の輝きが、爆発的に膨れ上がった。

 その輝きが無数の矢となり、降り注ぐ。


「『ルシファーズシールド』!」


 展開された漆黒の魔力障壁はやすやすと砕かれ、


「ぐっ……ううっ……!」


 魔王の体を光の矢群が貫いた。

 穴の開いたローブから、鮮血が噴き出す。


「フリード様!」


 ステラは悲痛な声を上げた。


 ここまで押しこまれる魔王の姿を見るのは、初めてだった。

 あの『光の王』との戦いでさえ、圧倒してみせたフリードが。


「たった一人の勇者を相手に、ここまで──」


 ステラは唇をかんでうめく。


 力になりたい。

 こみ上げる衝動で胸が張り裂けそうだ。


 額が、熱くなる。

 体中の血液が煮えたぎる。


「あたしは……フリード様のために、戦いたい……!」




 そのための、力が欲しい。




 願った。


 痛切に。

 ひたむきに。


 祈った。


 守りたいと。

 力になりたいと。


 そして──想った。


 彼が、愛おしいと。


「だから、お願い──力を!」


 ステラが叫ぶ。


 自分の中の、何かが解放されるような感覚があった。


 遠い昔、子どものころに母から封じられた力。

 母からの愛を失い、忌み嫌われ、遠ざけられ、封じられた。


 その力が。


「この一度だけでいい! 目覚めて、あたしの力──」


 額に開いた第三の瞳が、燃え上がるように熱くなった。


    ※


 強い──。

 俺は内心でうめいた。


 客観的に見て……単純な攻撃能力や防御能力なら、俺のほうがはるかに上回っているだろう。


 だが、リアヴェルトの強さはそれとはまったく異質のものだった。


 一言でいうなら『拒絶力』。

 俺のあらゆる攻撃が奴には届かない。


 防御でもない。

 回避でもない。

 物理でもない。

 魔法でもない。


 あの虹色の神気(オーラ)──不可思議なフィールドが、俺の魔法攻撃をすべて無効化してしまうのだ。


 あるいはこれが、神の力なのか。


 今のままでは、どうあがいてもリアヴェルトに決定打を与えられない。

 いや、傷一つすらつけられない。


 奴の『拒絶』を突破する策が必要だ。


「フリード様!」


 ステラの声に振り返った。

 銀色の長い髪を風になびかせ、黒い衣装の美少女が歩み寄る。


 なんだ、これは──!?


 全身に戦慄が走った。


 神に相対したときとも、魔と対峙したときとも、違う感覚だった。

 体の内部から無限に湧き上がる悪寒。


 そんな感覚が、ステラから吹きつけてくる。


「……大丈夫です、フリード様」


 彼女が優しい笑みを浮かべた。


 その額に開いた瞳は──。

 真紅に輝く鳥のような紋様が浮かんでいる。


 いつもの『第三の瞳』とは違う!?


「魔王様、奴の神気には『波』があります」

「波?」

「膨大なエネルギーが一瞬途切れ、またあふれ出す──という周期を繰り返しています。おそらく、常時あれだけの量の神気を維持することはできないのでしょう」

「なるほど、ときどき『休息』しなければならないわけか」

「おそらくは」


 俺の言葉にうなずくステラ。


「休息の周期は不規則ですが、休息時間は常に2.079012秒です」

「約2秒か……」


 俺は仮面の下で唇をかんだ。

 タイミングが一定ならば狙いやすいが、いつ来るかわからない2秒にこっちも必殺の威力を込めた魔法を撃つとなると、容易じゃない。


「タイミングは、私が見切ります」


 ステラが俺をまっすぐに見つめた。


「あなたを死なせません。絶対に」

「ステラ……?」


 しなやかな手が俺の仮面を外す。

 そのまま伸びをしたステラが、俺の唇に自分の唇を重ねる。


「愛おしい、あなたを──」


「ステラ……!?」


 俺は呆然と彼女を見つめる。

 上気した顔で、彼女もまた俺を見つめている。


 俺たちの視線が絡み合い、そして──、


「何をしてこようと、邪悪なるものが私に勝つことはできナイ!」


 リアヴェルトの体を覆う虹のオーラがさらに燃え上がった。


 俺は意識を敵に戻した。


「私が得たのは、かつての戦いで神が魔に奪われた力ダ。それを取り戻した今、神の力はあまねく世界を照らし出ス。天も、魔界も、人の世界も──すべてヲ! そして滅ぼすのダ、すべてヲ! すべてヲ! すべてヲ!」


 魔界の空を焼き尽くしそうなほどに広がり、暗黒の世界をまばゆい輝きに染める。


 まさに、神の威光か。


 だが、それは俺にとって闇だった。

 俺の仲間たちを──魔族たちを滅ぼす闇。


 ならば、そんなものは消し去ってやる……!


「俺たちで奴を倒す。力を貸してくれ、ステラ」


 彼女から仮面を受け取り、装着し直した。


「あなたの、心のままに」


 ステラが微笑む。


 額の第三の瞳に浮かぶ鳥の紋様が、大きく羽ばたくように形を変えた。

次回決着&第8章終了です。

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