13 魔王VS『地』の四天聖剣
俺は冥帝竜に乗って、魔王城まで到着した。
どうやら、正門前が戦場になっているようだ。
敵は──たった一人。
虹色の神気をまとった、全身鎧の騎士だった。
「あいつは──」
間近で見ると、その神気のすさまじさが分かる。
おそらく神気の量だけなら、以前に相対した天軍最強兵器『光の王』と同レベル。
いや──それ以上かもしれない。
対する魔族軍はそれを遠巻きに包囲していた。
ある程度の間合いを取り、魔法や弓などの遠距離攻撃主体で戦っている。
接近戦なら瞬殺される、と指揮官が判断したのだろう。
その指揮を執っているのは、ステラのようだ。
彼女の側にはフェリアやオリヴィエの姿が見える。
俺はベルから降り、飛翔魔法をコントロールして彼女の側に着地した。
「魔王様……!」
ステラが俺を見て、ホッとしたような顔になった。
「よく来てくださいました」
「お前こそ、よく軍を指揮してくれた。礼を言う」
「そんな……私は、何もできませんでしたから」
「何を言っている。強敵を相手にしても、軍の士気は高い。お前がみんなを鼓舞して、持ちこたえさせた証拠だろう。胸を張れ、ステラ」
と、ステラの肩に手を置いた。
「また、お前に助けられたな」
「魔王様……」
ステラの頬が赤く上気した。
「ここからは、俺がお前たちの力になる。ステラは引き続き軍の指揮を頼む。フェリアとオリヴィエはステラと軍のフォロー及び各自の判断で戦闘のサポートを」
「はっ」
三人の魔軍長の声が唱和する。
「ゼガートとツクヨミはどうした?」
「ツクヨミは破壊され、ゼガートは行方が知れません」
報告するステラ。
それは少なからずショックな報告だったが、今はぐっと飲みこむ。
「……分かった。じゃあ、魔軍長三人で軍を頼む。俺は──」
ステラたちに背を向け、リアヴェルトと向き合った。
「奴を押さえる」
「邪悪を統べる者……魔王カ。私が貴様を討ち、世界に平和をもたらしてみせヨウ」
全身鎧の騎士が、体中を覆う虹色のオーラを炎のように燃え上がらせた。
「……四天聖剣の一人、リアヴェルトか」
俺が人間だったころ、唯一会ったことのある四天聖剣が目の前の男だった。
超人的な突進力と頑強さに特化した戦士。
常に全身鎧に身を包み、素顔すら明かさないその素性は謎に包まれていた。
まあ、こいつの素性がなんであれ、倒すだけだ。
魔族を守るために。
「吹き飛べ──」
俺の手から火球や雷撃、風刃に水流など、いくつもの攻撃魔法が乱れ飛ぶ。
魔王の魔力をもってすれば、最下級呪文ですら山をも消し飛ばす威力と化す。
なら、呪文のグレードよりも手数重視だ。
相手も並ではないが、これだけの数を簡単には凌げないだろう。
逆に凌げるのであれば、それはそれで奴の戦闘能力を把握できる。
──のだが、
「温いナ」
リアヴェルトは平然と突進していた。
迎撃も、防御もしていない。
奴に触れるか触れないかのところで、俺の攻撃呪文がことごとく消し飛んでいく。
なんだ、これは──。
一瞬のうちに、リアヴェルトは俺の間合いに迫っていた。
さすがの突進力だ。
「『ルシファーズシールド』」
すかさず防御障壁を生み出す俺。
「ふんッ!」
かまわず振り下ろしたリアヴェルトのハンマーが、俺の障壁を砕いた。
「くっ!?」
バックステップしつつ、呪文を乱れ打ちして牽制する俺。
「む……」
爆圧に足止めされ、リアヴェルトは俺に追撃できない。
その間に、俺はふたたび距離を離した
とりあえずは凌いだ──が、
「こいつ、攻撃力も防御力も異常に高い……!」
明らかに人間のレベルを超えている。
いや、超えすぎている。
「私の力は魔王を討つために神が与えてくださったものダ! 太古より眠りし神の力デ──今こそ貴様を殺してみせル!」
虹色のオーラを噴出力に変え、爆発的なスピードで突進する勇者騎士。
振り下ろされたハンマーは大気を砕き、衝撃波をまき散らし、俺に迫る。
「『収斂型・虚空の斬撃』!」
俺はありったけの魔力を収束させた剣を生み出し、それを受けた。
威力は、互角。
奴の奇蹟兵装がまとう虹色と、俺の剣が放つ虚無が衝突し、強烈に反発する。
奴の攻撃は俺まで届かないが、代わりに必殺の魔力剣も奴の奇蹟兵装を切り裂けない。
俺は大きく弾かれ、跳び下がった。
「砕け散レ、魔王ッ!」
対するリアヴェルトは下がらず、さらに突進してくる。
「くっ……!」
一撃一撃を虚無の剣で受け、あるいは魔法で牽制して距離を離す。
俺の魔法は奴にいっさい届いていなかった。
やはり、生半可な攻撃では通らないようだ。
ならば──、
「『フェザーエア』!」
俺は飛翔呪文を唱え、空中に跳びあがった。
「逃がさヌ!」
リアヴェルトがそれを追って跳ぶ。
背から生えた虹色の翼をはためかせ、俺以上のスピードで空を翔ける。
みるみるうちに、俺は奴に追いつかれ──、
「もはや逃げ場はないナ、魔王!」
「逃げる? 違うな」
俺は仮面の下で笑った。
「追いつかせたんだ」
そう、これが狙いだ。
空中におびき寄せれば、地上の被害を気にせず、最大級の魔法を撃てる──。
「爆ぜて、消えろ──勇者!」
俺はリアヴェルトに向かって右手をつき出した。
「『破天の雷鳴』!」
ほとばしった黄金の稲妻は十数条に分かれ、空中のリアヴェルトを絡め取る。
閃光が弾け、闇に覆われた魔界を真昼のごとく照らし出す。
そして──、
「無駄ダ。神の力は、絶対不可侵」
すべての稲妻が、奴に触れる寸前で弾け散る!
こいつ、最上級魔法すら弾くのか!?
──いや、違う。
俺は直前の光景を思い返す。
十数条の稲妻はリアヴェルトに触れる前に消滅したのだ。
「まさか──」
俺の魔法そのものが、まったく届いていないのか。
防御とは違う。
もっと別の何かだ。
面白かった、続きが気になる、と感じていただけましたら、ブックマークや最新話のページ下部より評価を入れてもらえると嬉しいです(*´∀`*)