9 風の再戦
俺は冥帝竜に乗り、一路ジレッガ市に飛んでいた。
その途上、
「強烈な神気を感じるよ、フリード様」
ベルが言った。
「神気?」
「勇者だろうけど、まるで天使クラスだね──かなり強い人たちみたい」
「場所はどこだ?」
「もう少し先だね。怨讐山脈のあたり」
俺の問いに答えるベル。
「行ってみる?」
「頼む」
しばらく空を進み、ベルは山間の道に降り立った。
確か、前の戦いでゼガート軍が勇者たちを迎撃した場所だ。
ほどなくして、前方から二人の勇者がやって来る。
「お前たちは……」
いずれも、女の勇者だった。
一人は、青い髪を黄色いリボンでツインテールにした快活そうな美少女。
もう一人は、金色の髪を結い上げた気品のある美女。
片方は知っている顔だ。
勇者たちの中で最強と称される四天聖剣の一人。
ルドミラ・ディール。
「魔王──」
「この者が……!?」
金髪の美女が俺をにらんだ。
「エリオ、あなたの無念はわたくしが晴らします」
細剣を構えた。
「『火』の四天聖剣──このフィオーレ・クゥエルが!」
なるほど、こいつも四天聖剣だったか。
「今度こそ、あたしはお前を倒す」
フィオーレの隣でルドミラが弓を構える。
「もう二度と負けない!」
「ええ、二人で、必ず」
うなずき合った二人から、黒い輝きが立ちのぼった。
「混沌形態、起動。黒の法衣、展開」
唱和した声とともに、彼女たちの持つ奇蹟兵装が漆黒に染まり、その姿を大きく変化させる。
ルドミラの弓はX字型から星のような形に、フィオーレの細剣は身の丈を超えるほどの刀身に。
「これがゼガートから聞いていた黒い奇蹟兵装か……」
俺は仮面の下で眉を寄せる。
人間だったころ、勇者として二十年ほど戦ってきたが──奇蹟兵装にこんな変形機能があるなんて見たことも聞いたこともない。
それに彼女たちがまとっている衣装も。
こちらは、ゼガートの報告にはないものだった。
俺が知らない、勇者としての力なのか──?
いくら俺のステータスが歴代魔王最強とはいえ、未知の戦法に対しては警戒する必要がある。
十分に気を引き締めた方がよさそうだ。
「弐式・最大装弾精密連射!」
戦いの開幕を告げたのは、ルドミラが放つ光の矢だった。
以前に戦ったときは数百単位だったが、今回はおそらく数千。
文字通りけた違いの光の矢が、輝く雨となって俺の周囲に降り注ぐ。
「『ホーミングメテオ』」
俺は巨大な火球を無数に生み出し、迎撃した。
周囲が爆炎と爆光に包まれる。
「弐式・桜花の炎!」
それを切り裂くように、火炎の斬撃が迫った。
だが、連携でこちらの隙をついてくるのは予想済みだ。
「『メテオブレード』!」
俺は周囲に炎の剣を次々に撃ち出し、火炎斬撃を相殺する。
周囲はまだ黒煙と爆炎に包まれていた。
奴らは、どこだ。
どこから攻撃してくる──。
「『ホーミングレイ』」
俺は警戒しつつ、次の魔法を放った。
姿が見えないなら、自動追尾型の魔法で仕留めるまでだ。
「きゃあっ!?」
響いた悲鳴は二つ。
前方と側面でそれぞれ爆発が起きた。
巻き起こった爆風が黒煙を吹き飛び、視界が広がっていく。
「──耐えたか」
ルドミラもフィオーレもダメージらしいダメージは追っていないようだ。
二人の周囲に、赤紫に輝く光の盾がいくつも浮かんでいる。
あれが『ホーミングレイ』を防いだんだろう。
あるいは黒い法衣の能力かもしれない。
「頑丈だな」
「攻撃も防御も、以前のあたしと同じだとは思わないことね!」
ルドミラがX字型の弓を構える。
その周囲で無数の竜巻が吹き荒れた。
「わたくしたちは強くなったのです。神の使いに鍛えられ、魔を討つために!」
細剣を手に、フィオーレが凛と告げる。
その刀身に紅蓮の炎が渦を巻いた。
ちりちりと肌が焼けるような感覚があった。
「これは──神気、か」
つぶやく俺。
神や天使の力の発露ともいえる、聖なる力。
それを人間であるルドミラやフィオーレが、色濃く発している。
「これくらいで驚かれては困るわね、魔王」
「わたくしたちの真価はこれからです」
二人は背中合わせに寄り添い、叫んだ。
「これがあたしたちの切り札──神気烈破導よ!」
同時に、彼女たちの神気が爆発的に高まった。
「滅せよ、魔王!」
ルドミラから無数の竜巻が放たれ、フィオーレが火球を次々に撃ち出してくる。
大気が焼け焦げ、大地が割れた。
空間そのものが悲鳴を上げている。
さっきまでとは威力が違う──!?
迫る風と炎を、俺はまっすぐに見つめ、
「『収斂型・虚空の斬撃』」
一閃。
そのすべてを、切り裂く。
「そ、そんな……!」
二人の勇者が愕然とうめいた。
「お前があのときより強くなったように、俺の力も進化している──ということだ」
虚無の剣を手に、俺は静かに告げる。
「強すぎる──」
ルドミラががくりと膝を落とした。
おそらく、さっきので力を使い果したんだろう。
「ここまでとは……」
フィオーレが蒼白な顔でうめく。
「お前たちに直接の恨みはない」
俺は二人の勇者を見据えた。
実際、彼女たちからは凛とした強い意志を感じる。
権威をかさに着たり、栄耀栄華を貪るような堕落した勇者じゃない。
きっと、地上の愛と正義のために戦う模範的な勇者なんだろう。
だが、それでも──、
「俺たちの世界を守るために──仲間たちを守るために、勇者には消えてもらう」
魔王の務めとして。
俺は傲然と宣言した。
「冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る。」
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