表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/193

7 不死王VS四天聖剣

 太陽が差さない暗黒の世界。


 濁った風が、結い上げた金髪に絡みつく。

 よどんだ空気が、肌にまとわりついてくる。


 ──嫌な場所。


 フィオーレ・クゥエルが初めて魔界に降り立ったときの感想は、そんなシンプルなものだった。


 人ではなく、魔が住まう場所。

 それが感覚的にしっくり来る。

 邪悪の、巣食う場所だ。


 貴族の令嬢として生まれた彼女は、最強の勇者『四天聖剣(セイクリッドエッジ)』の一人として家門の誉れとなった、


 この嫌な場所を、そこに巣食う悪をすべて薙ぎ払い、今まで以上にクゥエル家の名を轟かせてみせる──。

 そう、決意をあらたにする。


「行くわよ。最短で魔王城に行き、最速で魔王を討つ」


 告げたのは、ルドミラだ。


「ああ。今の俺たち四人の力が合わされば、魔王も敵じゃないさ」


 その隣には魔法使い風のローブをまとった青年、シオンが。


「使命を果たすのみですネ」


 うなずいたのは全身鎧の騎士、リアヴェルト。


「エリオたちが先行しているはずですわ」


 フィオーレが言った。


 エリオは、彼女の弟だ。

 第四位階『主天使(ドミニオン)級』の奇蹟兵装を操る勇者であり、魔界侵攻作戦の第一陣メンバーに選ばれた若きホープでもある。


(無事でいて、エリオ……)


 本当は、彼が勇者になること自体、反対だった。


 彼にはフィオーレほどの素質はない。

 ただ姉である自分に憧れ、才のなさを承知で勇者養成機関に入った。

 そして、ある程度の力を手に入れた。


 弟は、並の勇者よりもはるかに強い。

 だが、最強と称される四天聖剣のフィオーレから見れば、その力は危なっかしいものだった。


 早く合流しなくては……。

 逸る気持ちにかられ、フィオーレは他の三人とともに魔界を進み出した。




 フィオーレたちは街道を進み、巨大な城壁に囲まれた都市に差しかかった。

 他の町に比べても、かなり大規模な都市だ。


「ここから先は通さん」


 古めかしい甲冑をまとった髑髏の剣士が立ちはだかる。


 さらに、ぼこっ、ぼこっ、と地面から無数の動死体(ゾンビ)が現れ、大気から死霊の群れがにじみ出した。

 アンデッド軍団総登場だった。


「俺は魔王軍第二軍を統括する魔軍長リーガル。魔界に仇なす者は、すべて我が剣の露となれ」


 無数の骨を組み合わせたような不気味な剣を構えるリーガル。


「今のあたしたちは、誰にも止められない」


 弓型の奇蹟兵装『ラファエル』を手に、ルドミラが不敵に言い放った。


「蹴散らすわよ、みんな」


 自信に満ちあふれた言葉だった。


 それも当然だ。

 自分たちは、神託の間の修業で計り知れないほど強くなったのだから。


「ええ」


 うなずき、細剣型の奇蹟兵装『ミカエル』を構えるフィオーレ。


「新たな力での初陣だ。派手に行こうか」


 シオンが槍型の奇蹟兵装『ガブリエル』を携える。


「最短距離で魔王の元まで突き進むのみダ」


 巨大なハンマー型の奇蹟兵装『ウリエル』を掲げるリアヴェルト。


 同時に、全員の体を漆黒の衣装──黒の法衣(カオスジャケット)が包んだ。


「──参る」


 短く告げたリーガルの言葉とともに、戦いが始まった。

 無数の死霊が瘴気の衝撃波を放ち、ゾンビたちが四方から包囲網を狭めてくる。


弐式・最大装(アクセル・サウ)弾精密連射(ザンドアロー)!」


 ルドミラの放つ数千の光の矢が、ゾンビたちをまとめて射抜いた。

 聖なる力によって、すべてのゾンビが動きを止め、消滅する。


弐式・桜花の炎ファイアフラワーバスター!」


 フィオーレの細剣から炎が渦を巻いて飛び出し、死霊たちを焼き払った。


「……俺たちの出番がないな」

「……まったくダ」


 背後でシオンとリアヴェルトが少しさびしげだった。

 と、


「部下たちを──おのれ!」


 リーガルが地を蹴り、突進する。

 重厚な鎧をまとっているとは思えないほどの超速だ。


 フィオーレは細剣を振るい、その突進を迎え撃つ。


 ばしっ、と音がして、リーガルの両腕が切り落とされた。


「──えっ!?」


 いや、違う。


 彼女が切り落とす前に、敵の腕がひとりでに千切れたのだ。

 左右の腕はそのまま宙を滑り、


「『ハーデスブレード』!」


 背後から、瘴気をまとった骨剣が繰り出される。

 斬撃を避け切れず、背中を直撃した。


「何……!?」


 リーガルが驚きの声を上げる。


「以前のわたくしなら今の一撃で殺されていたかもしれませんわね。ですが──」


 気品をたたえた微笑とともに、フィオーレは細剣を構え直した。

 身に付けた黒い衣装が、『ハーデスブレード』の威力を相殺していた。


黒の法衣(カオスジャケット)をまとった今、その程度の瘴気など通用しませんっ」


 今度は彼女が突進する。

 両腕がない今、髑髏の剣士は無防備だ。


「終わらせる──」

「ちいっ」


 リーガルは間一髪で両腕を体に戻し、骨剣でその一撃を受け止めた。


 さすがに魔軍長だけあって、手ごわい。

 だが──、


神気烈破導(オーラバースト)!」


 フィオーレが叫んだ。

 同時に、全身からたちのぼる神気が数倍に膨れ上がる。


「パワーがまだ上がる……だと……!?」


 リーガルの驚愕の声を飲みこんで。


「言ったはずです、終わらせると──」


 エリオと合流するまで、歩みは止めない。


 炎をまとったフィオーレの斬撃が、髑髏の剣士を両断した。


    ※


 俺はステラとフェリアに挟まれた格好になっていた。


「さあ、魔王様。あたしたちのことをどう思っているの? 単なる部下? それとも女として見てもらえるのかしら」


 と、フェリア。


 いや、急に何言ってるんだ。


「あたしよりもステラの方がお好み? ときどき、いい雰囲気になるし」

「い、いい雰囲気……」


 ステラがなぜか頬を緩めた。


「そうか、私と魔王様が……」

「ふふ、ステラは可愛いもの。自信持っていいわよ」

「本当か、フェリア」

「可愛い可愛い」

「お前、本当はすごくいい奴なのか」

「……『本当は』って普段どう思ってたのよ」

「い、いや、すまない。他意はないんだ」


 ジト目のフェリアに、ぺこりと頭を下げるステラ。

 いやいやいや、話がますます妙な方向に逸れているぞ。

 と、


「失礼いたします、魔王様」


 新たにやって来たのは、ゼガートだった。


「報告に来たのですが……取り込み中ですかな?」


 俺とステラ、フェリアを順番に見て、にやりと笑う獣帝。


「いや、なんでもない。報告、とは?」

「たった今、伝令から情報が入りました」


 ゼガートが告げる。


「ジレッガで戦っていたリーガルと第二軍が、勇者たちに敗れた模様──」

8章前半はここまでです。

10日ほどお休みをいただき、8月14日(火)から8章後半を更新再開予定です。


面白かった、続きが気になる、と感じていただけましたら、ブックマークや最新話のページ下部より評価を入れてもらえると嬉しいです(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼カクヨムでの新作です! ★やフォローで応援いただけると嬉しいです~!▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。




▼書籍版1~3巻発売中です!

actefkba5lj1dhgeg8d7ijemih46_cnq_s1_151_p3li.jpg av1c16pwas4o9al660jjczl5gr7r_unu_rz_155_p11c.jpg rk21j0gl354hxs6el9s34yliemj_suu_c6_hs_2wdt.jpg

▼コミック1~4巻発売中です!

6q9g5gbmcmeym0ku9m648qf6eplv_drz_a7_ei_1dst.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ