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3 それぞれの戦局

 勇者との戦いを終え、ゼガートは小さく息を吐き出した。


「お見事でした、ゼガート様」

「ふん、多少は歯ごたえがあったが……儂の敵ではない」


 側近である鳥獣人──シグムンドの勝算に、鼻を鳴らすゼガート。


「魔王城に増援を呼ぶぞ、シグムンド」

「増援……ですか?」


 もちろん、実際にはすでに勇者軍に完全勝利したため、増援など必要ない。

 目的は別にある。


「魔王をここに呼び出したい」

「ですが、魔王が直々に来るでしょうか?」


 訝しげにたずねるシグムンド。


「……ふむ。儂の見立てでは五分五分といったところか。奴は儂に少なからず疑いを抱いているようだからな」


 まあ、無理もないが。

 ゼガートは内心で笑う。


「儂は奴を知っておく必要があるのだ。考え方の癖、戦い方の癖、何を大切にするのか。なんのために戦うのか。強い部分も、弱い部分も」


 ゼガートがうなった。


「増援に対して、どう対応するのか。どう行動するのか──」


 足元に転がっている勇者の奇蹟兵装を拾い、軽く力を込める。


 ヴン……!


 鈍い音を立てて、兵装が発光した。

 まるでゼガートの意志に呼応するように。


「そして、すべての準備が整ったとき──儂は奴を討つ」


 獣帝の瞳には激しい野心の炎が燃えていた。


    ※


 魔王城──。


「ゼガートが劣勢?」

「はい、第四軍の伝令からそのような知らせが」


 ステラが俺に報告する。

 魔軍長たちをそろえての謁見はすでに解散したため、この場には俺と彼女しかいない。


「ゼガートを追いこむとは……」


 やはり今回の勇者軍は前回よりも猛者ぞろいのようだ。

 あるいは四天聖剣(セイクリッドエッジ)クラスがいるのかもしれない。


「増援を向かわせますか? リーガルか、あるいは性格面やムラッ気に難がありますがジュダ辺りを──」


 戦闘能力から考えると、その二名のどちらかが適任だろう。


 やはり、リーガルだろうか。

 考えたところで、背筋にゾクリとした悪寒が走った。


 なんだ……?


 それは、直感のようなものだった。


 魔王としての能力ではない。

 俺が人間だったころから身に付けていた力──。


 戦士としての、カンだ。


 そのカンが告げていた。

 俺が動くべき状況だ、と。


「リーガルもジュダも待機だ。魔王城の防衛や新たな敵に備えさせる」


 王座から立ち上がる俺。


「増援には俺が向かう」

「フリード様自らが……?」


 驚いたようなステラ。


「敵は前回より強いみたいだからな。俺が勇者たちを撃退すれば、味方の士気も上がるだろう。ゼガートや増援が敗れて、他の兵たちが動揺する事態は避けたい」

「今後の戦局も見据えて、ということですね。それでも、私は──」


 ステラの表情が曇った。


「心配か?」

「あなた様の力を信じています。ただ……」

「俺は『光の王』をも打ち破った最強の魔王だぞ」


 にやり、と半分冗談めかして笑う。


「安心して待っていてくれ」


 一瞬の、沈黙。


 その後、ステラが小さく息をついた。


「では、これをお持ちください」


 俺の前に屈みこむステラ。

 銀色の髪をひと筋切り落とし、


「フリード様の指に結びますね」


 と、俺の指先に巻きつけてくれた。


「これは?」

「一種の通信術です。緊急の事態があったときには、この髪を通じて私が念話や映像などを送りますので」

「便利だな」

「……お気を付けくださいませ、フリード様」


 立ち上がったステラが俺を見つめた。


「敵にも、それに……」

「分かっている。警戒はしているさ」


 ステラの言いたいことは、皆まで言わずとも分かっていた。


 勇者軍はもちろん、ゼガートにも決して気は抜けない。




 ──俺は冥帝竜(ベル)に乗り、ゼガートたちのいる戦場に到着した。


「魔王様、ご足労いただきかたじけない」


 出迎えた黄金の獅子獣人が、俺に一礼する。


「戦況はどうなっている?」

「我が勇猛なる第四軍の奮闘もあり、勇者どもを掃討いたしました」


 周囲には、むせ返るような血臭と死体の山。


 勇者たちは全滅したようだ。

 どうやらここに向かう間に、戦況は一変したらしい。


 増援として俺が来るまでもなかったか。


「そのうちの一人に手こずらされまして。増援を求めたのですが、儂と部下たちの奮闘もあり、どうにか盛り返せたわけです。魔王様にとんだ無駄足を踏ませてしまい、恐縮です」

「……いや、勝利したのは何よりだ」


 言いながら、俺は仮面の下で唇を噛んだ。


 数百人単位の勇者たちの死体を見て、まったく何も感じないといえば嘘になる。


 だけど、俺は『魔王』だ。

 三か月間、大勢の魔族たちとともに過ごしてきた。


 戦争なんだから、どちらかが一方的な善で、どちらかが悪だなんて言うつもりはない。

 さすがに、そこまで青臭い考えは抱いていない。


 ただ、俺は大切だと思う者を護りたい。

 それは人間の勇者だったときも、生まれ変わって魔王になった今も変わらない。


 そして今、俺が大切だと思う者たちは──、


「どうなさいました、魔王様?」


 ゼガートがニヤリと笑って、俺を見ている。

 内心を見透かされた気がした。


「……お前たちの勇猛さに感嘆した」


 俺は仮面越しに獣帝を見返す。


「大きな戦果だ。よくやった、ゼガート」

「光栄です」


 ゼガートはニヤリとした笑みを深くする。

 口の端がめくれあがり、長い牙が見えた。

 と、


「魔王様、緊急事態です」


 ふいに、ステラの声が響く。


 まるで脳内に直接響くような、声。

 どうやら俺の指に巻きつけられた彼女の髪を通して、声が聞こえるようだ。


「獄炎都市ジレッガと黒雷都市バルドスにそれぞれ勇者軍が攻めこんできました。都市の守備隊だけでは防ぎきれない模様です。増援を送りますか?」


 ジレッガとバルドスは、それぞれ王都に次ぐ魔界第二、第三の規模の都市だ。

 そこへの二点同時襲撃か。


「ジレッガにリーガルの第二軍を、バルドスにジュダの第五軍をそれぞれ向かわせろ。俺もすぐに戻る」

「承知いたしました」


 ステラとの通信が切れる。


 よほどの相手でないかぎり、リーガルやジュダが上手くやってくれるだろう。

 だけど、敵軍がこれだけとは限らない。

 もしかしたら、さらに第三、第四波と押し寄せる可能性もある。


「──魔王様」


 そんな予感を裏づけるように、ゼガートが言った。


「新手です」


 振り返ると、勇者軍の増援が近づいてくるのが見えた。

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