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1 開戦、魔軍VS勇者軍

更新再開です。

「魔界西方外縁部に現れた勇者の数はおよそ三百。ただちに迎撃してほしい」


 俺は謁見の前に七大魔軍長を集めていた。


 魔軍長たちの中で戦闘能力が特に高いのはジュダ、ゼガート、リーガルの三名だ。

 俺は彼らを見回し、


「ゼガート、行ってくれるか」

「新たな王の元での初仕事ですな。喜んで」


 黄金の獅子獣人は牙をむき出しにして笑った。


「我が第四軍の力を持って、勇者どもの首を王の前に捧げましょうぞ」

「……頼もしい言葉、嬉しく思うぞ」


 言いつつ、仮面の下で俺の顔はこわばっていたかもしれない。


 今、俺が下しているのは、人間の軍を抹殺しろという指令に等しい。


 魔王になって三カ月。

 始めのころに比べれば、魔族たちを思う気持ちはずっと大きくなっている。

 相手が人間でも『敵』であれば討つ、という覚悟も強くなっているつもりだ。


 それでも俺は──俺の心には、まだ『人間』の部分が色濃く残っているんだろう。

 いや、人間とほとんど変わらない感覚だ。


 今の俺は、どっちなんだろうか。


 すでに精神まで『魔王』フリードになりつつあるのか。

 変わらず『勇者』フリードのままなのか。


 あるいは──。


「どうかなさいましたか、王よ」


 不審げな声を上げたのはリーガルだ。


「よもや人間どもを相手の戦に迷っている、などということはありますまい。魔界に並ぶ者なき力を持つあなた様が、人間どもを恐れる理由もありますまい」

「リーガル……」

「何を思案されておいでか」


 俺の中に生じた葛藤を見透かすような──あるいは、咎めるような声。

 謁見の前に、嫌な空気が漂う。

 と、


「案ずるな、リーガル魔軍長。魔王様は私たちの仕事の分担を考えておられるのだろう」


 俺に助け船を出すように、ステラが言った。


「ゼガート魔軍長が栄誉ある先陣を切ることに異論はありませんが、我らにも何か役目を与えていただきたく思います。必ずや、あなた様のお力になってみせましょう」


 かしこまった口調でステラが頭を下げる。

 場に流れていた嫌な空気が、各魔軍長の役割分担を決めようという雰囲気へと自然に移行した。


 いつもながら、俺のことをフォローしてくれる彼女には感謝してもしきれない。

 ──ありがとう、ステラ。


「そうそう、ボーッと待ってるだけなのも暇だし」


 と、微笑むフェリア。


「仕事がないならないで、私はかまわないよ」


 ふあぁ、とジュダがあくびをした。


「昼寝でもしてるし」

「ジュダ殿は昼寝というより、年がら年中寝ているように思えるのであります」


 ツクヨミが淡々とツッコミを入れる。


「リーガルとジュダはそれぞれの軍と警戒に当たれ。勇者軍が多方面から攻めてくることも考えられる」


 そんな二人に苦笑しつつ、俺は言った。


「承知いたしました」

「うん、結界はかなりボロボロになってるからね。多方面同時攻撃は十分あり得るよ」


 リーガルとジュダがうなずく。


「オリヴィエの軍は二つに分け、半分はゼガート軍のフォローに、もう半分は待機だ」

「は、はい、初仕事がんばりますっ」


 緊張しているのか、声を上ずらせるオリヴィエ。

 狐の耳と尻尾がせわしなく揺れていた。


「勇者軍が聖なる力を利用した大規模精神攻撃をかけてくる可能性もある。フェリアの軍はそれに備えてくれ。ステラとツクヨミは俺の側でサポートを」


 フェリア、ステラ、ツクヨミの三人もうなずく。


「──以上だ。この場の誰も、そして軍や民の一人も欠けることなく、勇者軍を追い払え」


 俺はそう命じて謁見を締めくくった。


    ※


 いよいよ魔界侵攻作戦開始だ。


 勇者エリオ・クゥエルは胸を高鳴らせていた。


 天才と謳われる姉、フィオーレほどではないが、彼とて十分な才気を持ち、十五歳にしてすでに第四位階の奇蹟兵装『グラーシーザ』に選ばれている。

『お前たち姉弟は我が一族の誇りだ』と、父であるクゥエル公爵はことあるごとに賞賛してくれる。


 そんな父の期待にもっと応えたい。

 もっと強くなってみせる。

 もっと武勲を挙げてみせる。


 いずれは姉をも超える勇者となり、クゥエル一族の名を世界に轟かせるのだ──。


 エリオは若者らしい野心に燃え、訓練を重ねた。

 そして栄えある第一陣のメンバーに選ばれ、こうして魔界の大地に立ったのである。


 太陽が差さないこの世界は常に薄闇に包まれている。

 空気も、人間界よりも淀み、重たくまとわりつくような感覚がある。


 魔界外縁部──。

 赤茶けた荒野がどこまでも広がる、死の大地だ。


 と、その前方から無数の影が現れる。

 整然と並んだ勇者軍とは対照的に、歩調も隊列もバラバラの一軍。


 軍というよりも、ならず者の集団といった雰囲気だった。

 いずれも獣人の姿をした魔族だ。


「俺は魔界第四軍第二部隊を預かるギルーア! 人間ども、ここが貴様らの終焉(しゅうえん)の地と知れ!」


 その先頭で、サイを思わせる獣人の魔族が吠えた。


「散開! 近接型で連携して攻撃を。遠距離型は支援を頼む」


 リーダー格の勇者が叫ぶ。


「こざかしい!」


 ギルーアと名乗った魔族は巨大な鉄球を操り、勇者たちの集中砲火をものともしない。

 撃ちこまれる奇蹟兵装の斬撃を無数に浴びて、なお前進した。


「吹き飛べ!」

「ぐあぁっ」

「うぐあっ」


 繰り出された鉄球が勇者たちを蹴散らしていく。

 隊列が崩れかけるものの、遠距離系の奇蹟兵装を持つ勇者たちが援護し、かろうじてギルーアを後退させた。


 その後も、一進一退──互角の戦いが続く。


 いや、わずかに押しているのはギルーアか。

 単騎で、数十の勇者たちと五分以上にわたり合っている。


「強い……!」


 エリオは戦況を見据え、ごくりと喉を鳴らした。


 後方待機を命じられているのが、じれったかった。

 奇蹟兵装のランクこそ第四番目の『主天使(ドミニオン)級』と、最前列で戦う彼らよりも低いが、エリオには『アレ』がある。


「どうした、人間ども! そんな程度なら獣帝様や魔王様の手をわずらわせるまでもない。この俺一人で十分というものだな」


 ギルーアの猛攻で徐々に隊列が崩れていく。

 勇者たちの表情に焦りと、そして恐怖が浮かんでいく。


「──やるか、あれ」


 エリオは決意した。


 後方待機という命令に従っていたら、隊全体が致命的な状況を負いかねない。

 この場で劣勢を跳ね返せるのは、自分だけだ。


 過信ではなく、自信。

 気負いではなく、覚悟。


「奴は俺がやります。みんなは下がって!」


 叫んで、エリオは前に出た。


「お、おい、お前──」

「まさか一人で戦う気か!? やめろ──」


 驚く勇者たちに微笑み、


「奇蹟兵装『グラーシーザ』──混沌形態(カオスフォーム)


 手にした槍に呼びかけた。


 ──どくんっ!


 槍の柄から激しい脈動が伝わる。


「ぐっ……おおおおおおおおおおっ……!」


 同時に、『グラーシーザ』が黒いオーラに包まれた。


「──ほう?」


 ギルーアが興味を引かれたようにエリオを見た。


「がああああああああっ……!」


 咆哮とともに、グラーシーザは漆黒の槍へと変わっていた。

 穂先が一回り大きくなり、先端から赤い火花が散る。


 混沌形態(カオスフォーム)

 侵攻作戦に備えた訓練の中で、半ば偶然身に付けた奇蹟兵装の新たな段階──。


「お、お前、それ……!?」


 勇者たちは驚きを通り越し、呆然とした顔だ。


「えへへ、ずっと修行していたら突然使えるようになって……」


 エリオは照れくさくて頭をかいた。


 何しろ、使えるようになったのがほんの数日前。

 発動も不安定で、まだ誰にも言っていなかったのだ。


 本番で上手くいったことに、とりあえず安堵する。


「こいつは従来の奇蹟兵装の何倍ものパワーがあります。ここは俺に任せてください」

「よ、よし、頼めるか」


 リーダー格の勇者が頼もしげに言った。

 エリオはそれに力強くうなずく。


「いくぞ!」

「蹴散らしてやる!」


 突進するエリオを、ギルーアが待ち受ける。

 振り下ろされる爪は、今のエリオには止まって見えた。


 黒い奇蹟兵装(カオスフォーム)はただ攻撃力があがるだけではない。

 手にした者の力をも、数倍に引き上げる。


「遅い遅い」


 にやりと笑い、エリオは『グラーシーザ』を一閃した。


「がっ……!?」


 それで、勝負あった。


 鮮血とともに両断されるギルーア。

 槍を振り、ぴっ、と血のりを払ったエリオは、仲間たちにグッと拳を突き上げた。


 すがすがしいまでの、完全勝利だ。




「──ほう、多少は骨のある者もいるようだな」




 ふいに響いた声とともに、魔族の軍勢が左右に分かれた。


「なんだ……!?」


 その開いた道を、一人の魔族が悠然と進む。

 きらびやかな黄金の甲冑をまとった、獅子の獣人だ。


「お前は──」


 空気がぴりぴりと帯電しているような感覚。

 全身が総毛立つような威圧感。


 他の魔族とは明らかに『格』が違う。


「儂は獣帝(ギガントロア)ゼガート。この第四軍を統べる者」


 獅子の獣人が名乗る。


「獣帝──」


 エリオは息を飲んだ。


 魔界最強と称される七大魔軍長の一人。

 魔王の側近クラスだ。

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