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3 錬金機将

 先の戦いで、光の王の攻撃は魔界全土に少なくない被害をもたらした。


 その復興作業に関して、新たに魔軍長に就任した邪神官(プリースト)オリヴィエやジュダに頼むことにした。

 サポートには、未だ後任の魔軍長が決まっていない第七軍を付かせている。

 職人的なスキルを持った魔族で構成されており、壊れた家屋や公共施設などの修復には、彼らの力が欠かせない。


 魔界防衛の任務はリーガルとフェリアに命じた。


 で、俺はステラと一緒に魔王城内を回っている。

 ここも光の王の攻撃の余波を受けていた。


「魔王城にかなりの損傷が発見されました。特に、各所の機械部分にダメージを受けた模様です」

「機械部分……か」


 ステラの説明につぶやく俺。


 魔王城は城の内部にいくつもの機械的な装置を入れているそうだ。

 いざというときには、魔界を防衛するために発動する──と、前魔王のユリーシャから聞いている。


「本来の管轄は錬金機将(アルケミスト)──前軍団長のイザナでしたが、今はその後任がおらず、彼の軍の幹部たちで担当しています」


 七大魔軍長の最後の一席──錬金機将(アルケミスト)


「その後任も早いところ決めないとな」

「候補者はこちらに。まとめるのが遅くなり、申し訳ありません。フリード様」


 と、ステラがリストを差し出す。

 二人っきりなので、彼女は俺のことを『魔王様』ではなく『フリード様』と呼んでいた。


「ステラはよくやってくれている。いつも助かってるよ」


 フォローを入れる俺。


「……ありがとうございます」


 ステラの頬にかすかな赤みが差した。

 俺は受け取ったリストに目を通していく。


「ツクヨミ、という魔族が有望なのか」


 候補者は五人ほどいたが、総合評価はツクヨミがA+、他の四人はいずれもB+やBにとどまっていた。


 ツクヨミは、前軍団長が作成した改造生命体(ホムンクルス)のようだ。


 ホムンクルスとは、錬金術によって作り出された魔造生物を指す。

 本来は単純な命令しか聞かず、知能も低いそうだ。


 だがイザナが造りだしたそれは別格で、並の魔族よりもはるかに優秀な知能や魔力、身体能力を備えているという。

 中でもツクヨミは知力体力魔力とも、最高傑作と呼ばれる改造生命体らしい。


「他の候補よりも頭一つ抜けていると思います。ただ、独断専行をする傾向があり、そこだけが気になっています」


 ステラが説明した。


「平たく言うと、自分勝手な傾向がある、ということですが」

「なるほど。他の候補は?」

「いずれも、性格的には比較的従順かと思います。ただし評価欄を見ていただければ分かる通り、能力的にはツクヨミより一段か二段劣りますね」


 能力は高いが、性格面に問題があるかもしれないツクヨミか。

 能力は劣るが、性格的には問題がなさそうな他の候補者か。


 俺はステラと話し合い、やがて結論を出した。


「──よし、ツクヨミを呼んでくれ」


 新たな錬金機将(アルケミスト)として。


 今は何よりも、有能な魔族を手元に置きたい。

 来たるべき勇者たちの侵攻を、最強の軍団で迎え撃つために。


 そしてその後も──。

 魔界に平和をもたらす、最強の軍団を編成し続けるために。




改造生命体(ホムンクルス)No253ツクヨミと申します。お目にかかれて光栄であります、魔王様」


 謁見の間に現れたのは、銀色のシルエットだった。

 白銀の体は一見して鎧のたぐいに思えるが、実は違う。


 これこそがツクヨミの肉体である。


「フリードだ。よろしく頼む」


 俺は玉座から立ち上がり、ツクヨミに歩み寄った。


「お前に『錬金機将(アルケミスト)』の称号と魔軍長の任を与える」

「謹んでお受けいたします」


 銀色の改造生命体は深々と頭を下げる。

 ツクヨミの自我は、男性のパーソナリティを備えているそうだ。


「では、さっそく仕事だ」


 俺はツクヨミに言った。


「魔王城にいくつも損傷個所がある。その修復についてお前に相談したい」

「では、自分もその箇所を確認してもよろしいでありましょうか」

「もちろんだ。一緒に行こう」


 俺はツクヨミを促した。


 ちなみに、ステラには彼を呼んだ後、通常業務に戻ってもらっている。

 俺はツクヨミと二人で魔王城内を進み始めた。


「──そもそも根本的な質問なんだが」


 回廊を歩きながら、俺はツクヨミにたずねる。


「魔王城の機械的な仕掛けというのは、どういうものなんだ? 防衛機構だと聞いているが、前魔王からはその辺の引継ぎがあいまいでな……」


 前魔王ユリーシャから、魔王関連の情報はいろいろと聞いているが、その中で魔王城に関しては具体的なことをあまり聞かされていない。

 外敵を迎撃するための仕掛けがいくつもあり、それを起動するための呪文を授けてもらった。


 だけど実際にどういう装置なのか、については、彼女自身もよく知らないそうだ。

 歴代魔王で伝承しているうちに、その辺の情報がかなりあいまいになっているらしい。


「もともと、この城は始まりの魔王ヴェルファー様が建てられたものであります。その後、歴代の錬金機将が城内の様々な場所に、魔導的な仕掛けや機械的な装置を増設してきました」


 と、ツクヨミ。


「自分もイザナ様からその一部を聞いておりますが、すべてを把握しているとは申せません。ただ実際に見てみれば、おおよその見当はつくのであります」

「魔王城の仕掛けというのは、勇者との戦いでも有効だと思うか?」

「見てみなければなんとも……というか、自分も全部が全部引き継いでるわけじゃなし、なんでもかんでも聞かないでほしいであります。ちょっとは自分で調べてほしいというか、なんというか……はあ」

「ん?」


 今、急に愚痴っぽくなったぞ、こいつ。


「いえ、途中からは独り言であります」

「明らかに俺に聞こえるように言ってなかったか?」

「ぎくり」

「ぎくり?」

「いえ、気のせいであります」

「そうか。なら、いい」


 ……まあ、そういう性格なんだろう、と思っておく。

 今は性格面より、とにかく有能な配下が欲しい。


「じゃあ、さっきの質問に戻るが……お前にも正確には分からない、ということか?」

「はい。ただし、推測はできるのであります」

「聞かせてくれ」

「魔王城の仕掛けは、おそらく対勇者用ではなく──対天使や神のためのもの」

「神や天使……?」

「結界があるため、強い聖性を持つ者は魔界に入れません。ですが、いずれはその結界が完全に破壊され、神や天使クラスが侵攻してくることもあり得ます」


 と、ツクヨミ。


「そのための準備として、代々の錬金機将は準備を重ねてきたのではないか、と自分は考える次第であります」

「……なるほど」

「魔王城には強大な機能が備わっており、それを解放すれば、あるいは神にも対抗できるのかもしれません」


 ツクヨミが告げた。

 魔王城に眠る大きな力……か。


「……あくまで推測ですが。仮に外れていても、処罰とかはやめてほしいであります。というか、自分は責任なんて負わずに、もっと自由に生きたいのであります。なんで魔軍長なんかに任じられたんだか……はあ」


 これも独り言……なんだよな?

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