表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/193

2 九尾の狐

「私で妙な妄想をするのはやめろ、オリヴィエ」

「だめ……ですか?」


 抗議するステラに、オリヴィエはウルウルと瞳を潤ませた。

 狐耳も尻尾も力なく垂れている。


「百合は尊い……尊いんです……っ」


 涙を流し、力説する彼女。


「わ、分かった……いや、その趣味はよく分からんが、少なくともお前の妄想を咎めたり、制限したりはしない」


 ステラがたじろいだ。


「本当ですか」

「個人の嗜好だからな。制限する必要はないし、誰にもそんな権利はない」


 告げるステラ。


「その辺は好きにしてくれ」

「では、不詳オリヴィエ・キール、これからも妄想全開で過ごさせていただきます。やったー!」


 ボウッ!


 うれしそうに跳びはねた彼女の体から、青白い炎のようなオーラが立ち上った。

 ほとばしる魔力が衝撃波となって吹き荒れ、床に無数のヒビが入る。


「な、なんだ……!?」

「ひえっ、す、すげえ……!」


 周囲の魔族が驚き、どよめいた。


「っ……!」


 俺は息を飲んだ。


 並の魔王クラスすら凌ぐジュダは別格としても、すさまじい魔力である。

 さすがに次期魔軍長候補にリストアップされるだけはあった。


「これほどとは……!」


 隣でステラも驚きの声を上げている。


「……ステラ」

「はい、魔王様」

「オリヴィエの力、どう見る?」


 そっと耳打ちした。


「候補者リストには入れていましたが、魔力評価はB-程度でした。私が見誤っていたようです……申し訳ありません」


 謝るステラ。


「これなら少なくともA……あるいはA+か、それ以上の──」

「あ、私、普段はこんなに魔力を出せないですよ? 妄想で気持ちが高ぶったときだけです、こういうふうに魔力がほとばしるのは」


 オリヴィエがステラをジッと見つめる。

 その視線が妖しく潤んでいた。


「……邪神官(プリースト)の後任候補者として検討してもいいんじゃないか?」

「……そうですね。これほどの魔力があるなら」


 ささやいた俺に、ステラもうなずく。


「ふふ、聞こえてますよ~」


 ぴょこん、と狐耳を動かし、オリヴィエが笑った。


 しまった、こいつ耳がいいのか。

 じゃあ、たぶん最初から全部聞こえてたんだな。


「すまん」

「いえいえ~。あの、私が魔軍長になるということでしょうか?」

「あくまでも候補だ。簡単には決められないからな」


 俺は彼女に言った。


 とはいえ、今は強い戦力が欲しい。


 まず何よりも優先されるべきは、魔界全体の平和だ。

 オリヴィエなら、きっとその力になってくれるんじゃないだろうか。


 ……性格は少しアレな感じもするが。


「詳細は追って沙汰する。候補者は何名かいるからな」




 宴の翌日、俺はステラとともに邪神官(プリースト)の後任選定作業に入った。


 この役職に求められるのは、主に回復関連の能力だ。

 オリヴィエは九尾の狐の眷属では天才と呼ばれる逸材で、魔力の低さだけがネックだった。


 だが、昨日の宴で見た通り、妄想をトリガーにして魔力が大幅に上がるらしい。

 ステラの調査では分からなかった新たな事実だ。


 他の候補者も吟味した上で、結局オリヴィエを新たな邪神官(プリースト)として任命することにした。


 ──ということで、オリヴィエを執務室に呼び出す。


「正式な任命は後日になるが、お前には新たな『邪神官』の任についてもらいたい。オリヴィエ・キール」


 厳かに告げる俺。

 ちなみに、室内には俺とステラ、そしてオリヴィエだけだ。


「わ、私が魔軍長に……!」


 九尾の狐の少女は声を震わせた。


「お前の魔力は高い。十分にその任を務められるはずだ」

「わ、分かりました……魔王様」


 オリヴィエが恭しく頭を下げる。


 その拍子に、ぴょこぴょこと動く狐耳や尻尾。

 なんとも可愛らしい魔軍長だった。


「よろしくお願いします。精一杯がんばりますっ。あ、ステラ様には、今後とも百合妄想でお世話になりますね」

「ゆ、百合……!?」


 ステラが引いていた。


「魔軍長として一緒に働けるなら、妄想のネタには事欠きませんねっ」

「妖しい目で私を見るのはやめろ、オリヴィエ」

「ステラ様、照れてる……かわいい」

「照れてない。引いてるんだ」

「うふふふ」


 ……この二人、仲良くやっていけるんだろうか。


「と、とにかく、これからは同僚だ。私のことは様付けではなく呼び捨てでいい」


 と、ステラ。


「そんなぁ~。ステラ様はステラ様です」


 オリヴィエが瞳をウルウルさせて言った。


「ステラ様と呼ばせてくださいませ」

「対等の関係なのに、その呼び方は変だろう?」


 難色を示すステラ。


「下の者にも示しがつかない」

「うーん……じゃあ、お姉さまとお呼びしてもよろしいですか?」

「お、お姉さま!?」

「じゃなきゃ、ステラ様って呼びます」

「むむ……」

「私にだって譲れないものがあるのですっ……!」


 妙に力説するオリヴィエ。


「し、しかし、お姉さまか……うーん……」


 ステラが悩んでいる。


「ま、まあ、呼びやすいように呼べばいいんじゃないか?」


 俺が仲介した。


「こいつは自由にやらせたほうが力を発揮するタイプだろう。できるだけ何も制限しない状況にしたほうがいい」

「……魔王様がそうおっしゃるなら」


 うなずいたステラは、オリヴィエに向き直った。

 少しだけこわばった顔だったが、


「では、あらためて──ステラ・ディー・アーゼルヴァインだ。よろしく頼む、オリヴィエ魔軍長」

「こちらこそよろしくお願いしますね、お姉さま……じゅるり」


 ……いや、なんでヨダレ垂らしてるんだ、オリヴィエ?


    ※


 吹雪が吹き荒れる山中。

 その洞窟内に三つの影があった。


改造生命体(ホムンクルス)No253ツクヨミと申します。お目にかかれて光栄であります、獣帝(ギガントロア)様」


 ゼガートの足元に人影がかしずいている。


 銀でできた体は甲冑のようにも見えるが、そうではない。

 金属製の体──ツクヨミは魔導機械人形なのだ。

 その内部には、魔力路や歯車などの人工物が詰まっている。


(わし)もお前に会えたことを嬉しく思うぞ、ツクヨミ」


 ゼガートは鷹揚にうなずいた。


「ここにいるシグムンドとともに、働きを期待している」


 と、傍らにいる鳥の獣人魔族に視線を向ける。

 シグムンドは無言で恭しく頭を下げた。


「魔王城の調査はどうなっている?」


 と、ツクヨミに向き直るゼガート。


「自分の配下に探らせましたが、魔神眼(ヴィジョン)様に見つかり、自爆させました」

「ふん、ステラの『眼』はさすがにごまかせんか」


 ゼガートはうなった。


「制御室は厳重に守られていて、なかなか近づけません。ですが、周辺の機構部については調査を終えているのであります。魔王城に組みこまれた防衛機構や『あの力』についても推測やある程度の解析は可能かと」

「ほう」

「自分は前軍団長の『錬金機将(アルケミスト)』イザナ様から何度か聞かされていたのであります。無論──機密情報ですので、他にはもらしておりません」


 と、ツクヨミ。


「うむ、その情報は魔王にも伝える必要はない。儂にだけ教えよ」

「はっ」

「機は熟した」


 ゼガートはゆっくりと立ち上がった。


「儂が持っている魔王剣の欠片に、シグムンドが新たに回収した欠片と奇蹟兵装。そして魔界屈指であるお前の錬金術。これらがあれば、我が大願は成就するであろう」


 と、足元にかしずく機械人形と鳥の獣人魔族を見下ろす。


「では帰還と行こうか」

「了解であります」

「御意」

「まずは魔王フリードへの謁見だ。奴の器を見極めておくとしよう。そして、いずれ我が物になる玉座も──」

「100年後の未来から来たSSSランクの聖剣使い、敵も味方も低ランクすぎて無双してしまう。」という新連載を始めました。

よろしければこちらもお願いいたします(*´∀`*)

下のリンクから小説ページに飛べます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼カクヨムでの新作です! ★やフォローで応援いただけると嬉しいです~!▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。




▼書籍版1~3巻発売中です!

actefkba5lj1dhgeg8d7ijemih46_cnq_s1_151_p3li.jpg av1c16pwas4o9al660jjczl5gr7r_unu_rz_155_p11c.jpg rk21j0gl354hxs6el9s34yliemj_suu_c6_hs_2wdt.jpg

▼コミック1~4巻発売中です!

6q9g5gbmcmeym0ku9m648qf6eplv_drz_a7_ei_1dst.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ