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1 宴の安らぎ

1週間ぶりに更新再開です<(_ _)>

章の終わりまで2日置きに更新予定です。

 空に、いくつもの亀裂が走っていた。


「どうだ、ジュダ?」

「……結界にかなりの損傷があるね」


 光の王を倒し、ジュダやフェリアたちが戻ってきた後──。

 俺はジュダとともに魔界の結界を調査していた。


 光の王が繰り出した、魔界の地形を変えるほどの魔力攻撃は、結界にまでダメージを与えていたようだ。

 中空に走った真一文字の亀裂は、この付近だけで七つほどある。


 それらの向こうには、黒い闇がたゆたっていた。

 魔界を守る結界にヒビが入り、その向こう側の亜空間が見えているのだ。


 ──あと二ヶ月もすれば、勇者たちが結界を壊して攻めてくる。

 だが、結界が脆くなってしまった以上、それが早まる可能性もあるな。


「光の王の攻撃が直撃した付近の空間には、特に大きな亀裂が入ってるよ」


 と、説明するジュダ。


「あの攻撃は物理的な被害だけじゃなく、空間そのものにもダメージを与えるようだからね」

「とんでもない置き土産をしていったもんだ」


 俺は仮面の下でため息をついた。


 ちなみに、この仮面はステラが新たに作ってくれたものだ。

 前の仮面は光の王の自爆を抑えこんだ際に壊れてしまった。


 ローブもボロボロになったが、こっちは新調している暇がなかったので、とりあえずそのままで飛んできてしまった。


「とはいえ、慌てても仕方ないよ。どのみち、人間たちが攻めてくることに変わりない」

「大切なのは備えること、か」


 ここには重点的に警備兵を配置しておこう。

 指揮はリーガル辺りに任せるか。


「あまり一人で張り詰めないこと、かな」


 ジュダが微笑んだ。


「魔王や魔軍長が結束して伝説の天軍兵器を退けたんだ。祝勝の宴でも開いたらどう?」

「宴……か」


 今回の戦いでは、光の王の攻撃で犠牲者も出ていた。

 守れなかった悔いもある。


「犠牲者が出たのは痛ましいと思うよ」


 俺の内心を見透かしたように、ジュダが言った。


「それでも、前に向かっていかなきゃ、ね。また臣下が笑って過ごせるように──あるいは、鎮魂のために。一区切りとして宴を開くのは、悪くないんじゃないかな」

「一区切り、か」

「それに、臣下へのねぎらいや士気を鼓舞するのも王の務めだよ。賞罰は政の基本でしょ」

「なるほど……」

「私もずっと隠遁生活で質素な暮らしをしていたから、久しぶりに贅沢な食事をしてみたいし」

「……お前、散々もっともらしいことを言って、本当は美味いものを食べたいだけじゃないのか?」

「ふふ」


 仮面越しにジト目でにらむと、ジュダは肯定も否定もせず微笑んだだけだった。


「まあ、一理はある……か」


 俺は苦笑交じりにつぶやいた。




 翌日の夜、天想覇王を撃退した祝勝の宴を開いた。

 例によって、手配はステラが全部やってくれた。

 あいかわらず有能だ。


 で、魔軍長たち幹部クラスから城の兵や文官たちまでを集めて、盛大な宴が始まった。


「ささ、ぐーっと」


 警備隊長のリリムが俺に酒を注いでくれた。


「ありがとう。リリムもステラたちと連携してよくやってくれた」

「あたしは今回、裏方メインでしたから~」

「いや裏方も重要な仕事だ。お前には、兵たちの指揮のサポートから住民の避難誘導、負傷者への対応など色々と助けてもらった」


 ステラが真面目な顔で彼女を見つめる。


「私からも礼を言う」


 と、リリムに酒を注ぐステラ。


「えへへ、照れますねー。あ、ステラ様かんぱーい」

「乾杯」


 互いに酒を飲み干す二人。


「あ、ステラ様、いい飲みっぷり」

「勝利の後の美酒は心地がいい」

「おいしいですよねー」


 和気あいあいとした彼女たちの様子が微笑ましい。


 戦いのことで、みんな思うところはあるだろう。

 でも、宴は宴で楽しんでいるみたいだ。


 前へ進むために、か。

 ジュダの言葉を思い出す。


「ふふ、思索に耽る魔王様も素敵ね」


 フェリアが妖しい(しな)を作りながら、すり寄ってきた。


「魔王様。あたしのお酒も飲んでくださらない?」


 今度は彼女が俺に酒を注ぐ。

 それから俺の耳元に息を吹きかけながら、


「二人だけじゃなくて、あたしも侍らせてね。なんならこの後、ベッドの中でも──」

「むむ、何をナチュラルに誘惑しているんだ、フェリア」


 ステラがこっちを向いた。


「もう、怒らないでよ。ヤキモチ焼きねぇ」

「だだだだだ誰がヤキモチかっ」


 顔を赤くして抗議するステラ。


「やっぱりステラ様、魔王様のことを……そういえば、戦いの後で魔王様と抱き合ってませんでした?」


 リリムがニヤニヤと笑う。


「な、なななななな何を言うっ!? あれは、その、えっ……み、見られてたのかっ」


 ステラは顔が真っ赤だった。

 まあ、あれは抱き合ったというか、仮面が割れて素顔が露出した俺を他の魔族から隠そうとしてくれていたんだろう。


「初心ねぇ」


 フェリアが楽しげに目を細めた。


「でも積極的なアプローチは悪くないと思うわよ。ステラも永遠の処女からついに踏み出すときが──」

「し、処女で何が悪いかっ」

「お嬢様、結婚前の娘が少しふしだらではありませんか」


 侍女のイレーネが歩み寄り、ステラの側で苦笑した。

 彼女はステラが魔軍長になる前からその侍女を務めており、二人の親交は深い。


「イレーネ、魔軍長と呼べ」

「宴の席ですし、いいじゃありませんか。魔王様もそんなことを咎めだてしませんよ」

「これは節度の問題だ」

「お堅いですねぇ」


 イレーネが微笑む。

 女魔族が集まると、なんともかしましい。


「俺は、ちょっと他も回ってくるよ」


 俺は彼女たちに断り、場を離れた。


 王として、臣下たちを一通りねぎらっておこう。

 いや、その場に構えて臣下たちが挨拶してくるのを待った方がいいんだろうか?


 まあ、魔界の宴はあまり堅苦しい雰囲気がないし、流れに任せる感じでいいだろう。


「……そういえば、ジュダやリーガルはどうしてるんだ?」


 周囲を見回す。

 ジュダは離れた場所にいるのか見当たらず、リーガルは端の席でちびちびと飲んでいた。


 ……アンデッドって酒を飲めるんだろうか?

 素朴な疑問が湧く。


 というか、あいつは俺が留守の間に踏ん張ってくれたからな。

 あらためて礼を言っておかないと。


 と、リーガルの元へ歩み寄ろうとしたところで、


「きゃあっ……!?」


 飛び出してきた誰かとぶつかってしまった。

 俺の前で倒れたのは、小柄な女の子だ。


「ま、魔王様、申し訳ありません」

「いや、俺はいい。大丈夫だったか?」

「はいいぃ、私は平気ですぅ」


 緊張しているのか、声がうわずっていた。


 どうやら獣人系の魔族らしい。

 金色の髪に赤い瞳、とんがった狐耳が可愛らしい顔立ちによく似合っていた。

 腰から伸びる九本の尻尾がぴょこぴょこと跳ねて、これも可愛らしい。


「ああ、私ったらなんてことを……処罰されてしまうのかしら……もしかして、あんなことやこんなことまでされて、口に出せないような行為でいたぶられたりしちゃうのかしら……あわわわ」


 何やらブツブツとつぶやきながら立ち上がる少女。


「どうかしましたか、魔王様」


 ステラが近づいてきた。


「オリヴィエじゃないか」


 と、狐娘に視線をやる。


「知っているのか?」

「はい、彼女はオリヴィエ・キール。獣人系魔族『九尾の狐』の眷属です」


 俺の問いに答えるステラ。


「あ、自己紹介もせずに申し訳ありません、魔王様っ。妄想するのに忙しくて、つい」


 彼女──オリヴィエがかしこまる。

 なんだ、妄想って?


「オリヴィエ・キールです。以後お見知りおきをっ」

「フリードだ。よろしく頼む」

「『九尾の狐』は攻守両面の魔法に優れた一族ですが、彼女は特に防御や回復の力に優れています。一族では天才と呼ばれているとか」


 ステラが説明してくれた。

 そういえば聞き覚えがあるな。


「思い出した。邪神官(プリースト)の後任候補者の一覧で見た覚えがある」

「ええ、私が候補者にリストアップしておきました。邪神官(プリースト)は守りと癒しを主任務とする魔軍を統括する役目。彼女のような優れた癒し手は有用です」


 と、ステラ。


「ただ、性格面に少々問題が──」


「あ、候補者に入れてくださっていたんですね、ステラ様ぁ」


 オリヴィエがぽわんとした目で彼女を見ていた。


「光栄です──ステラ様にはずっと以前から憧れていました」

「そうか」

「クールで美しいお顔も、しなやかでスタイルのよいお体も、素敵です。憧れます。妄想がはかどりますっ」

「……そ、そうか」


 引き気味のステラ。

 怜悧な美貌が少しこわばっているように見える。


「あ、ちなみに警備隊長のリリム様や夢魔姫(デッドチャーム)フェリア様にも憧れているんですよ。趣味で御三方の絵を描いたりして……あ、中でも自信作はステラ様とリリム様が一糸まとわぬ姿で妖しく戯れている図で」

「待て。何を描いたんだ、お前は」

「私としてはステラ様×リリム様推しなんですけど、逆も悪くないですよね。あ、でもフェリア様×ステラ様なんかもそそると思うんです。真面目な美少女に迫る妖しい美女……無垢だった彼女はやがて淫らな悦びを」

「待て待て待て待てっ」


 ステラの顔がさらにこわばった。

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