12 天地揺るがす決戦
「ベル……?」
異空間で炎の王を、外に出た風の王を──続けざまに倒した俺の前に、黒い巨竜が現れた。
魔王城に待機させていたベル──冥帝竜だ。
なぜ、ここに来たんだ?
まさか──。
嫌な予感が走る。
「大変だよ、フリード様」
その予感を裏付けるようにベルが言った。
「天想覇王が魔王城に現れたんだ」
「最後の一体か?」
「ううん、合体した」
と、ベル。
「合体?」
「えっとね、なんか三体が合体してカッコいい感じの兵器になったんだよ」
なぜか目を輝かせているベル。
「いやー、合体変形ってロマンだよね」
何言ってるんだ、こいつ。
──ベルの話によると、どうやら炎の王と風の王の破片が魔王城に現れ、すでに襲来していた水の王と合体。
光の王という新たな形態になったらしい。
その戦闘力は、単体時よりもはるかに高く、ステラやリーガルが苦戦しているんだとか。
で、ベルは俺を救援に呼ぶために、ここまで飛んできたということだ。
煌っ!
そのとき、周囲を閃光が照らし出した。
「これは──!?」
直後、大地が激しく揺れる。
まさか、光の王とやらの攻撃の余波か。
魔王城から遠く離れた、こんな場所にまで届くとは。
確かに、尋常じゃない相手のようだ。
「俺はベルに乗って魔王城に戻る。お前たちから後から来てくれ」
と、ジュダやフェリアに指示を出した。
「ただし十分に警戒して、な」
光の王の戦闘能力がどの程度なのか、正確には分からない。
特にジュダは風の王との戦いで傷を負っているだけに、無理をさせたくはなかった。
他の魔族たちも、うかつに近づかせたら巻き添えが心配だ。
「──光の王は、強いよ」
ジュダが告げた。
「何せ、かつての魔王ヴェルファーを倒した兵器だからね」
「何?」
「私も、その姿を見たのは一度だけ。ヴェルファーと相討ちに近い形になり、撤退していった。だけど、もしあの力が存分に振るわれたら──」
ジュダの表情は険しかった。
「魔界は、壊滅する」
「──分かった。行くぞ、ベル」
どうやら一刻の猶予もなさそうだ。
「りょーかい」
黒い竜にまたがると、俺は一路、魔王城を目指した。
到着したとたん、リーガルが危機に陥っていた。
俺はとっさに魔力弾を放ち、巨大な白い騎士──『光の王』の斬撃波を防ぐ。
「よく耐えたな、リーガル。待たせて悪かった」
ベルから降りた俺は、リーガルに声をかけた。
「魔王……様……」
「後は任せろ。ステラたちも下がっていてくれ」
満身創痍のリーガルや、魔族兵を指揮しているステラに告げて、俺は前に進み出た。
「その紋章は魔王か」
光の王が俺を見下ろす。
「ちょうどいい。この場で消し去ってやる」
まさしく、巨人だ。
その全身から吹きつける威圧感は、物理的な風圧さえ伴い、俺に叩きつけられる。
俺は軽く魔力障壁を張り、その風圧を受け流した。
「まずは──どれほどの力を持っているか、見極めてくれよう」
光の王の眼光が鋭くなる。
俺のステータスを計っているんだろうか。
「これは……!?」
と、その声にわずかな狼狽が混じった。
「総合レベル4800、MP93000……!? あの魔王ヴェルファーすら、はるかに上回っているだと……!」
光の王の声が震えた。
「ありえない、こんな能力値は……因果律の誤変動でも起きているのか……!?」
よく分からないことをつぶやく光の王。
「どうした? 威勢がなくなったな」
俺は一歩踏み出した。
「……我は神の兵器。魔王を滅するために生み出された存在。たとえ相手がどれだけ強大であろうと、これを討つ」
大剣を構える光の王。
「これ以上、魔族を殺させないし、魔界を壊させない」
俺は巨大な白騎士を見据えた。
「お前は俺が破壊する」
「やれるものなら、やってみろ……!」
言うなり、光の王の体が鳴動した。
甲冑に覆われた全身から無数の光球が飛び出した。
「『ホーミングレイ』」
俺はすかさず魔力弾を数百単位で放った。
追尾能力を持った魔力弾が、光の王の光球を片っ端から迎撃する。
空中に爆光の花が咲いた。
もうもうたる黒煙を切り裂き、光の王が突っこんでくる。
振り下ろされる大剣を、俺は魔力障壁で真っ向から受け止めた。
ばぐんっ!
強大なエネルギーが衝突した余波で、足元の大地が大きく裂ける。
「さすがに攻撃力は高いみたいだな……」
俺自身はノーダメージでも、周囲に影響が及びそうだ。
「だったら──『ラグナバスター』!」
俺が放った魔力砲は漆黒の軌跡を描き、光の王の胴体部に命中する。
その勢いで、奴の巨体が浮き上がり、一気に数百メートル上空まで吹き飛ばした。
「追うぞ、ベル!」
「りょーかいっ」
俺は冥帝竜に乗って、それを追いかける。
空中戦に持ちこめば、少しは魔界への被害も減らせるだろう。
「いくぞ──」
翼を羽ばたかせ、上空で体勢を立て直した光の王に向かって、右手を突き出す俺。
「『メガファイア』!」
三割ほどの出力で、最上級火炎魔法を放った。
空中とはいえ、十割の力で撃つとどれだけの影響が出るか分からない。
半ば牽制、半ば小手調べだ。
「ぬん!」
光の王は大剣を振り回し、火炎を切り裂いた。
「『メガウォーター』!」
今度は五割ほど。
「ぐっ、これが魔王の魔法……ううううううっ……!」
それでも、光の王は剣で防いでしまう。
弾け散った衝撃が四方に広がり、大気を激しく震わせた。
「フリードさま、下を見て」
と、ベル。
見下ろせば、衝撃波だけで大地にいくつも亀裂が走っている。
「これくらいの出力でも周囲を壊してしまうのか……」
巨大すぎる力っていうのも、厄介なもんだ。
「ふん、ステータスが高い割には、その程度か」
光の王がうそぶいた。
「確かにお前は強い。だがなんとか凌げそうだ。長期戦に持ちこめば、お前とて疲労するはず……我にも勝機はある」
「勝機なんて与えない。俺は、お前みたいに見境なく環境破壊したくないだけだ」
「くだらん。魔王ともあろう者が、周囲への配慮とは」
……こいつのほうが、悪役みたいな台詞だな。
「なら、受けてみるか?」
俺は右手を掲げた。
大気が、震える。
魔界そのものが鳴動する。
俺の魔力に呼応し、あるいは恐怖するように。
「俺の、全力を──」
集中する。
全身の魔力を爆発的に高め、それを右手に集めるイメージ。
破壊。
爆裂。
収束。
漆黒の剣。
俺の──魔王だけの、最強の剣。
「『収斂型・虚空の斬撃』」
静かに告げた俺の手に、黒紫色に輝く魔力の剣が出現した。
よし、さっきの異空間でやったときはぶっつけ本番だったけど、どうやら上手くコントロールできるみたいだ。
破壊力が高すぎて、普段は抑えているメガ系魔法の全開破壊力──それを剣のサイズにまで圧縮した、俺の新たな術式。
「こ、この術は……っ!?」
「俺は魔界を壊したくない。壊させない。だから、この場で──」
魔力剣を上段に構え、俺は告げた。
「お前だけを解体する」








