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9 虚空の斬撃

「『ファイア』!」


 俺が放った豆粒ほどの火球は、はるかかなたまで飛んでいった。


 しばらくして、小さな閃光が弾ける。


 かなり遅れて爆音が響いた。

 数十キロか、数百キロ……あるいは数千キロ先まで飛んで、そこで爆発した感じだ。


「一体どれくらいの広さがあるんだ、この空間……」


 軽く眉を寄せる俺。


 壁のようなもので区切られた場所なら、それを破壊して簡単に脱出できる。

 だが、ただひたすらに広大なこの空間から脱出するには、どうすればいいのか?


「最大出力でメガ系魔法を撃ってみるか」


 以前にも魔法の訓練で『メガファイア』を使ったときに、空間自体が破壊されたのを見たことがある。

 同じ要領でやれば、この空間を壊して脱出できるんじゃないだろうか。

 ただし──。


「威力が大きすぎるのがな……」


 外の世界にまで破壊の影響が及ばないとも限らない。


 いや、待てよ。

 手持ちの魔法でもう一つ、手立てがある。


「──やってみるか、あれ」


 先日のジュダとの訓練で会得した、魔の斬撃。


 ゴォ……………………ンッ!


 そのとき、遠くから衝撃音が聞こえてきた。


「ジュダやフェリアが戦っているのか……?」


 二人とも強大な力を持った魔族だ。

 並の相手なら歯牙にもかけないだろう。


 だが、相手は最強と謳われる神の兵器。

 苦戦しているかもしれないし、追い詰められているかもしれない。


「俺も、早く行かないと」


 右手を突き出した。


「──イメージだ」


 自身に、言い聞かせる。


 ジュダとの訓練で編み出した、あの技を。


 もっと鮮明に。

 もっと克明に。


 炎のような魔力の熱が全身に灯った。

 それを右手に収束させていくイメージ。


 思い浮かべたのは、剣。


 防ぐことは(あた)わず、

 阻むことは叶わず。


 すべてを断ち切る、魔剣。


 その名は──。




「『収斂型・虚空の斬撃(ヴァニティブレード)』」




 俺の右手に、魔力で作られた剣が生まれた。


 真紅の稲妻をまとった、黒紫に輝く剣。

 色合いは違うが、勇者だったころの主力武器として使っていた奇蹟兵装『グラム』によく似た形状だ。


 次の瞬間、眼前に黒紫の線が出現した。


 俺が振るった一閃の、軌跡──。


 次の瞬間、異空間は両断され、俺は元の場所への帰還を果たす。


「魔王くん……!?」


 すぐそばに、驚いた顔のジュダがいた。

 交戦中だったらしく、全身から血を流している。


「大丈夫か、ジュダ」

「ちょっと怪我しちゃったよ」


 苦笑するジュダ。


「……いや、ちょっとどころじゃない負傷に見えるが」


 上空には、翡翠色の怪鳥の姿があった。

 六枚の翼を羽ばたかせ、俺たちを見下ろしている。


「あれも天想覇王(ディヴァインギア)か?」

「『風の王』だね」


 俺の問いに答えるジュダ。


「お前は休んでいろ。交代だ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 微笑み、後退するジュダ。


「……ジュダ」


 その背中に俺は声をかけた。


「ん?」

「よく耐えた」


 俺は気づいた。


 ジュダの後方にフェリアや魔族たちがいることを。

 おそらくだが、彼女たちをかばってこいつは大きな傷を負ったんじゃないだろうか。


「よくみんなを守ってくれた。礼を言う」

「……いちおう魔軍長だしね、今の私は」


 背中を向けたまま、ジュダがつぶやく。


 こっちからその表情は見えない。

 だけど、ジュダが微笑んでいるのが見える気がした。


「後は任せろ」


 ここからは俺が彼らに報いる番だ。


 魔族を束ねる王として──。




 俺は飛翔魔法で飛び上がり、翡翠色の巨鳥と対峙した。

 ジュダほど飛翔魔法に長けていないため、足場がぐらぐらする。


 とはいえ、地上で戦うと、他の魔族たちが巻き添えを食う可能性がある。

 不得手でも空中戦を挑んだ方がいいだろう。


「汝が二番手か、魔王」

「二番手じゃない」


 風の王を見据える俺。


「俺で最後だ。お前はここで破壊する」

「確かに汝の魔力は強大。だが異空間を脱出するために、相応の魔力を消耗したようだな」


 風の王がうなる。


「今ならば、我にも勝機がある。食らえ──」


 緑色に輝く竜巻が出現した。

 おそらくは、『メガウィンド』級の風属性魔法か。


 それが、同時に二十。

 前後左右上下からいっせいに迫ってくる。


「逃げ場はないぞ、魔王!」


 風の王が勝ち誇った。


「逃げる? 必要は、ない」


 迫りくる風魔法のすべてが──一瞬で消滅した。


「な、何っ……!?」


 呆然とした声をもらす風の王。


 俺の手には、黒紫に輝く魔力の剣があった。

 六つの竜巻をすべて斬り散らした、剣が。


「おかげでいい練習台になった」


 告げて、その剣──『収斂型・虚空の斬撃(ヴァニティブレード)』を振りかぶる。


 一閃。


 黒い軌跡が一直線に走った。

 軌道上の空間が裂け、真紅の稲妻が弾ける。


「がっ……!?」


 奴にできたのは、わずかな苦鳴とも悲鳴ともつかない声をもらすことのみ。


 次の瞬間、音もなく、手ごたえすらもなく。

 最強と謳われる神の兵器は、俺が振り下ろした魔力剣によって両断された──。




 俺は地上に降り立ち、ジュダの元に歩み寄った。

 紫色の衣はあちこち裂け、血がにじんでいる。


「怪我はどうだ、ジュダ?」

「回復魔法をかけてるけど、すぐには治らないね」


 と、ジュダ。


「魔族が聖属性の攻撃を受けると、治りが遅くなるんだ」

「そうなのか」

「いちおう言っておくけど、君もだからね。天軍や勇者軍との戦いでは、回復魔法はそれほどの効果を発揮しない」


 ジュダが告げる。


「君の攻撃能力は絶大だけど、油断は禁物だ。大きな怪我をすれば簡単には治らない」

「肝に銘じておく」

「──ああ、次の敵と戦うときも気を付けたほうがいい」


 と、ジュダ。


「次の敵?」

「魔王城に、強い魔力を感じる。天想覇王の最後の一体──水の王だろうね。この気配は、おそらくアンデッドの彼と交戦しているんじゃないかな」

「リーガルが?」

「魔王くんの留守中に城を攻める──陽動を兼ねていたみたいだね」


 ジュダがつぶやいた。


「あるいは、城の地下にある『アレ』が狙いか。だとすれば、三体があの形態を使う可能性も……」


 ん、どういう意味だ?

 いや、質問は後だ。


「戻るぞ」


 俺は全員に呼びかけた。


 魔王城にはステラやリーガルを残してあるし、ベルもいる。

 とはいえ、天想覇王は強敵だ。


 早く戻って、加勢しないと──。

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挿絵(By みてみん)

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