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6 いつか、極限に至る者

 俺の眼前で、魔族と神や人間たちとの戦いは続いていた。


「『メガサンダー』! 『ギルティバースト』! 『ラグナエンド』!」


 ヴェルファーは次々と最上級の呪文を放ち、勇者軍を消し飛ばしていく。


「くうっ、なんて力……!」

「さすがは魔族の王……!」


 四人の天使すらもその力に大きく後退した。


 強い。

 俺が以前に夢幻の世界で戦った過去の魔王たちと比べても、さらにワンランク上だ。


 さらに他の魔族たちも奮闘する。


 竜族のドラゴンブレスが、アンデッドたちの放つ瘴気が、戦士や魔法使い系の魔族が繰り出す攻撃が──。

 各魔軍が、天軍と勇者の連合軍をじりじりと押しこんでいく。


 その中には、ジュダの姿もあった。

 魔王と同じく最上級の魔法を連発する。


 こいつも、強い──。


「強すぎますね、少し」

「ならば弱ってもらいましょうか」


 天使たちは顔を見合わせた。


「神よ、我らが敵に罰を与えたまえ」


 次の瞬間、閃光が辺りを覆った。


 なんだ──!?


 訝る俺の前で、魔族たちが次々と倒れていく。

 先ほどまで優勢だった戦いは、あっという間に逆転した。

 天軍と勇者たちの攻撃が、今度は魔族たちを蹴散らしていくのだ。


「弱体化の呪いか! おのれぇぇぇっ……!」


 ヴェルファーがうめいた。


「神よ、我らにさらなる力を授けたまえ」

「魔を滅する聖なる兵器──『天想覇王(ディヴァインギア)』よ」

「すべての魔を駆逐せよ」

「すべての邪悪を祓うのだ」


 天使たちの呪言とともに、天空から三つの巨大な影が降り立つ。

 全長三十メートルはあろうかという巨人たち。


「燃やせ、『炎の王』」

「吹き飛ばせ、『風の王』」

「飲みこめ、『水の王』」


 天使たちが命じた。


「自律型の奇蹟兵装……!?」


 いや、それにしてもこれは。

 まるで、世界そのものを押し潰すような──すさまじいまでの威圧感だった。


 以前に俺が掃討した自律型の奇蹟兵装とは比べ物にならない。

 三体の巨人は咆哮を上げて、残る魔族たちを消し飛ばしていく。


 それは、もはや戦闘ではない。


 虐殺だった。


「やめろ……魔族たちを、俺の臣下を──」


 ヴェルファーが血の涙を流し、うめいた。


「邪悪なる者は等しく討ち果たす」

「貴様らに生きる価値などない」

「死ね」

「消えろ」

「滅びよ」


 巨人たちは、そして天軍と勇者軍は、まったく手を緩めない。


 悲鳴を上げる魔族を。

 逃げ惑う魔族を。

 恐怖する魔族を。

 絶望する魔族を。


 次々と──殺していく。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 俺は耐えきれずに叫んだ。


「──無駄だよ。これは私の夢」


 ジュダが静かにつぶやいた。


「すでに起きてしまった出来事。変えられない過去だ」

「くそっ──」


 分かっていても、目の前の殺戮劇には耐えられなかった。


「もうやめろ!」


 巨人たちや天軍、勇者軍に向かって『メガファイア』を放つ。


 紅蓮の炎が、世界を染めた。


「はあ、はあ、はあ……!」


 これは夢の中の出来事だと分かっていても、撃たずにはいられなかった。


「……すさまじいね」


 ジュダがつぶやいた。


「私は魔導のすべてを極めたつもりだったけど、これほどの魔力はさすがにないよ。あるいは君こそが、いずれ魔導の極限に至る者かもしれない──」

「魔族はこの戦いで弱体化の呪いを受けたんだな。そして敗北した……」


 はあ、はあ、と全力の魔法を放って荒くなった息を整える俺。


「ああ、私たちはかろうじて魔界に逃げこんだんだ」


 ジュダがふうっと深いため息をつく。


「私は友を──ヴェルファーを守れなかった。そして仲間も……何一つ」

「ジュダ……」

「魔族はもはや天軍に対抗するほどの力はない。魔界に身をひそめ、神々におびえるだけの哀れな存在に成り下がったのさ。神の気まぐれによって、いつ滅ぼされるかもわからない世界──」


 自嘲気味につぶやくジュダ。


「だから私も……残りの生は、こうしてグータラ過ごすことにした」

「諦めた、ってことか」

「そうだね。実現不可能な理想を追っても仕方ない。魔界が、いつか神の脅威から解放される……なんて」


 景色が、切り替わる。


 小さな工房だった。


 銀髪に褐色の肌の少年が、何かを作っている。

 無数の魔導具のようだ。


 まるでおもちゃで遊ぶような無邪気な笑顔で。

 ジュダはひたすら魔導具ばかりを作っていた。


 時折、魔王らしき魔族が訪ねてくるが、彼はすげなく追い返す。

 そしてまた魔導具作りに没頭する。


 遊ぶように。

 楽しむように。


 これが、本人の言う『グータラな生活』か。

 だけど──、


「違うな」

「えっ」

「諦めたっていうのは、嘘だろ」


 俺はジュダを見つめた。


 だって、こいつの目は笑っていない。

 無邪気な笑顔のままで──。


 ジュダの、心の慟哭が伝わってくる気がしたんだ。

 こいつの本心が伝わってくる気がしたんだ。


「本当はきっかけを求めてるんじゃないのか? だからここで魔導の研究を続けている。いつか、それを役立てる日が来ることを願って。魔界が、神々の脅威から解き放たれる日が来ることを願って」

「……!」


 ジュダの表情がわずかに変わる。


 俺は自分の言葉が核心をついていることを悟った。


「この夢だって、本当は……俺にわざと見せたんだろう。そのきっかけが欲しくて」

「君は、魔界を解放できる器だと?」

「その力を、求めている」


 仮面を外し、もう一度ジュダを見つめる。

 人間だったころと同じ素顔をさらし、まっすぐに見つめる。


「その力を、貸してほしい」


 沈黙が流れた。


 ジュダは即答はしない。


 首肯はしない。

 だけど、拒絶もしない。


 俺は、奴の返答を待った。


 奴の答えは、もう決まっている気がした。


「──君の魔力なら、あるいは」


 ジュダがつぶやく。

 深いため息をついて。


「弱体化された魔族の解放と、神の脅威の撃退と──その二つを成し遂げられるかもしれない」

「俺が、じゃない」


 首を左右に振る俺。


「俺たちが、だ。もっと多くの強者を集めて、この世界に平和をもたらす」


 俺はジュダにニヤリと笑った。


「してみせる──」




「へえ、こいつがジュダ? 優男すぎてあたしの好みじゃないなー」


 魔王城に戻り、魔軍長のフェリアと引き合わせたところで、彼女の反応がこれだった。

 興味がなさそうな顔をしている。


 ちなみにリーガルは獣帝ゼガートを探しに人間界まで出向いているため、留守だ。

 あいつとジュダは気が合うだろうか?


 合わなさそうだな……うーん。


「今日から仲間だね。よろしく頼むよ。あ、仕事のやる気はあんまりないからフォローよろしくね」


 ジュダの返事は緩い。


「あらためて紹介する。新たな魔軍長──『極魔導(マスター)』ジュダ・ルギスだ」

「ともに力を合わせ、魔界のために働いてほしい」

「まあ、最低限のことはやるよ」


 ジュダがうなずき、フェリアが艶然と微笑む。


「あたしも。ちゃんと魔王様が守ってくれるなら、やれることはなんでもやるわよ。何だったら魔王様の夜伽だって──」

「おい、フェリア」


 ステラがフェリアをにらんだ。


「冗談だってば、ステラ。ヤキモチ焼きなんだから」

「わ、私はヤキモチなど焼いていないっ。ただ魔王様に対して軽々しい真似をするな、と」

「恋する乙女だねー」

「違うと言っているだろう……私は、だから、その……」


 顔を赤らめ、ちらちらと俺を見るステラ。


 ん、どうした?




「じゃあジュダは、前任の引き継ぎに行ってくれ。ヅィラームが従えていた魔法使い系の魔族たちを、これからはお前が率いるんだ」


 ──顔合わせを終え、ステラやフェリアがそれぞれの仕事に戻った後、俺はジュダにそう命じた。


「りょーかい」


 ジュダは軽い口調で言って、去っていく。

 それから、いくらも経たないうちに戻ってきた。


「ん、どうした?」

「引き継ぎなら終わったよ。ついでに部下たちの再編成もしてきた」

「……まだ三十分も経っていないが」

「一目見れば、全員の素質はだいたい分かるさ。上位の役職が案外無能だね。前任のヅィラームは魔導研究には長けていたけど、魔族を見る目はイマイチだったみたい」


 笑顔のまま、こともなげに告げるジュダ。


「代わりに、下位の役職でなかなか面白そうな才能を持った魔族を何人か見つけたから、抜擢しておいたよ。新しい役職表はあとで整理して君に渡すね」

「お、おう……」


 グータラな割に仕事は早いな、こいつ……。


「それで──ちょっと時間はいいかな、魔王くん」


 と、ジュダ。


「私に付き合ってほしいんだけど」

「付き合う?」

「せっかくそれだけの魔力を持っているのに、君は使い方をちゃんと身に付けていないでしょ。少し鍛えて上げようと思ってね」


 ジュダが笑った。


「私が教えてあげるよ。魔導の真髄を」

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