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12 黒の奇蹟兵装

「これは──!?」


 ルドミラは驚きの声を上げた。


 奇蹟兵装『ラファエル』の形が変わっている。


 X字型の弓が、星のような形へと。

 色合いも翡翠色から光沢のある漆黒に変わり、各部に黄金の装飾がなされていた。


「へえ、混沌形態(カオスフォーム)ですか」


 ルージュがそれを見て微笑んだ。


「思ったよりも早い移行ですね~。なかなかの素質です」

「カオス……フォーム?」

「ふふ、今ならもっと強い力を出せますよ」

「──試してみます」


 ルドミラは黒い弓を構えた。

 触手群に囲まれたフィオーレを見つめる。


「うう……くあ、あぁぁ……っ」


 苦悶に顔を歪めるフィオーレ。

 精神汚染が進む前に救いださなければならない──。


「あたしに力を貸して、『ラファエル』」


 ルドミラは大きく弦を引き絞った。


「すべてを滅ぼし、殺す力を──」


 そして、放つ。




弐式・最大装(アクセル・サウ)弾精密連射(ザンドアロー)!」




 気合いの声とともに、放たれた矢は2000に分裂した。


 一瞬──だった。

 すべての触手は瞬時にして射抜かれ、消滅する。


「ほら、できたじゃないですか」


 ルージュが微笑む。


「これは──」


 ルドミラは矢を放った体勢のまま、驚く。


 今までの最大装弾数をはるかに超えている。

 しかも、おそらく先ほどの2000本が限界というわけではなさそうだ。


 慣れれば、さらに上の──。


「あなたの心の力を引き出すトリガーを自覚しなさい」


 ルージュがルドミラの元に歩み寄る。


「トリガー……?」

「あなたの根源は『憎悪』」


 天使の少女の瞳がすうっと細まった。


「かつて、故郷を滅ぼした魔族に立ち向かったときに芽生えた激しい怒りと憎しみ──それがあなたの戦う理由の根幹でしょう?」


 ルドミラの過去を見ることができるのか、強烈な眼光が彼女を捉えている。


「あなたにとっての出発点。それを忘れないで。なんのために魔族と戦ってきたのか。なんのために魔族と戦っていくのか」

「あたしの……戦う理由、ですか」


 ルドミラはひとりごちた。


「騙すような真似をしてごめんなさい」


 ルージュは深々と頭を下げる。


「奇蹟兵装を操るのは心の力。精神的にぎりぎりまで追いこむことで、あなたの成長を促そうとしたのですが──嫌なやり方でしたね」

「……いえ、おかげで力を身に付けることができました」


 ルドミラは天使の少女に一礼した。


「感謝します、ルージュ様」

「そう? やっぱり、わたしのやり方でよかったですかね?」


 たちまち笑顔に戻るルージュ。


「有能コーチじゃない、わたしって。うん、偉い偉い」

「……いえ、ちょっとは反省もしてほしいんですが」


 コロッと態度を変えた少女に、ルドミラは少し憮然とした。


「あ、いちおう言っておくと、触手の精神汚染攻撃は命に別状があるようなものじゃないんですよ。あなたが真の力を引き出せるように、危険な攻撃だと誤認させただけ」


 その言葉通り、フィオーレは「んー」と伸びをしている。

 どうやら体にも心にも別条はなさそうだった。


「ですが、まだ『半分』といったところでしょうか」


 つぶやくルージュ。


「半分……?」

「じゃあ、次はフィオーレさんですね。さあ、サクサクいっちゃいましょうか~」


 無邪気とさえいえる笑顔で、神の使徒たる少女がフィオーレに呼びかけた。




 冷やりとした外気に温泉の熱気が気持ちよかった。


「お風呂まであるなんて……」


 岩でできた湯船を見て、ルドミラは驚きのつぶやきをもらす。


 訓練から数時間、ルージュに案内された場所は、天然の露天風呂だった。

 異空間にこんな場所があるとは驚きだ。


「えへへ、やっぱりトレーニングの後は、ゆっくりお風呂に入ってきもちよくなりたいですからね。特別に作ったんです~」


 と、ルージュ。


「人間の世界の『温泉』というのを再現してみました。確かこういうの、露天風呂って言うんですよね?」


 ぱちん、と指を鳴らす。

 白い空間の上部に、美しい星空が現れた。


「雰囲気作りもしてみました。絶景ですよね」


 ぐっ、と親指を立てて、得意げに告げるルージュ。


「さ、入りましょ」


 三人は服を脱ぎ、温泉に浸かった。


「ふう、気持いいですわね」


 フィオーレが満足げな顔で息をついた。


 着やせするタイプらしく、豊かな胸がたわわに揺れている。

 ミルク色の美しい肌は、同性であるルドミラも思わず見とれるほど艶めいていた。


「人間の世界にはこんな温泉がいくつもあるんでしょ? いいな~、わたしも行ってみたいです」


 ルージュが微笑む。


「神様からの許可が下りたら、人間の世界に行ってみたいです。今度案内してくださいね」

「あたしたちでよければ」

「ええ、三人で町を回りましょう」


 ルドミラとフィオーレがうなずく。


「やったー! 約束ですよっ」


 ルージュが無邪気にはしゃいだ。


「あ、でも、神様は戒律に厳しいんですよね。わたしたち、よほどの理由がないと下界に降りられないし」

「そうなんですか?」

「そ。『神託の間』以外じゃ、人間と接触することもできないんですよ」


 と、ルージュ。


「あの……一つ、聞いてもいいですか?」


 ルドミラが切り出した。


「どうぞ~」

「なぜ、神はあたしたちに段階的な力の授与を?」

「ん?」


 首をかしげるルージュに、彼女は鋭い視線を浴びせた。


「正直、納得のいかない部分があります。たとえ、神といえども──」

「ち、ちょっと、ルドミラさん……」


 驚くフィオーレに軽くうなずき、ルドミラは続けた。


「最初からもっと強い力を得ていれば、あたしたちは魔王すら倒せたのでは?」

「神の御心を疑ってはいけませんよ、ルドミラさん」


 ルージュが微笑んだ。


「でも、魔族の侵攻で多くの犠牲が出ています。あたしの故郷だって──」

「神の御心を量ってはなりません。神の御心に背いてはなりません。神の御心を疑ってはなりません」


 ルージュが、まるで呪文のように告げた、

 以前に勇者ギルドの上層部から言われたのと、同じ台詞だった。


「ただ信じることです。神を」

「あたしは──」


 ルドミラはうつむき、唇を噛みしめた。


 信じられるのだろうか。

 人は、ただ神の手の上で踊っているだけではないのだろうか。


 漠然とした不安感が、ルドミラの胸をよぎる。


 消えない、不安感が。

次回から第5章「魔導の極限」になります。

ふたたび主人公フリード視点に戻ります。

4月14日(土)に更新予定です。

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