7 魔王たちの激闘
俺の攻撃魔法は巨人の魔王──『巨大なる覇者』ボルンを跡形もなく消滅させた。
「ボルン殿が……!」
「奴の巨体を破壊するとは……なんという魔力か」
「ふん、攻撃力はなかなかのものだ」
残る三人の魔王たちが同時にうなる。
「攻撃力が高くとも、防御はどうかな!」
魔法使い風の魔王──『魔導帝』エストラームが叫んだ。
先端に血のように赤い宝玉がはめこまれた杖を振りかざす。
その宝玉がまばゆい光を放った。
「『メガウィンド』!」
十二の竜巻が俺の周囲を取り囲む。
森の木々が根こそぎ吹き飛び、地面がえぐれてクレーターと化した。
風系統の最上級魔法──『轟天の烈風』。
このレベルの呪文を即座に、しかも十二発も同時に発動できるとは。
さすがに魔王だけあって、大した魔力だ。
だけど──、
「『バーストウィンド』!」
俺はそれらを風魔法で弾き返した。
呪文のランクは俺が唱えたもののほうが下だが、魔力のステータスは俺の方が圧倒的に高い。
その差を利用した力押しで、強引にかき消したのだ。
「むう、私の魔法をたやすく跳ね返すとは」
エストラームがうめいた。
「やはり魔力が高い……!」
「なら、物理攻撃で攻めるまでよ!」
背後から獣人の魔王──『真紅の獅子』ロスガートが襲いかかる。
「砕け散れ、新米魔王!」
大気を爆砕し、烈風を起こしながら迫る、五本の爪。
防御は間に合わない。
俺は大きくサイドステップして避けた。
直後、ロスガートの爪が地面に叩きつけられる。
ごがぁっ!
轟音とともに大地が深々と裂けた。
「とんでもない膂力だな……」
俺は半ば驚き、半ば呆れてつぶやいた。
爪だけで地割れを作るとは常識外れのパワーだ。
「よく避けた! だが獣の武器は爪だけではない。牙も、尾も──すべてを避けられるものなら避けてみるがよい!」
ロスガートはすかさず追撃してくる。
大気を切り裂いた牙が真空の刃を生み出す。
旋回した尾が衝撃波をまき散らす。
避けたところで、攻撃エネルギーの余波で体をズタズタにされそうだ。
「『ルシファーズシールド』」
が、距離を離した分、俺には呪文を詠唱するだけの余裕があった。
生み出した上級魔力障壁がロスガートの連撃をすべて弾き返す。
「硬いっ……! ワシの攻撃でも砕けんだと!?」
「じゃあな」
すべての攻撃動作を終え、一瞬動きが止まったロスガートに、俺は右手をかざした。
「『ベルフェゴールソード』!」
生み出した魔力の剣で、魔力障壁の裏から奴の体を貫く。
「がは……ぁぁぁっ……」
苦鳴とともに倒れ、動かなくなる獣人魔王。
あと、二体。
「確かに貴殿のステータスは高い。高すぎる」
騎士の魔王が俺の前に立った。
黒い騎馬が俺を威嚇するようにいななく。
「だが戦いとは単純なパワーやスピードだけで決まるものではない。それを教えてやろう」
「ぜひご教授願いたいもんだ、先輩」
俺は『ベルフェゴールソード』を構え、魔王としての先輩に言い放った。
相手は接近戦を主体するタイプだろう。
遠距離から攻撃魔法で一方的に倒せれば話は早いが、あまり威力のある魔法を使うとこの世界自体が壊れかねない。
そして世界が壊れるということは、ステラたちにもダメージがあるということだ。
「いいだろう。指導の時間だ」
告げて、ヴリゼーラが騎馬を駆けさせた。
速い──!
まさしく人馬一体。
迎撃の呪文を唱える間もなく、ヴリゼーラが俺の間合いまで侵入する。
「ぬん!」
馬上から撃ちこまれた剣を、俺は魔力の剣でかろうじて受けた。
さらに二撃、三撃──。
巧みなフェイントを交え、稲妻のように打ちこまれる剣先を俺は凌ぎきれない。
「『ベルフェゴールソード』!」
左手にも魔力の剣を生み出し、二刀流でどうにか防ぐ。
「ぬるい!」
ヴリゼーラの剣がさらに加速した。
二本の魔力剣が半ばから切断される。
こいつ──俺が生み出した魔力でさえも斬れるのか!?
「『ラグナボム』!」
驚きつつも、俺はカウンター気味に攻撃呪文を放った。
「ぐっ……!」
ヴリゼーラは苦鳴を上げて吹き飛ぶ。
ふたたび距離を取って対峙する俺と騎士魔王。
間一髪、呪文が間に合ったが、今のは少し冷やりとした。
さすがに、相手も魔王だけのことはある。
しかも、あいつの剣技には見覚えがあった。
「ザイラス流剣術に似てる──?」
「ザイラス? ふん、かつて私が戯れに剣を教えた人間の名だな」
ヴリゼーラがかすかに笑った。
ザイラス流剣術──。
俺が人間の勇者だったころに使っていた流派で、大陸に広く伝わる最強剣術の一つだ。
創始者ザイラスは数百年前に『剣聖』と謳われた不世出の天才騎士である。
今の口ぶりだと、そのザイラスに剣術を教えたのがヴリゼーラということになるが……。
「なるほど。彼は後世に自身の流派を残したというわけか」
つぶやく騎士魔王。
「しかし、人間の剣術に詳しいようだな、今代の魔王は」
「……!」
「どうした? 迷いが見えるぞ」
ヴリゼーラが騎馬とともに駆け、ふたたび俺の間合いに侵入した。
「『メテオブレード』!」
俺は炎の剣を生み出し、反射神経を全開にしてその斬撃を凌ぐ。
だが、すぐに防戦一方になった。
攻めるヴリゼーラ。
防ぎ、避ける俺。
十数合の攻防の後──、
「くっ……」
右肩に熱い痛みが突き抜けた。
同時に鮮血が飛ぶ。
鮮やかなフェイントを織り交ぜた剣が、俺の見切りをわずかに上回ったのだ。
「身体能力だけで防げるほど甘くはないぞ。私の剣は」
淡々と告げるヴリゼーラ。
斬撃はさらに加速し、無数の流星のように四方から俺に襲いかかる。
高ランクの呪文を唱える余裕はない。
「『ファイアアロー』!」
とっさに数十単位の火矢を生み出し、放った。
「無駄だ!」
そのすべてをヴリゼーラは一瞬で切り裂いた。
爆風が弾け、俺は風圧で大きく後退する。
「いや、狙い通りだ」
「なるほど、今のは攻撃ではなく、爆風を利用して間合いを取るのが狙いだったか」
ヴリゼーラがまた笑った。
「力押しだけでなく、自身の力を利用した戦いもできるようだな」
「それなりの場数は踏んでるんでな」
主に、人間だったころにな。
「なるほど、魔王を継ぐだけのことはある」
ヴリゼーラの構えが変わった。
「ならば、この一撃も受け切れるか?」
左手に剣を持ち、右手だけで手綱を握り、極端な前傾姿勢へと。
同時に、ヴリゼーラの剣が青白い雷光をまとった。
「絶技『破魔の雷閃』──極限まで対魔力を高めた斬撃は、あらゆる魔法防御を切り裂く。そしてその速度はいかなる魔族も反応できない超々速。貴公にこれが破れるか?」
つまり、回避も防御もできない絶対の必殺剣──というわけか。
「なかなか厄介だな」
俺は仮面の下で小さくうなった。
……勝つ手は、ある。
最上級魔法であるメガ系の攻撃呪文を使えば、おそらくヴリゼーラを倒せるだろう。
少なくとも大ダメージは与えられるはず。
だが、その攻撃は夢幻の世界そのものを破壊しかねない。
「ステラたちが死ぬようなダメージを負うかもしれないんだよな……」
だから、この案は却下だ。
この世界にはダメージを与えず、ヴリゼーラだけを仕留める魔法が必要だった。
俺は呪文リストを呼び出し、探す。
だが、表示されたのはメガ系の呪文ばかりだった。
このリストは基本的に、状況に最適な呪文が表示される。
ただ『状況に最適な呪文』という定義は、あくまでも『敵に勝利すること』を最優先しているみたいだ。
仲間を守る、という部分は考慮されていないみたいだから、そこは自分で選び直すしかない。
「さあ、どうするか……!」
俺は小さくうめいた。
迷っている時間は、残されていない。
今、決断するしかない。
勝つために。
ステラたちを守るために──。
総合評価が25000ポイントを超えていました。ありがとうございます。
感想やブクマ、評価などいつも励みになっています。
これからもがんばります(*´∀`*)
※
感想欄で要望のあったヴリゼーラ以外の魔王のステータスです。読まなくても本編には影響ないので、興味のある方のみドゾー(´・ω・`)↓
名 前:エストラーム
階 級:魔王
総合LV:698
H P:2099
M P:7311
攻 撃:5800
防 御:4917
回 避:5032
命 中:6333
装 備
:魔血杖
:闇のローブ
スキル
:魔弾 (LV171)
:魔力増幅(LV144)
:高速詠唱(LV157)
:魔軍服従(LV140)
───────────────────────────
名 前:ロスガート
階 級:魔王
総合LV:713
H P:7005
M P:1247
攻 撃:6230
防 御:3912
回 避:6211
命 中:5393
装 備
:なし
スキル
:覇者の爪撃(LV162)
:斬風牙 (LV160)
:破壊の尾 (LV155)
:魔軍服従 (LV157)
───────────────────────────
名 前:ボルン
階 級:魔王
総合LV:707
H P:7530
M P:2292
攻 撃:6584
防 御:6331
回 避:1162
命 中:3777
装 備
:覇者の眼
:覇者の護符
スキル
:巨大化 (LV142)
:身体硬化(LV127)
:威圧 (LV174)
:魔軍服従(LV133)