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8 魔王VS冥帝竜

「さあ、覚悟を決めるんだね。ボクを力で屈服させてみなよ」


 牙の端に王冠を引っかけたまま、竜が挑発的にうなった。


「この王冠を君が奪えたら、ボクは負けを認めよう。ただし──」


 ごくん、と王冠を飲んでしまう。


「このとおり、ボクを倒さない限り、王冠は渡さないけどね」


 王にふさわしい力を示して、従える──リーガルのときと同じような要求か。


「俺は別の竜に乗るって言ってるだろ」

「怖いの、ボクが?」

「だってお前、構ってほしいだけだろ?」

「か、かかかかかか構ってちゃんじゃないんだからねっ」


 めちゃくちゃ動揺する竜。

 図星だと白状しているようなものだ。


 ──とはいえ、だ。


 魔王の専用乗騎というからには、今まで乗騎として使っていた魔竜よりもたぶん高い能力を持っているだろう。

 魔界の巡回や戦闘時などに、高速移動手段は重要だ。


 できるなら、より優秀な竜を乗騎として確保しておきたい。

 それに、何よりも、




『強く、信頼できる臣下をそばに置くことじゃな。それも、一人でも多く』




「──だったよな、先輩魔王様」


 ユリーシャの言葉を思い返す。


「俺が力を示せば、お前は乗騎になってくれるのか」

「ボクを認めさせるほどの力を見せれば、ね」


 うなずく竜。


「君のために数多の戦場を翔けることを約束するよ」

「分かった。受けてやる」


 俺は中空で羽ばたく黒い竜を見上げた。


「この一帯は死の氷原といって、生物がいっさい住まない場所なんだ。ここでなら気兼ねなく戦えるね」


 冥帝竜ベル・ガ・エルフィーダが息を吐き出す。

 吐息は衝撃波となって氷の大地を薙ぎ、砕いた。


 ただ呼吸をするだけでこのレベルか。

 こいつ、強いぞ。


「ボクは竜種の中で最強の位階である『ガ』の眷属──さあかかってきなよ、魔王様」

「じゃじゃ馬を飼い馴らすとするか」


 馬じゃなくて犬だけど。

 いや、竜か。


「こないなら、こっちからいくよ、『シャドウブレス』!」


 竜の口から黒い光弾が放たれた。


「『ルーンシールド』」


 俺は魔力障壁を張って、易々と受け流す。


 それから、浮遊呪文で竜と同じ高度まで浮かび上がった。


 間近で見ると、一段と迫力がある。

 最強の竜種にふさわしい威容だった。


「へえ、今ので無傷か」


 眼前の竜が、ふしゅう、と息を吐く。


「『シャドウブレス』はすべてを消し去る虚無のドラゴンブレス。最大出力ならこの一帯が消し飛ぶ威力を持ってるんだけどね……」

「火力はなかなか高いみたいだな」

「これだけで判断してもらっちゃ困るなぁ。今のはただの小手調べ。次はもっと──」


 言うなり、竜がふたたび光弾を吐き出す。

 今度は、二つ。


 だけど俺の魔力障壁は突き破れない。


 ──いや。


「『ディバイド』!」


 竜の呪文とともに、二つの光弾が分裂して数十に分かれた。

 俺の周囲を取り囲み、いっせいに迫る。


「これで回避は不可能。この数の光弾を防ぎきれるかい、新魔王くん?」


 竜が勝ち誇った。


 この間戦った四天聖剣(セイクリッドエッジ)のルドミラは、同じ場所を連続攻撃することで障壁を砕いた。

 そのときと同等以上の衝撃を受ければ、『ルーンシールド』といえども破損するだろう。


 迫りくる光弾群は、そのレベルの威力なのか、どうか。


「『ルシファーズシールド』」


 俺は、より高ランクの防御呪文を唱え直した。

 今までの魔力障壁に代わり、薄紫色をした新たな魔力障壁が出現する。


 すべての光弾はその障壁に阻まれ、あえなく霧散した。


「耐えきった……!?」

「『ルーンシールド』のままなら、打ち破られてダメージを受けていたかもな」


 俺は竜を見据えた。


「もしかして魔軍長や四天聖剣(セイクリッドエッジ)より強いんじゃないか、お前?」

「ボクはあくまでも乗騎だよ。基本は戦わない」

「そんなに強いのに、か?」

「戦うより、空を翔ける方が好きだからね。気が向いたときしか戦わないのさ」


 竜が笑う。


「それともう一つ──誇りを守るためなら、ね。全力で戦うよ」

「誇り? 俺を乗せるのは、そんなに屈辱か?」


 というか、別に無理強いする気はないんだけどな。


「ああ、これ以上ない屈辱だね」


 竜の声音が変わる。


 明るく天真爛漫な声音から。

 憎悪を含んだ、暗い声に。


「神話の時代、魔族と神々は激しい戦いを繰り広げた──」


 竜は、回想するように目を閉じた。


「戦いは魔軍が優勢だった。だけど、やがて戦況は一変した。神々によって魔族の力の大半が封じられ、弱体化。同時に、人間に聖なる武具『奇蹟兵装(きせきへいそう)』が与えられたんだ」


 それは、ユリーシャから聞いた話とも一致する内容だった。


「魔軍は神と人間によって敗走し、その後も勇者たちによって魔族は狩られ続けた。ボクの仲間も大勢殺された──」


 ぎりっ、と音が聞こえた。

 竜が牙を噛み鳴らす音だ。


「その恨みがあるから、魔族は人間を憎むのか?」

「ああ」


 俺の問いに、うなずく竜。


「もちろん、一方的な恨みじゃないのは知ってるよ。魔族だって人を襲った。互いに殺し、殺された」


 竜は深い息をついた。

 怒りや憎しみ、悲しみや絶望……きっと、その吐息にはさまざまな感情が含まれているんだろう。


「殺しは殺しを呼び、憎しみは連鎖する──人と魔は、どちらかを滅ぼすまで戦い続ける」


 俺自身も、魔界や人間界で勇者を何人も殺した。


 殺すまでもなく無力化したり追い払える状況では、そうしたけれど。

 魔族たちを守るために、殺さざるを得ない局面も少なからずあった。


「それを──止める方法はないのか?」


 みんな仲良く、なんてきれいごとじゃなくても。

 どこかで線引きをして、互いに不可侵になれるような状態に──なれないんだろうか?


「さあね」


 竜の翼が大きく広がった。


「お話はここまでにしようか。君の力を見極めるために──再開だ!」


 次の瞬間、黒い巨躯が旋風と化した。

 ヘルハウンド状態のとき以上の超々速!


「今度は受け切れるかな!」


 そこから両翼での突風、突き出した牙からの斬撃波、そして黒い光弾、という三連コンビネーションを放ってくる。


 俺の『ルシファーズシールド』はビクともしなかった。

 安定の防御力だ。


 三連攻撃の余剰エネルギーが白と黒の地表を走り、はるかかなたまで突き進んだ。

 遠くで爆光が閃く。


 さっき以上の、とんでもない破壊力だった。


「……魔族の居住区にまで被害が出てないだろうな?」


 仮面の下で顔をこわばらせる俺。


「へえ、戦いの最中でも民の心配?」

「王なんだから当たり前だろ」

「……ふん」


 竜がうなる。


 ふしゅう、と吐息が炎を孕み、大気を焼いた。

 全身から吹き出す闇の魔力は、さらに増大している。

 すさまじい殺気は物理的な衝撃さえ伴い、辺りに吹き荒れている。


「竜形態のボクは、戦えば戦うほどに高ぶり、理性も感情も消えていく。やがてはすべてを破壊する魔獣となる──止めたければ、殺す気で来なよ」

「殺しはしない」


 俺は魔力を集中した。


 こいつが相手なら、少しくらい本気でやっても耐えてくれるだろう。


「一緒に戦ってもらう。これからのために、な」


 強い臣下を、集める。


 それは、『魔王剣の欠片』という弱点を抱く俺の力をカバーするためだけじゃない。


 いずれ魔界と人間界の戦いを終わらせるための──。

 その力の一つに、なってもらうためだ。

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